Bonus Track_92-3-2 ぐっとおなかに力を込めて! 自信のわいてくる秘訣!(2)~ソラの場合~
パレーナさんの、きれいな海色の瞳が、すこしきょとんとしたように俺を見た。
それでも全体としては大人かっこいいので、俺はどぎまぎしながら言葉を連ねた。
「その、落ち着いてるし、優しいし、かっこいいし、すごく大人の余裕で……
俺はすぐあわてたり、テンパっちゃって。話すのも、へたで、……」
「私は皆によく『じじくさい』と言われるのだがな。
そんな風に思ってくれる者もいるのか……」
パレーナさんはベッドサイドの椅子にかけると、かたちの良いあごを「ふむ」とひと撫で。
数秒間考えたのちに、こんなこたえをくれた。
「ソラよ。お前は、若くして多くの場数を踏んでいるな。
苦しい目にも遭ってきただろう。
それでもなお損なわれぬその純真さは、まぶしく、愛すべきものに思えるぞ。
そこに惹かれるものも多かろう。
それでも、ドンと構えてみたいなら、」
パレーナさんはこぶしを固め、とんと俺の腹をたたいた。
「ここだ。
腹に力を込めて、深呼吸。
なにかを口に出す前に、そうしてみるといい。
そして今一度いうべきこと、なすべきことを考えれば、肝の座った男になれる。
……そう、爺さんから教わった」
そうして、温かい笑みと大きな手で頭をなでてくれた。
「お前はまだ二十歳にもなっていなかろう。そう焦るな。
お前が戦場に、舞台に立つ姿は、充分に堂々として、美しい」
「あ、……ありがとうございます!」
不思議とそのとき、子供のころのことを思い出した。
父さんが笑って、頭をなでてくれた時のことを。
そうしてもらうといつも、からだじゅうぽかぽかとあたたかくなって、おなかの中から勇気がわいてきたものだった。
パレーナさんも、まるで父さんみたいに笑う。
「ふふ。
お前たちは、可愛らしいな。
私も自分の子を持ったら、さぞや可愛いのだろうな」
するとメリベルさんが熱く力説し始めた。
「そのあたりは大丈夫ですよ!
マルちゃんとのお子さんなら、絶世の可愛さに決まってますからっ!」
「っ?!
ああ、ゴホン、そういえば首脳会議についての打ち合わせがあったな、あとはたのむぞメリベル。ソラよ、体の具合が良いようなら島まで送らせよう、手配はしてあるのでいつでもメリベルに言うがいい。では」
パレーナさんはぱっとほほを染め、そそくさと医務室を出て行った。
それでもしっかり用件を伝えていくその後ろ姿は、やっぱりできる男なかんじで。
俺も、あんな大人になりたい。そう思ったものだった。
島に帰ってその話をしたら、ミツルはこういってくれた。
「俺もカケルは、そのまんまでいいと思う。
でも、もっと強くなりたいなら。
俺は、応援する。
いっしょに、強くなろう」
「よーし! じゃあ腹筋やろうぜ!」
「いやそうじゃないだろ。」
イザヤはノリノリで腹筋いいだし、ユウに突っ込まれる。
明るく笑ってまとめてくれるのはアオバだ。
「でも、いいんじゃないかな?
体鍛えるのも、強くなれる方法の一つだからさ!」
俺たちはもう知っている。
体を鍛えていたとしても、弱さや痛みが完全になくなるわけでも、それに負けてしまうことがなくなるわけでも、けっしてないということ。
それでも、今は思える。
みんなとならきっと、もうすこし強くなれると。
俺はぱんと立ち上がって、仲間たちを誘った。
「せっかくだし、ちょっと泳ごうか!
もちろん、無理がない程度でさ!」
「賛成!」
空にはまだ十分すぎるほど日差しが残ってる。俺たちは今日のトレーニングメニューを水泳と決めて、浜に繰り出した。
そこからの俺は、全力でパフォーマンスを仕上げていった。
俺は、あのひとたちに『見に来てね』といったのだ。
それに恥じない歌を、聴いてもらいたい。
ほんというと、ステージに上がるといまだに心臓バックバクなんだけど、そんなこともう言っていられない。
パレーナさんに教わった通り、ぐっとおなかに力を込めて、大きく大きく深呼吸。
そうして臨んだ本番では、不思議なくらいにリラックスして歌うことができた。
アオバは尻尾をピンとはねさせ、ミツルは小さく羽ばたいて、俺にナイスサインを送ってくれたのだった。
次回、だいたいこのころの赤リボンたちのほう、つづきです。
レモンさんはきっと何か使命があってきているはず……はたして何か?
視点の反復横跳びじゃ!! どうぞお楽しみに!!
現状、一話書き溜めできてます。今日中にあと一話書きます!
というわけで、明日あさっては予約投稿、土曜だけお休みをいただく予定となりました。
日曜のぶんは……なんとか書き上げたい所存です。
たびたびのお休みで申し訳ございませんが、よろしくお願いいたしますm(__)m




