Bonus Track_92-3-1 ぐっとおなかに力を込めて! 自信のわいてくる秘訣!(1)~ソラの場合~
ちょっと早いですが投稿します!
まだ俺にとって『ティアブラ』がただのゲームで、ミッドガルドでの冒険も純粋に遊びだったころから、アバターにはリアルの力が幾分か反映されていた。
その効果は冒険者レベルが上がるにつれて、大きくなっていくとも聞いた。
走ることがすきで、得意だった俺は、ラッキーと思ったものだった。
実際、冒険者レベルを上げるごとに、俺の素早さは目に見えて上がった。
超リアルに描かれたセカイを、リアルではありえないくらいの速度で走り抜けるのはとにかく爽快で、ひとりのときは無意味に草原を走ったり、飛んだりしたものだった。
それから、Aランク100万を達成して。
月萌ベータ居住域から高天原へ、VRとリアルが高度に重ねあわされたフィールドへとやってきて。
ティアブラで培った力を、この体に直に身に着けた俺は、とんでもなく強くなったはずだけど。
こころは、強くなっただろうか。
それから、たくさん、たくさんのことがあって。
俺はエクセリオンに、さらにはアイドルにまでなったけど。
こころは、強くなったのだろうか――
あたたかく明るい水の中、俺はふわふわと漂っていた。
なんとなく、こんなことを考えながら。
ふ、と浮上した感じに目を開けると、見慣れない天井をバックに、知らない女の人がこちらを見ているのが見えた。
茶色のうさ耳を生やし、同じ色の髪をみつあみにして背に流し、白衣姿。
清楚ながらも華のあるそのひとは、ぱあっと花開くような笑顔をみせて、優しく声をかけてきた。
「あら! まあ! 気が付かれたのですね!
ご気分はいかがですか?」
身を起こして頭を振ると、意識がはっきりしてきた。
そうか、今のは、夢か。
「えっと、大丈夫、ですけど……ここは?」
「パレーナ様の船の医務室ですわ。私は、医師のメリベル。
あなた様はパレーナ様と一騎打ちをなさったのち、気を失って、ここに運ばれたのですわ」
「そうですか……」
それを聞いた俺は、しょぼんとしてしまった。
俺は、勝てなかったのだ。ハッキリとは覚えていないけど、きっとそうに違いない。
「? どこか痛くてらっしゃるの?」
「いえ。……俺、負けちゃったんですよね。なんか、なさけなくっ……??」
ぽろぽろと口からこぼれると、メリベルさんはころころと笑い出した。
「ソラ様ったら。
逆ですわ。逆。
あなた様は勝ちましたのよ。不死鳥のようになって、パレーナ様の『大海嘯』をぱりぱりに割ってしまわれたの」
「えっ……うそ?!」
「ほんとうよ。
……ちょっと失礼」
メリベルさんはつかつか、医務室の入り口に歩いて行って、バッ!! と勢いよくドアを開けた。
そこにはたくさんの、ひと、ひと、ひと(全員けもパーツつき)。
なんだかえっらくキラキラした目をしているけど、いったい。
「あの華麗な一撃であなた様のファンになったひとたちと、さらにもっとファンになったひとたちですわ。
はいはい、みなさん戻りましょうね~? ソラ様が元気になれないと、金曜のライブが見られなくなりますよ~?」
「う……はぁ~い」
メリベルさんににっこりしっかりくぎをさされ、しょんぼりしちゃったひとたちがなんかかわいくて、俺は思わず言っていた。
「あの、みなさん!
今日は、ありがとうございました。
金曜日、頑張りますから、見てくださいね!」
「は――いっ!!」
するとみなさんは、ぱっと幸せそうな顔になってくれた。
「すまんな、気を使わせて」
医務室のドアの前からお見舞いの皆さんが去ったのち、静かにパレーナさんがやってきた。
開いたままのドアの枠をかるくコツコツノックするしぐさは、大人っぽくってすごくかっこいい。
「パレーナさんっ!
助けて下さったんですよね。ありがとうございました!」
「私が好きでしたことだ。礼はいらん。
それより、どこも痛くはないか」
「は、はいっ……」
ちょっと噛みながらお礼を言うと、かえってきたのは柔らかなほほえみと、かっこよさ満点のこたえ。
かっこいい。すっごくかっこいい。すぐにテンパってしまう俺とは大違いだ。
俺の口からはこんな言葉が飛び出していた。
「あのっ、聞いてもいいですか?
なんでそんなにかっこいいんですか?」
「私がか?」
「はい!」
うん、意外と長くなってしまったんでわけましたのです……
そして首脳会談のことはどこへやら(おい)
次回、続きです!
落ち着いた人になる秘訣、むしろ日向が聞きたい(爆)お楽しみに!




