99-6 ソリステラスの月と、魂の園~もしくは一点の曇りもなきブラコンあらわる~
「いやいや! なんでいるんですシグルドさん?!」
「それは、スポンサーですから!!」
「………………はい?」
念のため言っとくと、今朝まではそんな情報なかった。これは。
もうひとりのおれがいい笑顔で確認する。
「こんどはいったいだれと結婚したんです?」
「はうっ! ちがいますよう、わたしはむじつです!
っていうか前回結婚したのは父上で、今回は大叔父上ですから!!
……じゃなかった、ふつーにこの昼にスポンサー参入がきまっただけでっ」
慌てながらもどこかうれしそうなシグルドさん。その口から一瞬なんかおかしい言葉が聞こえた気がしたが、ともあれそういうことらしい。
もうひとりのおれの笑顔がちょっと優しくなった。
「そういうことならメールでも下さればいいのに……驚いちゃいましたよ」
「ふふ、すみません。あなたの驚くお顔が見たくって。
こうみえて、わたしも学者の端くれ。かならずやお役に立ちます」
「ええ。よろしくお願いします」
そうして二人は握手。一連のやり取りに拍手が起きた。
清らかなハートのもちぬしであるライムは心から感動したようで、ニコニコしながらはくしゅはくしゅ。もちろん、となりのおれも見習っておくことにした。
シグルドさんは自称『カナタさんの番犬』。もとはもうひとりのおれを政敵として狙っていたが、いろいろあって今はメロメロ。その愛のチカラで配下の開戦派もことごとく『カナぴょんシンパ』に仕立て上げてしまった、人心掌握のスゴ腕だ。
そんな彼の学者としての彼の本業は、なんと天文学であるという。
アルム島にいた時、彼はおれたちに話してくれたものだ。
『女神を統べる大いなる女神は、あの月におわす。
その認識は、ソリステラスでも同様です。
魂の帰る場所が、彼女のみ元であるということも。
これはただの迷信ではなく、事実、天にかえる魂たちの反応は、月へと向かっていることが観測されています。
正確には、月の裏側。
おそらくはそこに『グランドマザー』の本体があるのでしょう。
そして、そこで魂たちは振り分けられるのでしょう――充分に成長を遂げ、『上位世界』へと送られるものと、足りぬところを補うため、新たな命として地上に戻されるものに。
一部、その時の記憶をかすかに宿す者たちもいます。
彼らが言うには、女神のみもとにある魂の園は、絵本でみるような『おとぎの国』だということです。
ティアブラ・ミッドガルドはおそらく、そのイメージで作り上げられた舞台なのでしょうね』
……と。
かなうなら、この目で見てみたいものです。月を見上げてそう語る彼は、まるで少年のようだったものだ。
そして、今ここで最愛の弟にこそっとツッコミくらって笑顔になる彼も。
「ちょっと兄上? 大事なことなんだからちゃんとメールしとけって言ったじゃないですかっ。
もう、せっかくカナタさんとメールする機会だと思ってご報告譲ったらこれなんですから……」
「そう思うのでしたらレムが兄の手綱を取ってもいいのですよっ?」
「いーえ、お断りしておきますっ。
あんまり調子ぶっこいてカナタさんに愛想をつかされないでくださいね? 弟の僕が情けないんですから!」
「はい、それはもう!
ふふふ、レムのおしかりはやっぱり最高です☆ もっと言ってくださってもいいのですよ」
「ダウトっ!!」
いや修正。一点の曇りもないブラコンだった。
手綱を取られたい系男子・シグルドさん。
初登場の時から印象変わりすぎ……。
次回、そうそうたるプロジェクトメンバーご紹介の予定。
ほとんど知ってる人ばっかだからきっと何とかなる!
どうぞ、お楽しみに!




