Bonus Track_96-6-1 仕込みが肝心? 西門前のうさうさ・ハッキングバトル! ~アスカの場合~
『アスカ・タカシロ。
貴君には軍師ならびに魔王軍との交渉役を任せてきたが、いまいち信用がならない。
第一陣から第三陣は敗北。そして第四陣でも結局奴らに逃げられた。
つまり、君が指揮した戦いは失敗ばかり。
われらが月萌国に真に忠節を誓うなら、いまこそ目に見える形でのあかしを示すべきではないのかね?』
完全な、反駁が無駄な類の、言いがかりだった。
そもそも第四陣まで月萌はあえて『敗北』し、魔王軍を『育て上げ』『旅立たせる』。これは国際的な合意だった――ただしこの月萌でそれを知っているのは、国の中枢に近い、上層部だけだったのだけれど。
それを知らない人間ばかりがあえて集められての軍議で、僕は軍師の任を実質解かれた。
そうして、第七陣での基地西門の守りを仰せつかった。
憮然とかたちづくった表情の下で、笑いをこらえるのはもう大変だった。
プロジェクト『改造天使』はもう、その存在がバレている。
そして、月萌軍がいまの魔王軍に勝つことは不可能。
その状況で僕を司令部から追い出したところで『もう遅い』。
『勝ちを収めるならよし。下手な動きをして負ければ、叛意のあかしとして切り捨てる』それは、この戦いに勝利してはじめて意味を成す人事だ。
せいぜい、うまく利用し倒して厄介払いをしたつもりなのだろうが……
自国の二倍以上ある大国とその女神たち、さらには第三覚醒・第四覚醒をことごとく敵に回してまだ勝てるつもりでいるとか、ふつうに正気の沙汰と思えない。
『大神意』により膨れ上がった憎しみが、目を曇らせ。
『御大』の目的に沿うために貸し与えられた力を、いつしか自らのものと勘違いし、誤った万能感を生んだのだ。
哀れみをさえ覚えたが、僕にとっては渡りに船。
せいぜいカッコよく、華やかに、負けてやるとしよう。
そうして、笑顔で迎えるのだ。離れてしまった真の友を。
「よう、久しぶりー!」
ソーヤはビークルからの着地を華麗にキメて、バチコーンとウインクを飛ばしてきた。
その背後には、緊張した面持ちのシオンの姿。
「アスカ、ハヤト。オレ、ふたりとたたかいたくないよ。
どうしても、ダメ? ここで、たたかわなくちゃ。
オレたちにとってふたりは、だいじなともだちだし、いのちの恩人だよ。
ぜったいぜったい、わるいようにはさせないから!!」
めがねの向こうの大きな瞳をウルウルさせ、黒く短いうさみみをたらし、小さなこぶしをふたつ、胸の前でぎゅっと握って必死に訴えかける合法ショタの様子は、控えめに言ってはかいりょくの権化だった。
ぶっちゃけ『ぐはっ』て変な声出た。はなぢはでていない、よし。
「ありがとね、いろんな意味で。
でもね、おれたちもけじめはつけないとだから。
ほら、うさうさかわいさに負けて裏切っちゃうような軍師なんて、信用できないっしょ?」
「むう……」
追撃が来た。さらにうさみみたらしてむうっと上目遣い。
くそ、かわいいは正義とはこのことか。
というか確実に今の自分がかわいいのわかってるだろ。これではいけない。あとでしっかりお説教しとかねば。というかソーヤが萌え萌え限界突破ではうううとなっている。やつも後でお説教確定の模様である。
「そうだよね……しょうがないよね。
じゃあ、ひとつおねがいしてもいい?
きょうは、ハッキングで勝負したいの!」
ともあれ持ち出された条件は、こんなものだった。
「オレとソーやんが、フィールドを逃げ回る。
やられちゃったら、ふたりの勝ち」
「その前に、西門を開けられる電子キーボックスをシオンがハッキングできたら、こっちの勝ち。
おもしろそーだろ?」
するとハヤトが待てをいう。
「いやちょっと待て。
逃げながらハッキングとか、無理ゲーだろう!」
「いんや?
そっちも逃げながら防衛することになるんだぜ。
お互い後衛を守り、おもにライカのアシストで戦う。
たまにゃそーいうのもよかろ? 明日を担う、取れ高のためにってな?」
ソーヤがうさみみピコンで再びウインク。完全にカメラ目線だ。こっちはこっちであざとい。
だがそれがイヤミにならないのがソーヤだ。うさみみのおかげも多分ある。
「…………どうする、アスカ」
それにやられたわけじゃないだろうけれど、ハヤトはむうっと口をつぐみ、僕を振り返った。
僕のこたえはもちろんこうだ。
「おー! おもろいじゃん! やろーやろー!
シオっちとハッキング勝負とか、めっちゃおもろそーじゃん!
あっでも、防衛は物理でもいくかんね? もしもおれの手を空かせたら、なんかすげーもん飛んでくると思ってちょ?」
「のぞむとこだもんっ!」
『だもん』だよかわいいよもう!!
わかってる。わかってるんだけどノックアウトされかけた。
かくして月萌軍基地西門前、仕込みだらけの名勝負が始まったのである。
うさうさかわいいようさうさ。
壊れてますが仕様です(爆)
ハヤト「…………」
あっハヤト君、君はかっこいい枠だからすねないでー!
次回、決着と種明かし!
本日夜~夕刻、ハロウィン&222ブクマ突破感謝企画として、うさねこスピンオフ童話を投稿予定です!
あわせてどうぞ、おたのしみに!!




