Bonus Track_91-7 いつわりのゲームショーと、三枚舌(くらい)の策士と ~ユーさんの場合~
白いひかりの輪が落ちると、しっとりとした美少女が座しているのが見えた。
幾重にもひだを重ねた青い衣をまとい、黒髪を背に流し、愛用の琴を前にして。
繊細な指先がとろける音色を紡ぎはじめれば、お歴々はご機嫌な声を上げた。
「美しい。素晴らしい……!」
「次はぜひ我が国にも招きたいものですな!」
彼女がかつて、我らが祈願者たちを嵌めようとした活動家のひとりであること。
そして、今は魔王となった彼らと和解し、その味方となっていることは先刻承知だ。
好都合、というわけだろう。
『我らの』策が奏功すれば、魔王に連なる彼女は敗者。我が物にすることも、容易だと。
そう考えればこの合同ライブは、めでたく『未来のΩの展示会』と化するのである。
どこか表情の硬いままのハジメ君は、それを感づいているのか、いないのか。
いないままでいてほしい、と切に願われてならなかった。
あの策を立国党にのませることは容易だった。
スキル民生利用の解禁を。そのための協議をといつものように重ねて求め、いつものように渋り、『それよりいまは魔王打倒だ』とのたまってみせるかれらに、ならばわれらがその策をと『やむなく』といった笑いをまぶして申し出た。
悪辣と短絡を編み合わせた動画に、彼らは喜んだ。
そして巧みな物言いで、我らにゲタをぶん投げた。
『いいじゃないか。君たちがそのすべてをかけて月萌の明日を希求するなら。
そんな熱い思いを応援しない月萌人はいないだろう』
すべてをかける、上等だ。ならばケツも『自分で』拭け。
失敗はすべてお前らの責と。
もちろん策が成ったところで、協議の場にてひっくり返すおつもりでいらっしゃるのだろうけど……
問題はない。これでいい。
私は頭を下げながら、会心の笑みをこらえるのに必死だった。
大変だったのはむしろそのあと。私は、全力必死でハジメ君に弁明せねばならなかった。
これは、揺るぎなき明るい世のためと。彼らなら、きっとこの策をぶっ飛ばし、正しき未来を実現してくれるはず。それを信じているからこそ、あくまで第七陣とそれ以降へのダメージコントロールとして、この策を国会の場にて上奏したのだと。
彼の答えはこうだった。
『見届けさせてください。全ては、それからです』と。
いつになく厳しい声と表情のわが友は、正直に言ってギャップ萌えというか、しびれるカッコよさだったのだが、もちろんそんなことは言えない。
わかりましたと殊勝に頭を垂れて、なんとかまあまあ普通に接してもらえるようになったのである。
画面の中では、ついこの間まで学園闘技場を賑わせていたアイドルバトラーたちが、つぎつぎと歌い、踊り、弾ける笑顔を向けてくる。
これは、我らが月萌の国営企業が開催している、大型ショーイベントの一環。
すなわち、ゲーム。すなわち、フィクション。
そういうことに、なっている。
であるから我々は、大なり小なりご機嫌な様子で鑑賞してみせなければならないのだ――
国一番のファッションデザイナーが、倒すべき魔王たちの衣装を手掛けていても。
さらにはこのあと、国内最高のアイドルが、ノーギャラでここにとっこんでいくと知っていても。
けれどそんなナイスな拷問も、今日の彼らにとっては愉しいショーである様子。
いつもよりは無理のない笑いが時折起こる。手拍子をする者たちさえいる。
まあ、その気持ちはわからないでもない。
強く眩しく、輝けば輝くほど、堕ちたときの姿は惨めなものとなる。そのさまを、こっそりと想像しているのだ。
だが彼らは多分、考えもしていない。
そんな自らもまた、同種の妄想の対象となっているかもしれない、などとは。
いや。やはり、ハジメ君にはこんな気持ちを感じ取らせるべきではない。
そう思った私は一つ深呼吸。気持ちを切り替え、休憩時間には一緒に飲み物を、と彼に声をかけた。
次回、週明けの首脳会談にむけてです。新章突入です。
魔王様いそがしすぎだろ(逆切れ)というわけで、ちょっとゆっくりの予定です。
どうぞ、お楽しみに!




