Bonus Track_93-1 嵐の渦中へ! 学園訪問! ~トウヤの場合~
高天原学園の校門前には、遠巻きにバリケードが張られていた。
元凶は、あれだ。
常人ですら目視できるほどに凶悪なオーラをふりまく『眼鏡の死神』。
やつの逆鱗にかろうじて触れない距離感が、鉄と木で作られた『結界』の半径を決めていた。
「おい」
「……来たな」
隊員たちをわけて進み出、声をかければ、戦装束の青キュウビは不敵に笑った。
* * * * *
今回のことについては知っていた。
エキストラとはいえ、月萌軍の名を冠した者たちを動画に出すにあたり、申請は上げられていた――もっとも俺のもとに上がってきたプロモーション画像は、アスカいうところの『再修正後』バージョンだったのだが。
卑劣なだまし討ちに他ならない内容に、義憤を覚えた。
さらに、それをたくらみ、報いを受けるのがわれらが月萌軍というのにも、けして穏やかならざる気持ちを抱いた。
しかし、ユーが言うには。
「このところ、とみに月萌軍を悪役のように見るむきが強まっています。
ことあるごとに『ただのイベントです』と強調していても。
まあ映像のできがいい、構成が絶妙というあかしでもあるのですが、これでは皆さんうっぷんもたまることでしょう。
そこで、これです。
今回の映像の中では、月萌軍の皆さんがかわいそうなことになります。
これだけやられれば、世の見方も反転する。
すくなくとも、風当たりはやわらぐことでしょう」
「うむ……しかし…………」
武闘派の重鎮が渋い顔をすれば、ユーは笑った。
「いやいや、これはあくまでエキストラによるお芝居、フィクションです。
そのことはしっかりと説明させていただきます。
あなた方の権威が損なわれるようなことにはなりませんとも」
すこしばかり下手に出るような物言いに、彼は懐柔された。
だが、納得のいかぬ者もいた。
すくなくともその一人は、俺だ。
「ユー。何の布石だ、これは」
「この悲惨な攻撃を、現実にしないための布石ですよ。
こんなものを見せられて、同じことをすることはないでしょう――あの優しい魔王さま方ならば」
部下や仲間を安んじるため。
そうささやかれ、我らはそれを受け入れた。
その『実態』について知らされたのは、そのすぐあとだった。
「この画像の『偽物』と、ほんもののイツカナをすり替える。
そんな策が政府では今、動いてる。
けれど、あの二人はそんなのに負けない。そしてユーさんは、この映像はただのドッキリでしたと暴露する。
つまり、ミライとミズキの熱演は、おじゃんにされるわけだ。
こんなん受けちゃったら、いくら二人でもオーバーキルまったなし。ここんとこの戦時動員まで加わって疲れのたまってるとこでコレじゃ、ぶっ倒れても不思議じゃないってのにさ。
腹に据えかねたノゾミ先生は、動き出す。
そうなったなら、トウヤ。君が乗り込んでほしい。
何を差し置いても、単身で」
いれかわりのように俺を訪ねたアスカは、こんなことを言ってきたのだ。
「まず聞かせろ。
友が倒れるかもしれぬとわかってなお、この策を止めなかったのか」
「あの二人は『ここで』ぶっ倒れとくべきだよ。
夢ん中でまでみんなの世話を焼いて。覚醒技で疲労を実質、肩代わりして……
その疲れを第七陣まで引きずったうえで倒れたら、そっちのがむしろヤバい。
そう言って説得したよ。
もちろんそれでものぞみんは激おこぷんぷん丸だったけどね」
「だろうな。
で、そんなあいつは俺でなくば制せぬだろうと?」
「それもあるしー、いっそ負けちゃってもそれはそれで展開としておいしくない?」
「どういう意味だ」
「トウヤを下した相手に歯向かえるやつが、月萌軍にどれだけいるかって話だよ。
政府は魔王軍と和解する気なんかさらさらない。けれど、手足をもがれちゃ戦いようもない。人間どもの戦いはいやでも終わっちまうのさ」
「……俺は手加減なんかできないぞ」
「勝っちゃったらそれはそれで。
トウヤの好きにすればいいよ。のぞみんも、学園も」
そうして口にしたことばが、俺にこうする決意を固めさせたのだった。
ノゾミによる檄文がネット上を騒がせた瞬間、俺は全軍に『決して手を出すな』とエクセリオンの名において通達した。
「俺が行く。そして奴らを説得する」
「しかし」
もちろん疑いの目を向けるものもいた。だが、答えは決まっていた。
「対魔王軍第一陣において、我らは高天原の新卒と学園生を説得にやったな。
彼らにできると判断されることが、この俺にはできないとでもいうのか?」
そうして俺は、この場に立ったのである。
アカネが急遽あつらえてくれた、新たな軍装を身にまとって。
あれ……おもったより展開、熱くね……??(イツカ口調)
最近ことあるごとにイツカ口調が出ます。そろそろネコミミ生えないかな(※無理)
次回! バトルのよかん!
どうぞ、お楽しみに!!




