100-8 夢か現か? 月裏の不思議!
地球と月をつつむ宙域には、現在二つのネットワークが敷設されている。
ひとつは、ティアブラネットワーク。
いまひとつが、ライカネットワークだ。
双方とも、きらきら光る小さなノードをいくつも宇宙空間に浮かべ、ネットワークを維持している。
影響が強いのは、ライカネットワークのほう。AIとしてのレベルが高いのがライカであるためだ。
よってたとえGMが『NOEBS《ノーブス》』――月面への到達を阻むための特殊結界――を復活させておれたちを阻もうとしても、それを阻止することができる。
さらに、このスペースプレーン『そらふねIII+』、そしておれたちの身を守るスペーススーツはスキルを用いずに制作・修繕・メンテをされたフルハンドメイド。
最悪、イツカの『ブラックムーン』でスキルを無効化しても、道行きに問題は発生しない。
ただ、そうしておけるのはおそくとも月面着陸まで。そこからはふたたび、スキルを使い、進まなければならない。
なぜなら月の現状で分かっているのは、表側表面の様子だけ。GMが稼働していると思われる月面裏、もしくは地下の様子はブラックボックス状態なのだ――地上で何度か、さまざまなサーチ系スキルをおれとリンクしたうえで使ってみたが、さすがに月までは遠すぎた。
そのためスペースプレーンで距離を詰めつつ『フルムーン・ファインダー』を月に向け、なにかが見えたらシオンお手製の表示アプリに取り込み、そのデータをもとに、どう行くかを考える、そういう手筈だ。
いまシオンと手をつないでリンクしているのは、離陸前のじゃんけんで権利を勝ちとったもうひとりのおれ。
やつは目を閉じて、シオンは眼鏡の奥の大きな目をぱっちりと開けて、窓の向こうの月、その裏側へと意識を凝らしてる。
ちなみにソーヤとアスカはなんか「うさうさ尊い」とか言い合ってる。どうしてそうなった。
そんなことを思った時だ。
「……あっ」
「あっ」
二人が同時に声を上げた。
「え、……ええっ……」
「この景色、……まさか」
シオンのアプリの画面は壁面モニターに表示してある。
そこに描き出されていたものは、星の天蓋に覆われた岩の大地……ではなかった。
森と草原。遠く、動物らしき影も見える。
それらの上には青い空、白い雲。
なんと太陽もきらきらと照っている。
『おい、……おい、どうなってんだコレ?!』
『うそだろうオイ?!』
『なんなんだよこれっ?!』
ホシノ博士たちまでが慌てる声が聞こえる。
「そんな、月の裏側に、地球と同じような光景が?!
いや、しかし、太陽がある……一体どういうことだ……?」
リュウジさんも驚愕の表情。画面と、窓の外の月を何度も見比べる。
ミライもあれっという顔をしている。
「これ、……ここ、もしかして……!」
「うん、……似てる」
もうひとりのおれとうなずきあう。
ミズキが優しく問いかける。
「なにか、心当たりがあるの?」
「うん、あのね、……なんか似てるの。
ミルド平原……ミルドのまちの近く、森を抜けたとこにある平原に」
そう、その景色は、なつかしのミルド近郊によく似ていた。
「空気や気温は……地球とおんなじっぽいんだよな。
これ、実際行ってみたほうが早くねえか」
「だな。ここは第一次探査隊Aで行こう。あと頼んだ」
白イツカが行こうといい始め、こっちのイツカがさくさくと探査隊をチョイス。
顔ぶれはイツカとおれ、リュウジさん、ソラ。そしてホシノーズのなかで最強の戦闘力をもつ俺っ子『アリア』さんだ。
『そらふねIII+』を月面から10mの高度まで降下。おれたち五人は着陸用ユニット『イーグレット』に乗り込んで、月表にふわふわと降りて行ったのだった。
珍しく『水分積極的に取らなくちゃ!』と思い立ってお茶を飲んだらおなかの具合が……慣れないことはするもんじゃないな……orz
次回、新章突入!
ついに月に至った一行。その裏側に広がる、なぞの楽園の正体は?
どうぞ、お楽しみに!!




