92-5 元気出していこう! あたたかな言葉と、おいしい島雑炊!
書面を確認して即、おれたちは返信を送った。
その日時に都合がつくのは、赤リボンの二名のみ、そのため二名だけでお邪魔いたしますと。
白リボンの二人も『行ける』となれば、今夜月萌政府が流すニセ映像の中で、ルカとルナが二人をかばって怪我を負うことになる。
もちろんミライとミズキが傷つく姿だっていやなのだが、女の子が傷つくところはやはり、もっと見たくない。
……まあ、可能な範囲でのちょっとした意趣返しと言えなくもない。
はたして月萌政府からは了解しましたの返事が返ってきた。
あちらとしてはかまわないのだ。一時に四人全員を手にしなくとも。
二人をとらえられれば、もう二人だって同じ手でとらえられると踏んでいるのだ。
むしろ、二人だけならよりくみしやすい、好都合と思っていることだろう。
はたして翌昼おれたちが目覚めたときには、ネット上はすっかり『偽物憎し』で沸騰していた。
決して、これはおれたちにむけられているものじゃない。わかっているがこの勢い、ぞっとしないものがある。
ましておれたちは第三覚醒者。それを書き込んだ時の感情さえも感じ取れるのだ。
『言葉で人が殺せるなら殺したい』勢いでの言葉の刃がごろごろところがるそこは、こここそが真の戦場といえるほどの殺伐さ。
イツカでさえ、食欲がそがれるレベルだ。
アルムさんは引きずられないよう、厳しい顔をしつつもおれたちを励ましてくれた。
『わしらのころの戦いには、けしてなかった辛さだな……
よいか、これはお前たちにむけてのモノでは絶対にない。お前たちにはわしらがいる。
わしらは断じてお前たちの味方だからな! 絶対、こんなものには引きずられるなよ!!』
「だいじょうぶ、大丈夫ですわ? さあ、お食べになって」
「帰ってきたら、またここで、みんなでご飯を食べましょう。
わたしたち、おいしいご飯を作って、まってます!」
そしてクローリンさんとコトハさんは、あったかいお雑炊を運んできてくれた。
優しいおだしの香りが、食欲を呼び戻してくれる。
口に運べば、ぎゅっと詰まった島の幸の滋養が、すうっとおなかに染み渡る。
うん、しあわせだ。きっと、だいじょうぶ。
おれもイツカも、ふわっと笑顔になった。
今日は月萌がわの使者二人と、おれたち二人で会場に行っての『交渉』だ。
もちろん、あちらは狙撃班を数に入れてないだろう。
そして、3Sも。
けして数は多くはないが、個性を確立した3Sは月萌側にもいる。
かれらに暗示をかけ、自らをレイジやグリード、バニーやナツキと思い込ませて、おれたちのにせものに着かせていることだろう。
おれたちもだから、当然に3Sたちを連れていく。
大丈夫。今日のおれたちは、月萌側にはぜったいにまねできない編成で行く。
あちらがおれたちを偽物に仕立てようとしたとしても、確実に切り抜けられるやつだ。
食欲が戻ってきたおれたちは、ソーヤが仕込んでおいてくれた串焼きや、レクチェさんお手製の元祖・島ハーブティーまでうまうまといただき食休み。
装備や所持アイテム、作戦など最後の確認を行い、軽く体をほぐしたら、タカヤさんが操る飛行機に乗り込み、提示された座標まで飛んだ。
月萌領海にほど近い海に浮かぶ、大型フロートひとつ。
その上には、さすがに表面換装ではあったが、見事に整えられた庭と、シンプルながらも気品ある外観の建物が一つ。
開かれた門の内側、小さく丸い広場では、優雅なスーツの男女がびしっと整列して俺たちを待っている。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
ファン家、ならびにタカシロの係累と思しきかれらは、丁重におれたちを出迎えた。
さすがに、この段階で狙撃を仕掛けてくることはないようだ。
一度、タカヤさんにはここを離れてもらい、おれたちは庭園を通り、建物へと入った。
雑炊うまうま。
次回、襲い掛かる見えざる刃!
どうぞ、お楽しみに!




