Bonus Track_92-5 負けないで! 冷たい言葉<やいば>とすり替えられた運命! ~ライムの場合~
モニターの向こう、会見場の名を冠したそこは、話し合いの場ではありませんでした。
クレイを床に敷かれた、バトルフィールド。
イツカさんとカナタさんが一歩足を踏み入れると、その背後で扉はかき消え、眩しすぎるほどの照明がお二人を照らします。
カナタさんが、痛みを感じさせるしぐさで耳を抑えました。かばうように立つイツカさんも、顔をしかめています。
待ち受けていた二人が、あるいは怒声を向け、あるいはそれをなだめています。
二つ並べた画面のもう一方で、流れているのは目をそむけたくなるほどのもの。
イツカさんとカナタさんを『にせ魔王』と呼び、糾弾し、ののしることばたち。
どうしてこうなったのでしょう。
さきに会場入りした二人が、本物を名乗ったから。
そして月萌側がそれをすぐに信じ、大々的に『迫る、真偽対決』と流したから。
その二人は、確かに本物のお二人とそっくりです。
でも、違うのです。
恋する女の直感、でしょうか。どうみても、同じ容姿をした、別の人にしかみえないのです。
けれど、みなさんにそれはわからないようす。
カナタさんたちが言葉の刃で痛手を追うさまを見て、さらにことばを加速させます。
待ち受けていた二人も、さらに攻勢を強め、お二人は苦戦を強いられています。
なんて、つらい。
いますぐそこへいって、叫びたい。
ほんものはこちらですと。
そんなふうに、ひどい言葉を、きもちをぶつけないで。
それは濡れ衣なのだと。このひとたちは無実だと!
全力で、祈りました。
一時はエクセリオンの座にありながら、第二覚醒までしかしていないわたしだけれど。
第三覚醒が可能なら、いま、すぐにでも。
愛するひとをまもるために!
わたしをざわざわとした風がつつんだ、そのときでした。
ルカさんとルナさんと姉が駆け込んできました。
「ライムいくわよっ! こんなのみてられないわ!!」
「わかりましたわ。
わたくしにつかまってください。いきますわよ!」
ルカさんとルナさんは、いま夏休みで離島にいらしているはずです。
そこは高速船で一日近くかかる場所。なぜ、いま、ここに。
いいえ、それはいいのです。いまはまず、なすべきことを!
三人も細かいことは聞かず、わたくしの手を取ってくれました。
わたくしは静かに目を閉じ、念じます。
どうか、この力よ。愛するあのひとのもとに、わたくしたちを運んでください!
一瞬ふきぬけた爽快感。目を開ければもうそこは、画面の向こうだった場所。
「カナタさん、イツカさん!!」
そして目の前には、追いつめられゆくたいせつなひとたち。
いまなら、わたくしにも直に聞こえます。ふたりに向けられた、こころない言葉たちが。
まもらなければ。いまわたくしが、この手で!
「もうやめてくださいませ!
このおふたりは偽物ではありません。
おふたりこそが、ほんもののイツカさんとカナタさんですわ!!」
第一覚醒発動――『ノーザン・ホーリー・クロス』。十字につらねた星の輝きを盾にして、おふたりを守った。
北の十字星の輝きは、ポーラーベア装備の姉に力を与えてくれる。姉はすかさず、あちらのイツカさんに接近。
もちまえのパワーでがっぷりと組みつき、何とか抑える。
「何言ってんだよライムちゃん! こいつらは!」
「レモンさんも、どいてください! ライム、ルカルナ、目を覚まして!!」
ルナさんは得意の天使の飛翔でルカさんを支援すると、ほんもののおふたりのダメージを回復してくれた。
ルカさんは『ライジング・サン』発動。金の羽を降らせて守りを万全にするや、姉を追うように急降下、あちらのカナタさんに向かっていく。
「目を覚ませはあんたたちよ!
聞こえてるわよね、いまネット上で渦巻いてる罵詈雑言!
こんなふうに、みんなで相手をののしらせて、心を削って、その尻馬に乗っかるのがあんたたちのやり方なの?!
あたしの好きになったカナタは、そんな子じゃない。
そんな勝ち方する『正義の味方』なんか、こっちから願い下げよっ!!」
その瞬間、しーん、となった。
ネット上で渦巻いていた声たちが、一気に止まった。
「で、でも」
「でもじゃない!
イツカとカナタもよ。
もしそんなやり方しようとか、考えた時点でお仕置きだからねっ?」
「は、は、はいいい!!」
返す刀で、本物のおふたりにもくぎを刺すルカさん。
ふふっと笑い声が漏れてしまった。
「な、なによライム?」
「いえ、ルカさんが、かっこよすぎて。
わたくしのいいたかったこと、みんな言ってくださいましたわ。
ありがとうございますわ。さすがは、ルカさんです」
するとルカさんはぱっと赤くなった。
「ほっ、ほめても何もでないわよっ」
「まあ、ほんとうのことをいっただけですわ?」
「も、……もう、調子狂っちゃうんだから……」
一転もじもじしちゃう姿は、とってもかわいらしい。
「いや、待ってマジに。
本物はおれたちだ。そのことは間違いない!」
ほわほわしていたら、あちらのカナタさんが叫ぶ。
それは、嘘をついている目じゃなかった。
途中まで苦闘しつつ書いて、急遽ライムちゃん視点に換えました。
うそのようにするする書けました。なんぞこれ。
次回、続き!
種明かしから決着? までいきたいです。
どうぞ、お楽しみに!




