Bonus Track_99-2 抗えぬサガ! クラフターの好奇心! ~レンの場合~
2022/11/28
やらかしました!
『Fly Me to the Moon』
↓
『Reach the Moon』
ボマーはボムを投げてるだけでいいからラクだ、なんてのはトーシロの考えだ。
投擲を行う腕。投げるべき勘所を判断する頭脳。どっちもフル回転となる。
さらにオレは覚醒技で爆発を制御する。
だから、終わった時にはその場で後ろにひっくり返った。
チアキが「おつかれさま」と撫でてくれるやさしい感触の中、意識は沈んでいった。
ふっと目を開けるとそこには、うれしそうなチアキの顔があった。
「わあ、レン! 気がついたー!
だいじょうぶ? どこもいたかったりしない?」
「おう、どっこも……
ってか、コレどーいう状態だ?」
身を起こせば、オレをブッ倒さないようにしながらも、ぎゅーっと抱き着いてくるチアキ。
しっぽぱたぱた、まるっきりわんこのような喜びように癒されつつも、目に入った景色にぽかんとしてしまった。
オレの左右には、何人もの野郎どもが横一列にブッ転げていた。
ちょうど、水揚げされたマグロのように。
「あのね、レンたちは疲れたけれど、ほかに異常はなし、って診断されたの。
だからここで、しばらくおひるねだったんだよ。
僕はここで、みんなのめんどうをみてたの!」
なるほど、優しいチアキには適任だ。
何かあれば、シャスタのチカラで簡単な治療もできるし。
「疲れただろ、かわるか?」
「ううん、だいじょぶ。
レンは飛べるから、高いところの片づけ手伝ってあげて。
インベントリのおべんとう食べて」
べんとう、と聞いたら腹が鳴った。
そう、今日は朝からバトルなので、昼の弁当はあらかじめインベントリに支給されていた。そして今は昼をだいぶ過ぎたころ。
「チアキは?」
「えへっ。
待ってたの。レンとたべたくて」
「ぐはっ」
チアキがちっちゃく照れて笑うと、先っちょがちょこっと折れたコーヒー色の犬耳が、ふるんと揺れる。
思わず変な声が出た。
なんだこのクッソかわいいいきものは。そうかさてはイヌ派の陰謀か。だまされねえ、だまされねえぞ。そうだ、ワン公だからかわいいんじゃねえんだ。これはチアキだから、そうチアキだから可愛いんだ、大丈夫、オレはだいじょうぶ」
「どうしたのレン? だいじょうぶって。どっかいたいの?」
ピュアに心配してくれるその様子が、ストレートに胸にブッ刺さる。
オレはいまいちど、後ろ向きにひっくり返った。
そんなこんなで片づけやらなんやらに精を出し、夜は豪華メシと風呂を満喫、ピンポン大会のち爆睡。
翌日は目が覚めた時に起きた。
ずっと交代でメシやらなんやらを担ってくれて、大変だった総務連中も今日は完全オフ。
メシはそれぞれ、作り置きを食い、残った食材で自分で調理、もしくはワープゲートで高天原に食いに行く。
オレはチアキといっしょに、ひさびさに高天原のバーガー屋へ。
遊びまくって昼はほかの連中も加えてカレーを食いに行き、そのあとそれぞれ、実家に帰った。
おふくろにはつぶれるかと思うほど抱きしめられて、おやじには『飲もうか、牛乳で』なんて言われて、三人で寄せ鍋と寿司とケーキを食って祝った。
二か月間、ずっと戦い続けてきたのだ。しばらくは何も考えず、ゆっくりしていい。
イツカナも、そう言ってくれた。
オレもそのつもりだった。
けれど夜中に、ふと目が覚めた。
二か月前は、まだ高天原の寮にいたオレ。
小さなカラスに扮したライカに起こされたのも、こんな晩だった。
思い出す。そのときライカは言っていた。
『つまり根本的に現状を解決するには、難易度高い順に『グランマちゃんを翻意させる』『ティアブラネットを支えるノードをぶっこわし、チカラ技で影響力をなくす』『ブラックムーンで仲間を守る』ってことになる』
『おれたちがやるのは、これらの複合技だ。
高天原の外とか、とにかくティアブラネットの影響力を脱したところに拠点を置く。
ティアブラネットを外してもダイジョブげなとこを見定めて、ノードをぶっこわしにいく。このときには、ブラックムーンでみんなを守る。
んでもって、決戦、と。』
結局ノードをぶっ壊したのは初戦のときだけで、あとはブラックムーンのチカラを応用したエンブレムで精神を守りつつ、ティアブラスキルを利用して戦った。
だから当時はあれっとおもったのだが、あのライカの野郎がそんな凡ミスをするわけもない。
やつが言っていたのは、ここから先のことなのだ。
行けるやつらで宇宙に飛び出し、ティアブラノードをぶっ壊し、シャトルのゆく道を作る。
そうして、月面へおりたち、グランドマザーと雌雄を決する。
国立研究所ではもう、『Reach the Moon』プロジェクトが動き始めたという。
今どういう状況なのだろう。オレにできることはないのか。気になりだすととまらない。
結局、たった一日半ハメを外しただけで、オレはまた『新たなクエスト』に心をさらわれてしまったのだった。
チアキはどうなんだろう。枕もとのポタプレを手に取ると、ちょうどメール着信。
画面をタップし表示した文面には、オレと同じ気持ちがつづられていた。
さぶいです。さぶすぎます。暖房入れました。
魔王島がうらやましいです……。
次回、動き出す月への予備研究。
宇宙空間を探るライカ。エアプレーンの調達先は意外なところに?
どうぞ、お楽しみに!!




