Bonus Track_93-4 つかの間の休息! 乙女四人の南国バカンス! ~『シャスタ』の場合~
夏(※旧暦)が終わる前にこの回が書けて良かったです^^
2022.10.02 サブタイ修正いたしました(『シャスタ』の場合が抜けてました)!
『どうじゃ? そろそろこっちには慣れたか? ……と、聞くまでもなさそうじゃな』
日のあるうちのフリータイムは、ビーチ満喫一択だ。
水龍になってひと泳ぎ。パトロールかねて島をぐるっと一周し、最後に南の沖合に停泊する大型クルーズ船に向かった。
ひろびろとした甲板では一組の美男美女が、パラソル・ビーチチェア・トロピカルドリンクという三種の神器をそろえてクルーザーライフを満喫している。
公約通り新居を構えた、シグルド・サクヤご両人だ。
ただし、結婚式はまだ先。この海に浮かんだ新居は文字通り、たんなる『あたらしいおうち』にすぎない。
それでも若き婚約者ふたりは仲むつまじく、なんともほほえましい。
ひやかし半分に声をかけると、二人同時に「おかげさまでー」と手を振ってきた。
サーヤがひょいと立ち上がり、船べりからこちらをのぞき込む。
「シャスタさま、とってもきれいですわ!
青くて、すきとおって……
水龍のシャスタさまって、ほんとうに体が水でできておいでですのね。こうして拝見すると、そのことがよくわかりますわ」
『おお。さわってみるか?』
「はい!」
初めて会った時には、やや心配になるほど内気なふるまいを見せたこの少女だが、潮風を受けともに歌えばすぐに心の扉は開いた。
打ち解けてしまえばむしろ、少々やんちゃな娘だ。大きく身を乗り出し――「落ちますよ、サーヤ」と婚約者どのに抱き留めてもらって――我が身にたおやかな手を触れる。
「ふふっ、つめたーい!
シグルドさま、わたくしも泳いできますわ!」
そしてぱっと白のワンピース水着に転じるや、そのまま飛び込んできた。
さすがは水の申し子といったところか。なに一つの恐れもない。
心地よさそうにすいすいと水をかき、わが首に抱き着いてきた。
シグルドはというと、彼女を船の上から見守るようだ。
『すまんなシグルド殿、婚約者殿を少々借りるぞ。
どれ、ともにここらをぐるりとするか。振り落とされるでないぞ!』
「おねがいしますわ!」
『あーシャスタ姉とサーヤちゃんがいちゃいちゃしてるー! あたしもあたしもー!』
と、岸からひまわり模様のセパレートを着たスゥが、ぴょんぴょんしながら手を振ってきた。
サクヤもニコニコ手を振り返す。
「スゥちゃん様ー! いっしょに泳ぎましょうー?」
『いえーい! もちろーん!』
スゥもさすがは虎の化身。小さな崖の上から迷わずどぼんととびこんだ。
そうしてしばし遊び戯れたわたしたちは、ビーチでごろんと横になった。
よく冷えたドリンクを片手に、すかんと晴れた空を見上げた。
ちなみに途中からサクラもとっこんできたので、都合四人だ。
「んんー。サウザンドビーチもサイコーだけど、アルム島もサイコーだなー……」
スゥがぐーんと伸びをすると、となりでサーヤもおなじようにする。
「まだサイト情報しか見られていないのですけれど。
サウザンドビーチもきれいなところですわよね。
はやく行ってみたいですわ」
「この戦いが終わったら、案内するよ!
あたしいーとこいっぱい知ってるから!
海の幸もおいしいし。海でも町でも遊べるし。
シークレットガーデンも、サーヤちゃんたちならこわくないレベルだからさ!」
ガーデンと聞いてサクラがにししと笑う。
「ケイブのクラゲはちょっとやだけどねー。サーヤちゃんへーき?」
「クラゲはわたくし平気ですわ。
どちらかというと、パラセクトディアのほうがこわいかも……」
「ほんとにー?!
じゃあそっちはサクラにまかせてっ。サーヤちゃんはクラゲおねがい!」
「わかりましたわ♪」
少女たち三人が、わいわいと旅行計画を立てるさまは微笑ましい。ドリンクをすすりつつ、ほのぼのと見守っていれば、ふいに三人ともくりっとこっちを向いた。
「もちろんシャスタさまもメンツだからね (ですわよ)?!」
「っ?!」
かわいい。かわいいんだが、タイミングがタイミングなのでむせてしまった。
だいじょうぶーと心配してくれる三人に大丈夫と返し、わたしは誘いを快諾した。
さすがに水龍フォームだとケイブに詰まってしまうし、騎士フォームでもモンスターが避けそうだ。なので、当日はサイズとパワーを抑えた少女フォームで参戦することにした。
もっとも、この楽しいガールズデートも、第七陣の勝利あってのこと。
第七陣、イツカナを先頭にしたアタックチームは、祖国月萌に攻め込む。
その間、月萌軍もこちらを狙ってくるので、われらが防衛にあたる。
われら――女神・神獣をメインに、月萌出身の者たちが前に立つ。
ソリステラスの者たちは守りに徹してくれることになっているが、島に手がかかれば攻勢も辞さぬと言ってくれている。
シグルドとサーヤが大胆にもこの時期に居を構えたのは、その証。
ただスポンサーたちとのパイプを務めるだけでなく、抑止力として身を挺してくれているのだ。
さらに、シグルドは召喚士として島の防衛強化に一役買い、サーヤは歌姫としての腕を発揮して、島の皆を楽しませてもくれている。
アルム島、通称『魔王島』の士気は、いやがうえにも上がっていたのであった。
ちなみにサクラちゃんは白、シャスタ様は黒のまおうぐんビキニです。
桜の花びらと、デザイン化した竜の意匠をあしらってます。
次回、月萌政治家たちの重なる思惑。開戦の前に片づけておきたいこと。
どうぞ、お楽しみに!




