Bonus Track_93-5 第七陣、開戦前夜 ~リュウジ・タカシロの場合~
2022/09/27
言葉足らずのため以下を追加いたしました。すみませんm(__)m
通るのは、身内――もっというなら、下のものによる案で。それが失敗すれば、我らのみの一存で処断してきた。
彼らが吠え始めてすぐのことだった。
中庸派が護国派へと姿を変えたのは。
この戦いの始まりに、数名の同志が精神の平衡を欠いた。
議場が平穏を取り戻していったのは、ひとつには彼らの幾人かがその座を去ったからだ――さまざまな理由をもって。
その陰に護国派によるいろいろがあったことなど当然に、把握している。
そしてそこに『御大』の御計らいがあったことも。
今日もまた一人、辞職が決まった。
すっかりとあきらめてしまったような表情と丸まった背中は、一気に十歳も老け込んでしまったかのように見えた。
後釜についたのは穏健派だったが、実質は護国派の一角。
こうしたときに私とともに行動するのは、党内各派の代表と決まっていたが、これにより三名中二名が護国派となってしまったわけだ。
イワオが留守を託したナンバラは、やつほどの力量はなく、言っては何だがお守り程度の存在感しかない。
とはいえ、この場においてはむしろ、好都合だったのかもしれないけれど。
『みんなに、残念なお知らせがあります。
月萌との協議は決裂しました。
明日、おれたちは月萌に決戦を挑みます』
『でもある意味、これでよかったのかもしれない。
だって、こんな頭越しじゃ、ナットクできないやつもいるよな?
とにかく俺たちとバトってみたいってやつもさ!』
『だから、おれたちは全力で戦います。
でも、心配しないでください。
だれも死なず、殺さず、傷つかない。
それができるのが、ティアブラVRバトル。そして……』
『『おれたちのウォー『ゲーム』だから!』』
動画の中、猫耳と兎耳の少年たちが声を合わせる。
魔王の装束をまとった、それでもきらきらと輝く目をした者たちが。
壁面いっぱいに映し出される、輝かしい絵面をバックに、やつは晴れ晴れとのたまった。
「いやー、うまくいきましたねぇ。
月萌はヒールの汚名をすすがれ、投げ銭も計算通りの増加。
あとは、明日の戦いだけです。
さあ、今すぐわれわれの協議を始めましょう。
でないと、このむさ苦しい顔ぶれで夜明けのコーヒーをいただく羽目になってしまいますからね☆」
「いったい何がうまくいったというのかね。魔王らの心は折れず、すり替えはできず」
「君たちの策は失敗だ。その対価として与えられるものがなにかあるとでも?」
護国派二人が声を荒らげた。
これまでは穏健派がただしく穏健派であり、イワオも適度に場を和らげてくれたものだったが、それがないとなると。
彼らが追い出した者たちと、いまの彼らの振る舞いは、皮肉なほどに酷似していた。
「ともあれ、この非道な策を行ったのは君たちだ。素直に責任を取りたまえ」
ほとんど恫喝に近い言いようだったが、ィユハンはどこ吹く風でふふふと笑う。
「これはこれは不穏なお言葉を。
では私も不穏なことを申しましょうか。
我々がこの策を行うにあたり、何が必要となったでしょう?
その舞台は、月萌の土地。その予算は、月萌の国費。動く人員は月萌の民。
それらを動員するに当たり必要なものは?
我々はしょせんは最大野党。これほどの資産を自らの意のみで動かすことはできません。
これが非道な失策と言うならば。その最大の責はどなたにありましょう?」
これは一理あると言わざるを得ない。
我らは押しも押されもせぬ与党。その意は、当然のように施策に反映されてきた。
通るのは、身内――もっというなら、下のものによる案で。それが失敗すれば、我らのみの一存で処断してきた。
それが当たり前のことと――当然ととらえるようになっていた。
決断には責がともなう、それがただ他人を切るための『ルール』でなく、自分の人生におけるリアルであると、彼らは忘れかけていたらしい。
それでも、その程度でへこむ者たちではない。
「我々だとでもいうつもりか。馬鹿な!」
「そんな戯言が、通用するとでも?
やらかしたのは貴様らだ。それが揺るぐことはない!!」
「ならば、世に問いましょうか?
果たしてただの最大野党が、国策としての大規模イベントを、勝手に行うことができるものか。
これにかかった巨額の予算が、一介の野党の財布から出しうるものかと。
一つ例に取るならば、ミライくんとミズキくんへの出演料。今をときめくトップアイドルたちにあんな過酷な演技をさせたとなれば、お支払するべきものはフタケタ万ではきかないでしょう。
それとも、それをロハにしてしまえるような理由が、高天原には存在したと?」
「貴様っ……」
かれらの出演料を値切ったのは、『戦時協力』という名の大義名分。
だが、我らが月萌の過半数を占める一般市民にとって、それは『物語の中のこと』。
リアルのこととしてさらされれば、どうなっていると騒ぎが起きるのは想像に難くなかった。
悪いことに、戦時協力体制は長くは続かない。ひとつには戦いが終わるからだ、どちらが勝利したにせよ。
そうなれば、高天原を守る情報の城壁はぐっと低くなる。
いまやソリステラスは鎖国対象の敵国ではない。彼らを通じ、その情報はいくらもベータ居住区に流し込まれることだろう――こいつらがいざその気になれば。
「いいえ、先に申し上げましたとおり、切られることも覚悟の上です。
けれど、ハグレドリ隊の次は『緑の大地』とファン ィユハン。となればもはや、月萌政府からヒールの汚名が雪がれることはないでしょう。
ああ、お気の毒に。
あとを背負うのは誰でしょう。
可哀想なレイン君か。清廉なセイメイ殿か。いやもしや、健気なハジメ君なのか。
残念なことにどなたのはらわたも、わたしほどには黒くない。
あなた方に軟着陸をご用意することさえ、でき得ぬのですよ」
残念だが、今回はやつの勝ちだ。
ちらとこちらをふりかえった二人も、私の表情を見て鎮火した。
「チッ……何が目的だ」
「高天原外における、スキル民生利用の規制緩和です。
それ以上でも、それ以下でもございません」
「…………は?」
「我らの求めるのは、β居住域の繁栄と安寧。
どこまで行っても、ただ、それだけですよ」
そのとき。ぱち、ぱち、ぱち。拍手が聞こえてきた。
我らは皆頭を垂れる。なぜなら、いまこの場にふいと姿を表したのは、我らがそうせねばならぬ御方だから。
「これは。
お初にお目にかかります、いと貴く、美しき御方」
「ふふ。
そうかしこまらずとも構わぬ。我がきめた、面を上げよ。
そうだな、3つだ。
どれを解禁したい、ファンの御曹子」
次回、第七陣始まりの予定です!
どうぞ、お楽しみに!




