101-9 Q:愛している、ならばなぜ、犠牲になることができない?
床を埋める、大量の召喚陣。
そこから現れるのはまず、おれたちもまだ戦ったことがないような大物。
シオンの『フルムーン・ファインダー』、それと連携したアプリ『フルムーン・ミラー』のチカラで、その名前とステータスが列をなして脳内に流れ込んでくる。
一言でいうなら、すべてEXランク。
ソーヤがまっさきに声を上げた。
「ベヒモス、レヴィアタン、ジズっ……おいちょ、うそだろ?!
究極レア食ざ、じゃねえ陸海空の古龍がなんで一堂に会してんだよおいいい!!」
さすがは『グルメハントのために高天原に来た男』、ぶれない。それでもしっかりシオンを背にかばって抜刀し、ダーツも用意しているのだけれど。
ミズキもミライを背中に抜刀。冷静な口調で続ける。
「ズメイ、クエレブレ、オウリュウ。
かれらも大いなる守護龍だ。この中の一体だって、ひとひとりのチカラで召喚できるようなものじゃない。
GMの加護によるものだね、間違いなく」
「ふむ、クゼノインの御曹司ともなれば、よく分かっているようだね。
そう、いまは我こそが、世界の女神の加護を得た正義。
それに歯向かい、かなうわけはない。
投降したまえ、ミライ君といっしょに。
そうすれば、君たちと愛する人々の無事は保証しよう」
ルクが懐柔に出るが、ミズキは微笑んでキッパリ。
「俺は、俺たちはすべての人々を愛しています。イツカやカナタとおなじように。
世界のひとびと、すべての無事と平和を保証してくださるというなら、俺たちも剣を下ろしましょう」
「ああ、保証するとも。さあ」
「『ただし転生後の』、だろ?」
「『でもってこの召喚コストはしっかりと払ってもらう』、だよな?」
あまったるく微笑んで手を差しだすルクだが、アスカとニノにすかさずツッコミを入れられムッとした顔になる。わかりやすく図星のようだ。
ニノは抜刀、アスカはハヤトともどもモードチェンジしつつ陽気に笑う。
「はーなるほどなるほど。この膨大な召喚コストで俺らいたいけなびしょーねんたちを平和裏に借金漬けにしようってなわけかい! いやーたいしたせーぎだね! 血も涙もありゃしねえわ!!」
「つかこっちが勝ってもあいつタカシロだからどのみちウチの払いだわ! かんべんしてよまじさあ!!」
「安心しろ、これはゲームなんだろ。運営の腹積もり次第でどうとでもなる――人件費以外はな。
それくらいは彼らの私財で賄えるだろ」
最後にイズミが眼鏡を直しつつ、みもふたもないことをのたまわる。
寡黙に抜刀するハヤト。そのぶん、ライカ本体がしゃべりだす。
『まっだーいじょぶさあ。つよーいミカタもいるみたいだしねん♪』
『強い味方』。主に経済的にだろう。
いま古龍の巨体の下に現れたのは、若干見覚えがあるような、ないような、数匹の獣人たち。
『フルムーン・ミラー』からの情報はその正体を遠慮なく告げたが、とうのシオンは小さく息をのんでいる。
かくいうおれも少なからず驚いた。なぜって。
「そう、これはアカシたちだ。
WWで、先祖がえりのチカラに目覚めてもらったよ。
ああ、ご心配なく。ほかにも技術者はいる。『カルテット』ばかりを働かせはしないよ――かれらにはまだまだ、金の卵を産んでもらわねばならないからね」
「いやなんでそれがビーストモードなんだよいろんな意味でっ!!」
イツカたちが声を合わせた。そう、アカシたち『レジスタンス』の面影を宿したかれらは、人間の表情を失っている。
心身への過負荷で陥る『ビーストモード』といわれる状態だ。各種リミッターが外れ、段違いの強さを発揮するが、当然心身に悪影響がある。長く続けば、『人』に戻ることができなくなる危険すらある状態だ。
全身いたるところが毛むくじゃらで、骨格すら一部人を離れている。さらに荒い毛並みの下からは、とりどりの蛍光色で描かれた文様がのぞく。
ソラが怒りで声を震わせた。
「いいたいことは、いろいろあるけど。
3S、……七種、全部憑けてるってどういうこと。
こんなことしたら、壊れちゃうかもしれないだろっ?!
今すぐやめろ! 酷すぎるっ!!」
ソラは『3S多重憑依実験』――安全性も保障されないまま、強引に進められたそれに苦しんで、一時はまともにひととしての生活ができなかった。
たとえ相手が敵側でも、その苦しみを知っている彼は看過できなかったようだ。
対して、ルクは笑った。
「アカシたちがそれを望んだのだよ。
すべてをかけて、我が力になりたいと。
自らを犠牲としてでもミッションを進め、愛する祖国を救いたいと!!
彼らはこうして何度も転生し戦い、魂を鍛え上げてきた。よってこの戦いで死すれば彼らは上位世界に迎えられる。もはやなにも迷いはない!
お前は、お前たちはどうなのだ。
世界の人々を愛している? なのになぜ、己を、その夢を、犠牲にすることができない?!
お前たちのそれは偽善だ!! そうしてだだをこねていればだれかがどうにかしてくれる。犠牲になってくれる。そんな、甘ったれた子供の論理に過ぎない!!」
「おっしゃりたいことはそれだけですか?」
そこまで聞いておれとおれは、顔を見合わせて笑った。
「そのことば、そっくりお返ししますよ」
そして、反撃を開始した。
今年中には終わらないといったな。あれは、マジだ。
次回、戦いはひとつの決着へ!
どうぞ、お楽しみに!!
明日もこのくらいに投稿できるといいですが、かなり予定が詰まっており少々不透明です^^;
そのため、今のうちに……
皆様今年もまことにありがとうございました!!
来年も輪をかけて精進いたします。
どうか、よろしくお願い申し上げます!!
みなさま、よいお年を!!
※三が日は「書けたら投稿」となります!




