Bonus Track_95-4 胸を貫く? いつかの記憶と、イツカの笑顔! ~『マリオさん』の場合~
僕はあれから何度か、奇妙で悲しい夢を見ていた。
ゴーちゃんが、目を覚まさなくなる夢だ。
生命維持装置のなかに横たわって。いつものやさしい顔のまま。
こないだ入院したときとよく似た光景。だが、生命維持装置のカタチがちがう。
なにより、ゴーちゃんがもっと小さい、せいぜい中学生くらいなのだ。
それでも僕はおかしいとか思うことなく、ゴーちゃん、ゴーちゃんと呼びかけて……。
一度ならず、二度三度。泣きながら目を覚ます朝を迎えていた。
そのたび部屋を飛び出して、ゴーちゃんのところにいって、ぎゅーっとしては安心するのだ。
ああ、ゴーちゃんはここにいる。ちゃんと僕に笑ってくれると。
そのゴーちゃんに危険が及ぶかもしれない攻撃。叫ばずにいられなかった。
「やめたって! やめたってや!!
全力勝負なんや! 男と男の勝負なんやあっ!!」
爆音もつんざけと、声の限りに。
* * * *
航空小隊『かざね』が、南の空から戻ってきた。警告とともに。
『ゆうづき』隊がイツにゃんを狙い打つとき、同時にかれらも爆撃を行う。適宜退避せよという、実質命令にほかならぬ言葉とともに。
「ちょっと待ってぇな?! 聞いとらんでそんなん!!」
その時、僕の口からはこんな抗議が飛び出していた。
もちろんそんなのは、爆風と轟音でかき消されたのだけれど。
ゴーちゃんは、ルナちゃんがすき。
僕はその恋を、応援している。
たとえ相手がイツにゃん――絶世のスパダリにゃんこ騎士だとしても。
イツにゃんとルナちゃんが、両想いなのだとしても。
それゆえにいずれ、潰えてしまうはずの恋だとしても。
ぶきようで、やさしくて、けなげなゴーちゃん。みんなだいすき、僕もだいすきなゴーちゃん。
その『一生懸命』をつぶすなんて残酷なことは、とても僕にはできない。
だから、この直接対決も止めなかった。むしろ、応援した。
万に一つの勝ちだけでもつかめたらと。
否、もしも完敗して諦められるなら、いっそゴーちゃんもラクになるはずだから、なんて考えも、胸の片隅にそっと隠して。
僕の攻撃が煮え切らないものになったのは、ひとつにはそれもある。
イツにゃんが「ごめんな」ぽそっとつぶやくのが、ウルフの耳を通じてきこえた。
ああ、やっぱりイツにゃんたちにはバレてしまっているのだ。
正々堂々、を言い訳にした、僕の『手抜き』は。
けれどイツにゃんもカナぴょんも、そこはそっとしておいてくれるよう。
こころの奥に感謝を抱きつつ二人を迎え、いよいよゴーちゃんの晴れ舞台が始まった、その矢先だったのだ。
かざね隊が戻ってきて、砲撃に加わると言われたのは。
プランBで『ゆうづき』隊がイツにゃんを砲撃するというのはあらかじめ聞いていた。苦々しかったけれど、そこは飲み込んだ。
けれど、それに加えて『かざね』隊。食いつかずにはいられなかった。
「やめたって! やめたってや!!
全力勝負なんや! 男と男の勝負なんやあっ!!」
僕のきもちに呼応して、アンデッド隊約1000が同時に振り返る。
体温のない狼と、目玉のないスケルトンがいっせいに。
かれらを通じて、僕の声が戦場を揺らした!!
しん、と落ちた静けさ。
それを破ったのは、ゴーちゃんだった。
大きな大きな、アダマンタイトの腕がゴゴゴと動いて、その掌が、優しく温かく僕を包んだ。
『だいじょうぶだよ。俺は、だいじょうぶ。
俺は、ここにいるよ。ちゃんと、ずっと、マリオさんといっしょにいるよ』
ゴーレムはしゃべれない。それでも僕にはたしかに、ゴーちゃんのそんな声が聞こえた。
ゴーレムに体温はない。それでも僕には確かにそのてのひらは、温かく感じられたのだ。
『『マリオン』。これは作戦行動だ。
貴殿が軍人だったならば、軍法会議ものの行いだ。
だが、それを償う働きをするというなら、我らはそれを受け入れよう』
落ち着きを取り戻した僕に、若々しくも厳かな声が聞こえてきた。
『それでも。
決着の後魔王が立っていたならば、我らは我らの作戦を再開せねばならない。
それでよいなら、貴殿らの決闘を見守ろう。それでよいか』
それはなんと、月萌軍のトップ――最高司令官にして最強戦力であるトウヤ・シロガネのものだった。
『俺はだいじょうぶ。マリオさんは?』
「それで頼んますっ!!」
金属製とは思えないほど優しい掌の上、僕は二つに折れる勢いで頭を下げていた。
「っしゃあ! やろうぜゴーちゃんっ!
さっきの砲撃は気にすんな、俺はだいじょぶだったからさっ!」
頭を上げた僕を待っていたのはそして、ほんのちょっと焦げつつもニッコニコのイツにゃん。
その笑顔、太陽のような、というか――ぶっちゃけ『はかいりょく』満点。
ゴーちゃんがふるふる震えてる。僕も、転げ落ちかけた。
次回、ゴーちゃん視点です!
どうぞ、お楽しみに!!




