93-5 婚前最後のデート? マルキア、剣士の決意! ~白リボンのカナタの場合~
『ステラ杯』の終わった翌日、彼女はおれたちを訪ねてきた。
そうして開口一番言ったことに、控えめに言って驚いた。
「あんたたち、月萌本土に攻め込むんだろ。
そん時は、あたしを連れていきな。
『青嵐公』の足止めくらいはしてやるからさ」
「いやちょっと待ってっ?!」
「ステラ領は公には中立の立場をとるんですよね?!
マルキアももう、表舞台の人間でしょう。それが……」
「ああ。
くには捨てたよ」
「はあああ?!」
* * * * *
第七陣はおれたちが攻撃側。最悪『逃げ帰る』という選択肢がある。
けれど、その帰る先がつぶされてはおしまいだ。
というわけで、第七陣でおれたちが重視したのは、島の守り。
月萌に向かう人数は、最小限にした。
まず、おれたち四魔王。
『フルムーンファインダー』で死角なしとなった無敵管制、シオン。
シオンを守るのはおまかせ! のソーヤ。
『時止め』という究極の切り札のひとつを持つスピードスター、イズミ。
イズミの力の源であると同時に、自らも究極のすりぬけ技『フリーフォックスフライング』をもつニノ。
おれたちをのせたエアビークルを操るタカヤさん。
名狙撃手にして名プリーストでもある、レティシアさん。
おれたちの体内に宿っている、3S七人衆レイジ、グリード、バニー。
ライカ分体がひとり。いや、やつらは変形して増えることができるから、正確な人数は測れないのだけれどとりあえず一体。
そして、国を捨てた女剣士、マルキアだ。
その決意を聞かされた時、おれたちはおどろいた。
なぜって彼女は、パレーナさんと絶賛熱愛中。ぶっちゃけ結婚秒読み段階なのだ。
一緒に来たパレーナさんは、納得いかぬようで渋い顔つき。
そのとなりにはエルメスさんもいる。ここは親友の彼女から……と思ったら、エルメスさんは首を振った。
「マルはいつも、私たちを守ってくれた。
国のためには誰かが悪役になれなきゃと、自ら『六柱』候補の座を蹴って、工作員になってくれた。
そのマルのたっての願いなら、かなえてあげたい。
一時のことだ。『魔王軍』が勝てば、いくらも名誉は回復できる。
最終手段として、パレーナの妻となってしまえばソリス領の戸籍は得られる」
それはそうなのだけれど。パレーナさんは何とも言えない顔になる。
だがエルメスさんはさくさくと言葉を続ける。
「そのあたりのことは心配せず、任せてほしい。
まずは、月萌との戦いを。第七陣を制さぬことには先はないのだ」
「それはそうですけど。
『エルメスの家』のみなさんは、なんて……」
そう、マルキアは『エルメスの家』のこどもたちの希望の星だ。
それが国を捨てるなんて、つらすぎないか。
するといつのまにか姿を現したジュディがニコニコのたまった。
「あたしたちはみーんな、応援してるよ!
だってこれはー、青ギツネちゃんとのさいごのでーとだから!」
「おい」
パレーナさんがツッコミの声を上げた。うん、これは突っ込んでいい。
それでもジュディはぜんぜんめげない。
「いーじゃなーい、パレーナちゃんはこれからずーっとマルねえひとりじめのラブラブ新婚生活なんだよ?
そのまえにきっぱりすっぱり決着つけちゃったほうが、パレーナちゃんもさっぱりするでしょ?」
「つかジュディ、パレーナさん『ちゃん』呼びなのか……」
イツカが感に堪えない様子でのたまう。つっこむとこそこかい。いやおれも突っ込みたかったけど。どうしてそうなった。
ジュディはえへへーとわらってのたまう。
「だってパレーナちゃんはマルねえのおむこさんだもん。あたしたちのおにーさんになるんだもん!」
「!!!! そうか!!
お前たちはこのさき、我が妹ぎみになるのか……」
パレーナさんがなんかふおおおっとなっている……というか知的な雰囲気は崩れぬまま、なんか感動に打ち震えてる。イケメンは得である。
「そうだよー! 妹も弟もたーくさんできるんだから!
ねっ、だからお願い!」
「………………い、いやっ! だからこそわたしはお前たちの姉君の身を案じるのであって……」
小一時間のやりとりのすえ、結局マルキアの出陣は許可されたのだった。
パレーナさんお手製の『ダウンするようなら即送還』のお守りを身に着けていくことを条件に。
* * * * *
思い返していれば、イツカがのたまう声がした。
「しかしマルキアさ、ノゾミ兄ちゃんホント好きだな!」
「あれほど強い男はなかなかいないからね。
……あたしと系列が同じなんだ。戦えば戦うほど、『自分の』剣が磨かれていく気がするんだ。
もしもあたしが月萌に生まれて。そして、男だったなら。
きっと、最高のライバルになれていただろうね。
もしかするとトウヤと三人、ひたすら腕を磨いていたかもしれない」
「マルキアはノゾミ兄ちゃんのいいライバルだと思うぜ!
いいじゃん、ケッコンしてからでも、また遊びに来て、剣やればさ。
トウヤも喜ぶぜ、手合わせしようって言ったら!」
「紹介してもらえるかい?
ここまでがここまでだからね。直に行ったら暗殺と勘違いされそうだ」
「だなっ!」
マルキアが冗談めかせば、イツカはあっけらかんと笑う。
そうすればおれにも、そしてみんなにも笑いがわいてくる。
月萌への空の上、小さな機内を笑いが満たす。
と、そのときだ。
「おー。みえてきたぜ、フロート!
のぞみんいるわ、ガチモードだわ!」
タカヤさんの声に笑いが止まった。
見下ろせば、フロートの上にはひとつ、青い人影。
いつもの戦装束をまとったそのひとは、ふつーに目視できるほどの『ホンキオーラ』を立ち昇らせていたのであった。
またもあるあるにやられてました……くそっ(※白戸家お父さん風)
次回、動画で見守るソナタちゃんたちです。
どうぞ、お楽しみに!




