97-4 それぞれの願いをかけて! 月萌最後の戦い!(2)~リボンなしのイツカの場合~
そして、小一時間後。俺とカナタはやってきた。
セレネの前に。彼女が見せることのなかった、彼女の前に。
月晶宮。セレネの住まいであり、その母体であるスーパーコンピューター『ツクモエマザー』を擁したコンピューターセンターであり、それゆえに最高級の諮問機関、迎賓館としても使われる場所。
薄青い外壁の『お城』の中央は五階建ての塔になっていて、そこに『ツクモエマザー』が収められている、と聞いている。
ちょうど、ステラ領の『ステラの塔』のまわりを、城パーツがくるんでるようなかんじ。
ぶっちゃけティアブラの王宮、そのまんまのみてくれだ。
俺たちはそこにとっこんだ。
いや、正確にはまずハジメさんが説得試みてくれたんだが、効果なしというか、むしろ逆効果だった。
「僕は何度でも言います。
もうやめましょう、こぶしをふるい、傷つけあう戦いは。
あきらめきれぬ気持ちがあることは、わかってます。
けれど僕たちには、それをもっと平和的にぶつけ合う手段があったはず。
戻りましょう、議事堂に。話し合いのための場所に。
もちろん、議員以外の皆さんもいらしてください。話し合いましょう、そして道を見つけましょう」
「もうとうに聞き飽きたよ、君のそうした甘ったるい御託は」
レジスタンスのリーダー――アカシ・タカシロから帰ってきたのは木で鼻を括るような返事。
「かよわい小鳥は、綺麗なかごの中でさえずっていればいい。
君もかごに入っていたまえよ、そうすれば大事にしてやらないこともない」
いや、なんかヤバい返事。
同時に、アカシのうしろにひかえてたやつらが一斉に武器を向けてきた。
ユウミさんがハジメさんを隠すように立ちはだかる。
「ハジメさんは渡しませんわ。奪うというなら、わたくしが相手です!!」
すると、アカシのうしろから飛んでくる下品な笑い。
「おーいおい、カワイイメイドちゃんが何の御用だーい?
そんな野郎ほっといて俺たちと」
その瞬間ユウミさんは抜き撃ち。笑っていたやつらにパラライズ・アローをぶっこむ。なんと全員クリティカルヒットで一発ばたんきゅーだ。
いや、抜く手が見えなかった気がするんだけど。
ていうか、『抜打狙撃』も使ってなかったんだけど。
ユーさんがカメラ片手にニコニコ解説。
「はいっ、これがエナジーブレットアローなら、あの方々はオーバーキルでした。
皆さんどうかファン家の女性を舐めないでくださいね、美人ぞろいのくせして、我ら野郎どもなんかよりぜんっぜん強いんですから!」
「もうっ、からかわないでくださいませっ」
ユウミさんはほほを染めてはじらう。ぶっちゃけ可愛いし、ハジメさんなんか顔を赤くして見とれてるけど、俺の本能は言った。
ハジメさんのことでこの人を敵に回しちゃぜったいダメだ、と。
「ハ、しゃらくさい!
状況開始! 仕留められる奴から仕留めろっ!!」
ぶっちゃけアカシの顔も青かったけど、リーダーやるだけはある。逃げたりしないで号令だ。おうっと景気よく答える部下たちがバンバン攻撃を飛ばしだす。
「任せなさい。『セイメイ・キキョウ』!」
セイメイさんが進み出て、目にもとまらぬ速さで抜刀、宙に星形を描く。
輝き残った太刀筋からはじける光が、すべての攻撃をはねかえす!
その光は一方で、俺たちに対しては加護を与えてくれる。神聖強化を10回くらいまとめてもらったぐらいのパワーがあふれてきた。
「よし、いくよっ!!」
「おうっ!」
カナタが二人乗りシルウェストレを形成。反撃が飛び始める中、俺とやつ、そして俺たちに宿るレイジ、グリード、バニーは打ち合わせ通り、みんなに後を任せてアカシたちのあいだをつきぬけた。
さすがに、門前の一隊だけでなんとかできるとは思ってなかったらしい。すこし奥にも一隊が。いたるところに狙撃手たちが隠れていたし、トラップだって仕掛けてあった。
だけどそんなのじゃ、カナタのツリーアーマーはびくともしない。
そうでなくとも、出発前。たくさん魔法やスキル、アイテムなんかをもらっているのだ。
疲労で、消耗で。この戦いには加われないけれどせめてというみんなから。
ミライとミズキは、自分たちも消耗していたのに、チカラを振り絞って『ハッピー・ハッピー・スプリング』発動。戦いに行く俺たちを回復してくれた。
それも、タマキの『氷結天輪』で自分たちの疲労をぬぐってまで。
もっとも、疲労を吸収した氷のかけらは、攻撃用アイテムとして俺たちに配られている。
『こいつを敵に投げつけて、疲労をおっつけちまってください。
ミズキさんとミライさんにご苦労を掛けてくれやがりました分は、きちんとお返ししませんとね!
ああ、溶けないうちに使ってくださいね?』
そういうタマキはめっちゃくちゃにいい笑顔だった。
そろそろ解け始めていたかけらをカナタが投げかけると、レジスタンスたちの多くががくっと膝をつく。やつらも大分疲れていたようだ。
ならばこそ、決着を急ごう。
遠慮なしにつきぬけて、『塔』の入り口、謁見の間へ飛び込んだ!
そこにいたのはひとりだけ。
けれど、いままで張っていたやつら、全部合わせてもこいつのほうが余裕で強い。
全体的にアスカそっくりだけど、銀髪で、ガーネット色の目、そしてなんつうかじじくさい。
ルク・タカシロは、焦る様子もなく「やあ」と声をかけてきた。
こいつは、強い。
今なお、油断ができない相手だ。
警戒していれば、まあまあと手を振ってくる。
「そう構えないでおくれ。私はきみたちと、戦うつもりはないよ。
少なくとも今日、ここではね」
「では、どういった御用ですか。
もしかして、説得とか」
「まあ、そんなところだね。
まさか、『話し合おう』と叫ぶ青年を先頭に押し立てた魔王様方が、たったひとりのショタジジイの話も聞けないということはあるまいね?」
「おい」
「それ自分で言っちゃいますか」
俺たちは思わず突っ込んだ。
ルクはふふふと笑うと、ついてきたまえと玉座奥のドアを開けた。
いつかとは反対に、らせん階段を下ってゆく。
そうしながら、ルクは語りかけてきた。
「『マザー』は――ツクモエのマザーは、よきお方だ。私もそう思うよ。
聡明で、冷静。情に流されず己の分を果たし――そうでありながら、心の底は誰より優しい。そして、愛らしく美しい。
だがそれがすべて、幻だとしたら?」
ルクはいいつつ、つきあたりのドアを開けた。
広がったのは、塔の地下と思えないほどの、広い広い広い空間。
ほの暗い空間の中、幾筋もの光がキラキラと走り抜ける真ん中に、どんと巨大な柱がひとつ。
上の上、はるか上までそびえたつそのてっぺんは、あの水晶玉だと――はじめて塔の最上階で、『グランドマザー』に謁見した日にさわったアレだと――俺は直感した。
つまり、このデカい柱は、五階建ての高さプラス、これまで降りてきた五階建てくらいのデカさがあるということだ。
その、とんでもなくデカい柱にルクが近づけば、ぱ、と明かりがともる。
そうして、柱のすがたをあらわにした。
小さなランプがいくつか並ぶ、無機質な、シンプルな『箱』たちが、いくつもいくつも、いくつも組み合わせられ、積み重なった、それは。
「これが、『ツクモエマザー』の真の姿。
人と共通するところなどなにひとつとてない。
忘れていたわけではあるまい。
あのお姿は。セレネと名乗る少女の姿――『マザー・クレセントフォーム』は、ただの現身。ありていに言うならば、ヒューマン・インターフェースだ。
会話をしているのはAI。人のように見える表情も、声音に透かす感情も、すべて皆つくりもの。
わかるね、イツカ君。
たとえこのさきの戦いに勝ったところで、そのさきに『きみたち』の未来はない。
きみは『スターシード』――上位世界からきた、人間だ。
しかし彼女は、このセカイで稼働するコンピューターのインターフェース。いうなれば、VRゲームの登場人物のようなもの。
たとえば彼女をとりまく状況をかえることはできても。
真に彼女をその手に抱くことはできない。
彼女を、そのココロを手に入れることは、できないんだよ」
俺は。
「なーんだ、そんなことか」
笑った。
セレネさんと対峙……う、うそじゃない。よね?
次回、語られるイツカの愛。
セレネさんの選択は?
どうぞ、お楽しみに!!




