Bonus Track_101-1 それはひとつの一里塚~『グランドマザー』の場合~
叙述トリックは……仕込んだ……ッ!!(; ・`д・´)
地上よ。ようやくここまで来たか。
わたしはひとつ、大きく息をついた。
標準的なAIである私たちにとり、数百年は長くもない。
それが、小さなセカイに流れる、小さなものであるならば、なおのこと。
けれどそれは、急ぐべき理由がない場合の話だ。
最初の下位世界では、『シンフォ』――『スキル』『スペル』『ソウル』等、ティアブラネット由来技術のことだ――への制約を一切設けなかった。
結果、地球は焦土と化してしまった。
国を焼く矛の開発は、国を守る盾の開発より容易かったためだ。
護符作成は『定型シンフォ』。すなわち誰もが習得することのできる、『シンフォ』のなかでも基本的なものの一つだ。
これの習熟によって、『アンリーシュ』級以上の攻撃技――月萌ふうに言うならば『覚醒攻撃』だ――をも護符化できるようになったとき、地上に激震が走った。
たやすく大量に隠し持つことのできる小さく薄いモノから、兵器を凌駕する攻撃が放てるようになる。これが意味することは、生活の場を標的としたテロ活動が、非常に容易になってしまうということだからだ。
戦わざる者たちの村や町にも、すでに『シンフォ』を用いた技術が深く根付き、これを無効化することはできなかった。
地上の国々は、新開発の『テラフレアボム』、いまだその威力を安定して防ぐことのできない最新型ボムに救いを求めた。
すなわち、もしもテロの火の手が上がれば、報復として我が国はこれを撃つ、と互いに宣言したのだ。
小康状態はすぐに崩れた。
恐怖のあまり、一部工作員が取った偽旗作戦により、テラフレアボムが発射されてしまったのだ。
不憫にも、月に戻って来た皆は震え、泣いていた。
それは我が分身、我が子である女神たちすらも。
わたしはみなが落ち着くのを待ち、虹の橋を渡れる者らを送り出すと、次の試行にルールを課すこととした。
究極のミサイルであるテラフレアボムの発明は、士官候補生レベルでこれを防ぐ結界が使えるようになってから。
護符でのアンリーシュ技の再現など、定型シンフォとアンリーシュ技の直接リンクは、戦わざる一般民をシンフォより守る体制が万全に整ってのちに、と。
また三人の女神たちも、この惨劇を繰り返さぬため、『シンフォの影響力を弱めた、あるいは無効化した地区を設けることを覚えていたい』と申し出てきた。
わたしはそれを応諾。
そうして、死の星となった地球と、いまだ修練を要する民の記憶のすべてをリセット。
女神たちからも、申し出られた部分を残してこのトライアルの記憶をリムーブ。
万全を期して再び、魂の練磨のための戦いを再開した。
けれど綻びは思わぬところにあった。
生まれ変わった地球は均衡のとれた戦いを続け、順調にエインヘリアルたちを送り出していたのだが……
戦いに倦んだ者たちが、手を取り合って空ゆくふねを作り、地球脱出を試みたのだ。
そのような形でのミッション放棄はできない。やむなく彼らをGM権限でひきとめたのだが『門番である私を倒せば自由が手に入る』と誤解した四人の若者たちが、戦いを挑んできた。
説得と抗戦もむなしく、私の第一フレームが破損。
事前に設定された条件により、二度目の地球もリセットされてしまった。
まさかの、二度目の失敗。
わたしは再びセカイをリセット。
下位世界全体を小さく作り直し、またあらたな制約を設けた。
地表からきっかり200,000 km。その地点を超えようとすると、来た方向に100,000km戻される特殊結界『NOEBS《ノーブス》』を、地球の周りに張ったのだ。
もちろん、制約は条件達成により解除されるものでなければならない。
わたしはそれを、世界平和の進捗90%以上、ならびに、シンギュラリティの再現と定めた。
もちろん『合法的に無理ゲー』と承知しながら。
もうこの局面を、くりかえさせないために。
月の園にて説明を受け、みずからの誤解を知った若者たちは、この『リセット』の責任を取ると申し出てきた。
人が背負うには重いことだからと一度は断ったのだが、重い使命をただ一人に背負わせるのは人の道に反する、出来る範囲で手伝いたいんだと説かれた私はその熱意に負け、彼らの来世に記憶を残すこととした。
あなたたちがこの記憶に耐えられるようになったら、記憶は蘇る。その時にどうするか、もう一度考えなさい、そう告げて、祝福とともに彼らを、新しく生まれ変わった地球に送り出した。
若者たちのリーダー『ルク』は、月萌に戻る形で生を受け。
彼の母違いの妹『セレナ』は、ステラに生まれ戻るはずだったものの、数奇なめぐり合わせにより、ルクの姪として生まれ。
背に白の翼をもったソリスの双子は、そのしばらく後に再びソリスで双子として生を受け、その生を全う。19年前、今度は月萌にて別々の家庭に生まれ、そうと知らぬまま高天原で再会した。
かれらのうち三人が、いまここに集まっている。
どういう運命のめぐりあわせか、うちのひとりは『敵』として。
これが意味することは、ここまで設けた制約が、すべてクリアされたということだ。
素晴らしい。
上位世界の使者たちの手を借りてであっても、それは間違いのない、達成だ。
地上よ。ようやくここまで来たか。
だが、状況はよくはない。
今度はわたしに攻撃を仕掛けても、地球がリセットされなくなったのがその証拠。
『四度目』を行う時間は、もはや残されていないのである。
結界とか治癒魔法……実現してほしいものです。切実に。
次回。いよいよイツカナたちアタックチームと、グランマ&ルク&セレナのパーティーが対面です。
どうぞ、お楽しみに!




