Bonus Track_99-1 高天原は優しい月の下で~エルカの場合~
『この部分は、私に……いえ、私たちにやらせて。
この子がそうしたいというの。自分も何かしたいって』
オルカのおなかには、新しい命が宿っている。
それを考えると、作戦に加える気にはなれなかった。
生まれてくる子のためにも、安全な場所で、平和な時間を過ごしてほしい。
そう考え、『一度実家に帰っては』と提案したのだが、オルカは首を横にふった。
寡黙で穏やかだが、言い出すと聞かないのがオルカだ。
自分で『やる』といったことは、絶対にやりとけるのも。
果たして彼女は見事、『カルテット』『ハナイカダ』の詰める部屋に潜入、かれらを眠らせてくれた。
術者が倒れてしまえば、SFAも止まる。これがなかったら、ミソラや生徒たちにもっと大きな負担がかかってしまうところだった。
当初は自分でやる予定だったのだが、そうなると回路切断→『カルテット』たちを眠らせ→ホシノ博士らのコントロールルームへ、とかなりバタバタしなければならなかったので、正直とてもありがたかった。
そのころ繰り広げられていた『魔王軍精鋭部隊』による『魅せる戦い』と、ライカ君たちによるお菓子の配達は、計画のうちだったが……
リュウジ・タカシロ氏がケイジ君・ユキテル君を生徒たちのもとへと走らせたのは予想外で、少し驚いた。
配達係のライカ君たちは、せっかくなんでとふたりに花を(具体的にはお菓子のつまった箱を)持たせたが、これもナイス判断だ。
おかげで生徒たちは一気に笑顔に。かわいらしいデコボコカップルも誕生したし、レインくんの計画もみごとに成就した。
そうして今。高天原は、平和な深い夜のうちにあった。
愛する妻と、彼女のおなかのかわいい子は、静かに眠っている。
かけがえのない、いとしい家族たち。そばでずっと見守っていたいのはやまやまだけれど、今日はこれから仕事開始だ。
『いってくるよ』とオルカのほほに。
ふかふかのふとんとおなかごしに、まだ名を決めてないわが子にもキスをして、しずかに寝室を出た。
イツカくんとカナタくんは、すごいことをしてくれた。
なんと、ホシノ博士たちを――かれらの被害者をも、説得してくれたのだ。
そして彼らを、心強いチームメンバーに生まれ変わらせてくれた。
夜型だったかれらはこの夜、チームに加わり動き始めることになっている。
そこにわたしは立ち会うのだ。
長として、牽制の意味合いは、もちろんある。
それでも一番は、あの澄んで輝く瞳に逢いたいということだ。
知り合った頃に見た、夢と希望に満ちた、あの目に。
さあ、お仕事だ。
愛すべきもと『魔王様』が疲れをいやしている間に、この研究を少しでも進めておきたい。
それが我々に、できることなのだから。
かつてイツカくんとカナタくんが、三人の『マザー』の承認を得た際には、月晶宮の頂点にある巨大水晶――『月のきざはし』はまばゆい光を宿した。
それに二人が触れると、『グランドマザー』のもとに心導かれ、謁見がかなったものだが、今回は様子が違った。
イツカくんがセレネ様に勝ち、『魔王たち』は再び三女神すべての承認を得ても、『月のきざはし』は光を宿すことがなかったのだ。
もはや、彼女のおわす月面に直接に行くほか、『グランドマザー』とまみえる手立てはない。
彼女と同じステージに立つことのできる『第五覚醒』を、完全なものとするか。
もしくは、地球を包む特殊結界を無効化するため、ティアブラネットを展開するノードに干渉するか。
その両面から可能性を探っていくのが、今のわれらのプランである。
次回!
休暇を満喫した、アルム島のメンメンは……
「クラフターのサガには逆らえねえ、ってな!」
どうぞ、お楽しみに!




