Bonus Track_93-3 お手伝いさせて! かわいいふたりのひきょーなお願い! ~コウの場合~
それは、第六陣が終わった日のこと。
月萌港に帰ってきた俺たちを、『ハナイカダ』のふたりはニコニコと出迎えてくれた。
これまでにないほど、はればれとした笑顔。何かあったの、と聞いてみれば二人は言った。
「決めたの。第七陣、わたしたちも出陣する!」
「えっ」
思わず四人で顔を見合わせてしまった。
でも、そんな俺たちの反応は予測されていた。
翌日俺たちは、二人の職場に招かれた。
『高天原町立第二幼稚園』。
その、園長室に。あーちゃんハーちゃんといっしょに。
予定の時間にそこに行けば、俺たち以外はもうそろっていた。
優しそうな園長先生に『いらっしゃい』と応接に通していただけば、ハナナさんとルイさんは硬い表情ですわっていた。
ハーちゃんはいつもどーりの仏頂面。でもしっぽのゆれから心配していることがバレバレ。
ただひとりあーちゃんは明るい顔だ。
いやおまえ、なんでそんないつもどーりなん?
思ったけれど、さすがに口には出せない。
園長室の応接は、お茶をすすりながらの、なんともいえない沈黙に満たされた。
「あの。……」
どれくらい経ったころか。
おもむろに、ハナナさんが言い出した。
「わたしたちが、出陣したくない、って思ってたのは、ほんとなの。
そこを助けてくれて、うれしかったのも。
でも、そのせいで四人がすごく、苦労してるの見て、……」
「そんな、苦労なんてっ」
「そうですよ、俺たちは……」
俺は慌てて立ち上がった。タマも援護射撃してくれる。
「ごめんなさい!
でも、知ってるの。
第四陣の後。コウくんたち、こっそり点滴抜いて、隠してたでしょ……?」
「え゛っっ?!
い、いやっ、なっ、なんのことかなあ????」
ドキッと心臓がはねた。
ごまかそうとしたら、声が裏返ってしまった。
しろーさんにぽんっと肩をたたかれた。うん、逆にバレバレだった。俺はがくーっとうつむいてしまった。
「ごめんなさいっ。
そこまで守ってもらっていながら、こんな風に……」
「わがまま、だよね。ごめんっ。
でも、四人だけにもう、背負わせたくなくて……!!」
俺はそのまま、立ち尽くしてしまった。
ハナナさんが。そしてルイさんが。
謝ってる。なんにも悪くなんかないのに。
「あの、……ごめ、ん。
そんなふうに、……思わせる、つもりじゃ、……」
たまらなくなった。逃げ出してしまいそうになった。
隣でしろーさんもきつねの耳を垂らしている。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
途方に暮れたその時、あーちゃんがぱんぱんっと手をたたいた。
「はーいっ、リテイクリテイク!
あのさみんな。これはたのしーVRゲームイベントだよ?
だれも死なないし傷つかない。全部終わったら『いいバトルだったねおつかれさーん!』で笑いあえる。
そういうことになってるじゃんか。
だからね。最後くらいみんなでドーンとはじけようって。
お祭り騒ぎのお手伝いさせてって、そんでいーじゃん?
相手はあのもふもふ魔王様たちで、みんなにはおれがついてる!
ねっ、楽しくならないわけないっしょ?」
頭のデカ耳をもふもふさせつついい笑顔。ぱーっと両手を広げてみせる。
なんでかそれだけで、気持ちに光が差し込んだ。
ハナナさんとルイさんも、同じ気持ちだったよう。
顔を見合わせると、かわいい笑顔を向けてきた。
「ねっ、四人とも。
第七陣は、月萌本土での戦いでしょ。
もう、ここが戦いの場だから、わたしたちもやるっきゃないなって思うの!」
「最後の最後だし、ちょっとでも手伝わせて!
園長先生たちにも、マルヤムたちとも相談したの。
子供たちにもかっこいいとこみせてっていわれちゃったし。だから、お願いっ!」
そしてぱんっと手を合わせて頼み込まれたら、もう断るなんてできやしない。
ぶっちゃけ、かわいすぎてひきょうだ。
タマは無意味に眼鏡直しまくって咳払いしてるし、ダイは真っ赤になってるし、しろーさんも二人をガン見状態でフリーズ。
なるほど、俺が返事するほかないようだ。
言葉を探して咳払いして、俺は言った。
「ええっと……
危ないこととか、無理とか、絶対しないって、やくそくしてくれる、なら!」
「もちろん!」
「りょーかいですっ!」
すると二人はいっぱいの笑顔で笑ってくれた。
しばらく見られなかった、キラッキラの笑みで。
心がはねた。俺はこぶしを突き上げた。
「よっしゃー! よっしゃー!!
第七陣、がんばろー!!」
「おーう!!」
しろーさん、ダイ、タマ。ハナナさんにルイさん。あーちゃんと園長先生。
こういうときノリそこねがちなハーちゃんが、「お、おう。……おうっ」と遅れてちっちゃくこぶしを掲げると、なんだかかわいくって笑い転げてしまった。
こうして、俺たち『カルテット』そして『ハナイカダ』は、ともに『センフロ《セント・フローラ・アーク》』使いとして第七陣に参戦することになった。
遠隔展開用のワークスは、全力で完成させた。だからどちらももう、前線には出なくて大丈夫。
というか、正直なところ対『魔王軍』防衛策として『センフロ』は、そろそろ型落ちとなりかけているのだけれど。
かれらの火力なら、センフロの耐久を正面から削りきることだってできるし、ダメージを負わせずとも動きを抑える方法もいくらもある。
さらにはカナタプレゼンツの『ハルアイ』こと『はるかな愛のコンチェルト』まで来てしまった。
とはいえ、『ハルアイ』についてはまだ研究が進み切っていない。自らのものとしたとはいいがたい状況だ。つまり、センフロはまだ現役を張れる位置にいる。
正直なところを言うと、俺たちはみな薄々感じていた。
この戦いの勝者となるのは『魔王軍』だと。
『大神意』で吹き込まれた憎しみも、あちらこちらでほころびを見せている。
それでも、戦いが終わるには、決戦が必要だという。
ここは、やってやりぬこう。終わらせるために。新しい明日をこさせるために。
俺たちはそう、約束しあったのだった。
けさから洗面所でなんかバキバキ音がしてこあいです。なんなの……?!
次回、この時期に島に新居(※ふつーにあたらしいおうち)を構えたあのひとたちと、女神様たちにスポットの当たる予定です。
どうぞ、お楽しみに!




