11-4 『クランレパード』VS『おこんがー!』(2)
ミツルはアスカの入れ知恵により、特殊な方法でソニックブームを習得したと言われているが、そうではない。
これはもともと、彼が自力で習得していたもの。そう、アスカは言っていた。
『だけどね、ミツルはそれをめったに使わなかった。
常にプリーストとして、仲間の身の守りを優先していたから。
ユゾノさんと、その仮バディとの試合でもそうだった。
ミツルの仮バディは相手チームの猛攻に耐えかねて、これではらちがあかない、お前がユゾノさんを撃ち落せ、と指示をした。
ミツルはそれを拒んだ。この状況では危険すぎる、と言って』
続く話は、つらく悲しいものだった。
ミツルの仮バディは、それを言い訳としかとらなかった。
悪いことに、その試合はそのまま負けてしまった。
以降、仮バディの少年は、それを引き合いに出しては、ミツルのことを『役立たず』とおとしめるようになり……
しだいに、身の回りの雑用なども押し付けるようになっていったという。
そして間もなく、事件は起きた。
『これもあくまで、動画で見たことなんだけどね。
試合開始直前のフィールドでそいつが言い放ったんだ。
『このバディのポイント稼いでるの、俺だよな。お前は役に立たないわ。後ろで突っ立ってろよ!』ってさ。
さすがにそれは、審判にも注意を受けたんだけど……』
ミツルは、静かにキレた。
『ミツルは本当に突っ立ったままで、バディを一切支援しなかったんだ。
食ってかかった奴に『俺はいらないんだろう? 一人でやってけるところをこの試合で証明して、堂々と俺を首にすればいい』ってキッパリ。
結局、互いに最後まで折れずに奴は倒れ、ミツルがソニックブームで方をつけた。
そのあと、一度は暴言を取り下げる、と、頭を下げた奴だったんだけど……』
それはただ、復讐のためだった。
ミツルと上辺だけの関係修復後、気の合う仲間二人と結託して、ニセの決闘を始めた。
すぐにアオバが割って入った。ミツルたちの様子がおかしいと気にかけ、様子を見ていたのだ。
悪質な暴力行為をたくらんだ三人は、即日放校に。
しかしミツルも、一連のことですっかり『怒らせてはいけない男』と恐れられるように。
ミツルは次のバディを見つけられず、授業にも出られなくなり……
「早く、撃ち落としてみせて! 空中戦だっていい!
サヤマ君はやれるんだ。弱虫なんかじゃない。
そして私ももう弱くない!
それをいまここで証明しようっ!」
そのとき、高い叫び声が、回想を打ち砕いた。ユゾノさんだ。
凛々しくミツルを鼓舞するが、ミツルはぶんぶんと首を左右に振る。
「そっか、わたし、まだあの頃と同じと思われてるんだね。
わかった。それじゃあ、見て、わたしの力っ!!
いくよっ!『ハンマー・アロー・ボンバー』!!」
ユゾノさんの手元に生成された魔法の矢は、何回見ても『これ、なんかの間違いだよね』と思わされるしろものだった。
彼女の手元では普通サイズなのに、先端にゆくにつれ巨大化し、やじりの部分は直径2m以上もある奇妙なフォルム。
たとえ魔力の矢であっても、普通は絶対、まともに飛ばないシロモノだ。
しかし、上空から真っ逆さまに降らせるなら問題はない、ということのようで……
『おっといった――!! 『クランレパード』、ミツル選手の機動力でからくも回避!!
しかしここまで維持していたホーリーシェルは粉ご……なんだこりゃ――!!』
そのデタラメなかたまりはデタラメな威力を発揮。
ミツルが重ね掛けして強化した神聖防壁を粉砕し、その下の地面を中規模なクレーターに変えた。
カナイさんは大きく後方に跳び下がっていたからいいようなものの、みているこちらまで肝が冷える攻撃だ。
『す、すさまじい破壊力! 三ツ星時代のアカネ・フリージアをほうふつとさせるパワーです!!
これはミツル選手、やらざるを得ないのか?!』
天井近くで羽ばたくミツルと、彼に抱えられたアオバのもとに、羽ばたき飛行式小型カメラが近づいていく。
まもなく会場の巨大モニターに、二人の様子が大写しになった。
アオバがミツルに叫ぶ声がスピーカーから流れる。
『ミツル! 俺をミクにむかって投げろ! そしてお前はユゾノさんと戦ってこい!
あんな言ってるんだぞ。っていうか俺じゃあんなん止められないから!!』
ミツルはしかし、ふるふると首を振る。
『なんで!』
『また、あれ、きたら。
アオバ、ぺしゃんこ……
カナイさんも、いるし。その……。』
『だからってこれじゃ回避もできないだろ!! ほらユゾノさんチャージしてるから!!
俺を投げて、お前はソニックで……』
「いやだっ!」
スピーカーを通さない生の声までが、おれたちの座る席まで聞こえてきた。
「俺はプリーストッ! 仲間の身の守りが最優先っ!
この状況で、撃て、ない!!
ユゾノさんは、強い、から……でき……ないっ!!」
くしくもかつてと酷似した状況。
ミツルの声は悲痛に響く。
しかし、震えるミツルにかけられたのは、温かい言葉だった。
『ごめん、悪かった。
そうだな、たしかにそれは『賭け』だよな。
一度、体制立て直そうか』
『……!』
ユゾノさんも、心底驚いた様子で問いかける。
『サヤマくん、もしかしてそれで……なの?
さいしょの試合のとき、わたしを撃たなかったのは……
わたしが、よわいからじゃない?
わたしを、認めてくれてたから、なの?』
『……っ』
ミツルは何度もうなずいた。
ぎゅうっとアオバをかかえこんで。
『……そっか。そっかあ……
うれしい。ありがと』
『信じ、て、……?』
『うん。信じた。
わたし、知ってるから。
サヤマくんは、てきとうな嘘つく子じゃない。
たとえ、バディに嫌われるかもしれないって状況でも、信じるところを言える、まっすぐな子だから!』
『………………』
ユゾノさんが目元を拭いてかわいい笑顔を見せれば、ミツルのほほにも、光るもの。
その表情は、安堵に満ちている。
闘技場の中空に、しばし、温かなものが流れた。
やがて、ユゾノさんがにっこり笑って口を開く。
『よしっ、それじゃあ、遠慮なく狩らせてもらうねっ☆』
『え』
ユゾノさんは魔法弓にあらたな矢をつがえた。
とってもとっても、いい笑顔で。
『……!!』
『ちょっま、ユゾノさん? そこは感動の和解シーンでドローになるべき場面では……?!』
『それはそれ、これはこれ♪
さー、すっきりしたところで勝負勝負っ!
ほらっ、物足りないのはいやだから、さくさく補助魔法かけ直しちゃってね? はい321』
『!!』
『はええよー!!』
その後のバトルはコミカルな雰囲気で推移した。
地上に戻ったアオバはカナイさんと軽快に斬り結び、ミツルは飛び回りながら補助魔法をかけつづけ、ユゾノさんは楽しそうに矢の雨を降らせまくった。
結果はだれも倒れることなく、時間切れでドロー。
ユゾノさんはもうニッコニコ。開始前とはもう別人だ。
「あーたのしかったー! またやろうねサヤマくんっ!」
「あの。えっ、と……」
「おーおー、ミツルも隅に置けないなー。いいからふたりで反省会して来……ぎゃー、ちょっ首! とれる! ギブギブギブ!! ユゾノさんもモモンガパンチやめー!」
哀れなアオバに、あせったミツルがヘッドロック。あわてたユゾノさんがちいさなこぶしでぽかぽかパンチ。ちなみにミツルもユゾノさんも、顔が赤い。
カナイさんも、軽い調子で声をかける。
「ふふっ。アオバも隅に置けないねー?
……サヤマ君は、アオバのこと理解してくれてるの?
自分がのし上がるよりも先に、まわりの困ってる子たちを助けたいんだ、ってこと」
「お、おう。
たがいに全部話したうえでさ、それで組むこと決めた。
……ミクにもほんと、迷惑かけたよな」
「どういたしまして。
おかげでモモカと組めたんだし、結果オーライよっ!」
カナイさんはユゾノさんの肩を抱いてニッコリ笑う。
しばしその笑みを見つめていたアオバだが、おもむろに咳払い。
そうして、言い出したことは……
「ん、うんっ。
……あのさ、ミク。そのお詫び、ってんじゃないけれど。
うち、入らねえ? どうせなら、……」
「あー、ごめん。あたしたちね、ちょっと先約があるの。
てことで、これからも仲良くライバルしてね!」
「へ? え? せん、やく?」
「第二部での発表をお楽しみに、だよ♪
じゃまたね、ふたりとも!」
全て言わぬうち、みごと玉砕。
『おこんがー!』のふたりは、ニコニコと手を振って去っていった。
あとには呆然とするアオバと、「……ドンマイ。」と肩を叩くミツルが残された。
ついに現れた! 妖怪ブクマはがしが!!
とひさびさ驚いていたら、『勝手にランキング』さんでIN1頂いておりました。
ブクマはがしさん……さいきん業務内容広げてませんか……?
(邦訳:ありがとうございます!! 元気出ます!!)




