11-3 『クランレパード』VS『おこんがー!』(1)
「あ、……の! サヤマ君……!」
あれは、火曜日の昼休みのこと。
おれたちは見てしまった。
思いつめたような声でミツルの名を呼び、駆け寄っていく女子の姿を。
低身長に、大きな瞳。フワフワとした栗色の猫っ毛と、モフモフのマント。
金曜に対戦予定のチーム『おこんがー!』の後衛だ。
名前は……
「ユゾノ、さん」
「金曜日。わたし、全力で行くよ。
サヤマくんも、全力で来て。
わたし、……」
鈴を振るような声でそこまで言うと、彼女は身をひるがえし、ぱっと走り去ってしまった。
突然のことに、一緒にいたアオバもぱちくり。
「え、え? 今のって……えっ!」
「……邪推禁止。」
ミツルはそれだけ言い置くと、ずんずかと歩き出した。
それから三日後。
控室前でアオバとミツルをお見送りしたおれたちは、出場者見学席にいた。
となりにかけたミズキが言う。
「『おこんがー!』って、可愛い名前だよね」
「おれもそう思う。
……あの子たちもこれが縁で、うちにはいってくれたらいいね」
「言えてる。
高天原はただでさえ女子が少ないし、この状況だと入りにくいものね……。」
そう、われらが『ウサうさネコかみ』は、悲しくもただいま女子メンバーゼロなのである。
相談してくれる子たちは何人もいるが、どうも『一番に入ってがっついてるみたく思われるのも』的な、チキンレース状態になっているらしい。
それに……
そんなことを考えていればフィールドに出てきたのは 白のモフリキッドアーマーを身に着けた女子二人組。
実況が華やかに二人を紹介する。
『まず現れましたは、純白の華麗なスピードファイターズ!
オコジョのレイピア使いとモモンガの弓使いの美少女コンビ!
一ツ星期待のバディ!『おこんがー!』だ――!!』
場内がおおおと沸く。
銀のレイピアを腰に差し、毛足短めのモフリキッドアーマーでスマートな立ち姿を見せる黒髪少女は、オコジョのカナイ ミクさん。
カラフルな宝石のはめ込まれた魔法弓を手に、モモンガマントを身に着けた栗色の髪の少女が、ユゾノ モモカさん。
アイドルバトラー化をゆめみるファンも少なくない、実力も華もある二人組だ。
『対するは、先週鮮烈なルネッサンスを果たした『クランレパード』!
あざとかわいいヤマネコちゃんと、フードの下は超美形なタンチョウヅル様のイケメンコンビだあ!!
トリッキーな戦いぶりと熱い友情で、今日も闘技場を沸かせてくれるのか――?!』
けれどこっちも負けちゃない。
前衛は、アムールヤマネコのハルバード使い、テンリュウ アオバ。
もともと、大きな青葉色の瞳がキラキラした、明るい笑顔の少年だったが……
『もともとアオっちはかわいい+かっこいい系なんだし、そこんとこ惜しまずだせばちょー化けるって! 騙されたと思って!』
というアスカのアドバイスで、アッシュの入ったブラウンの髪をととのえ、『もふもふでかにゃんこグローブ&シューズ』を装備したら、『あざとかわいい』と人気が爆発した。
病身の弟や、まわりの困ってる仲間のために小さな体でがんばってきた……という背景も人気に拍車をかけている。
後衛のプリーストはタンチョウのサヤマ ミツル。
真新しい、真っ白なローブのフードを払えば、切りそろえられた綺麗な銀髪と、赤い瞳の美貌があらわになった。
その清冽な姿に、場内が沸いた。
暴力事件に巻き込まれ、不遇の時期が続いたものの、それを乗り越えて凛々しく立つ姿は『勇気をもらえる』と評判。
もっとも、すぐにほんのりほほを染め、そそくさとフードをかぶってしまうところが可愛い、という人も多いのだけれど。
アスカによれば『そこは萌えポイントだからむしろそのままで』とのことらしい。
前衛二人がスタート位置で、互いの得物のさきを軽く合わせる。
後衛二人がその十メートル後ろで、弓と杖とを掲げあう。
開始のゴングが鳴れば、一斉に全員が動いた。
カナイさんがアオバの間合いの内側に一気に入り込もうとする。
アオバは見越していたようで、ハルバードを短く持ち、武器落としを狙う。
一方で、ユゾノさんは魔法弓を天井に向け、ペールブルーの魔力の矢を連射。
弓なり軌道を描いたそれは、天井近くからミツルを狙う。
ミツルは駆けだし、アオバの近くに。
後ろの地面で着弾と、暴風の爆発が起こるのをしり目に、杖を掲げ詠唱を開始した。
『おっと、ミツル選手うまい! しかしモモカ選手は――!!』
そう、彼女はその程度では攻めあぐねない。
自分の足元に向けて弓を引けば、フィールドの地面に風の矢がはじける。
ぶわり、吹き返しで自分をふき上げさせ、天井近くまで移動。
そうしてふわり、白のモモンガマントを広げ、旋回開始。
ミツルとアオバにむけ、矢の雨を降らせ始めた。
相棒の弓の腕に絶対の信頼を置いているのだろう、自分のすぐそばに魔法の矢が着弾しても、カナイさんは全く動じず猛攻を続ける。
相棒を信頼しているのはアオバもで、降り注ぐ魔法の矢に一瞥もくれず攻防を続ける。
それもそのはず、彼の上にはミツルの神聖防壁がかさ状に展開、頭上からの攻撃を防ぎ止めているのだ。
「サヤマ君っ!」
その時、ユゾノさんの叫びが響いた。
「わたし、まだ弱い?! 手加減されるほど、弱い?!
そんなことしてると、テンリュウ君ごと倒しちゃうんだよ!! ホントなんだからっ!!」
彼女はそして、旋回しながらパワーチャージを開始した。
彼女の必殺技はふたつあり、どちらも破壊力満点。
フルチャージで撃たれれば、なまじな防御魔法ではおいつかない。
『おおっと、モモカ選手からの熱烈アピール!
実はこのカード、双方因縁のカードです!
ミク選手、アオバ選手はかつてのバディ同士!
モモカ選手はミツル選手の初バディ戦の相手です!
さあ、どうするミツル選手?! こんどこそソニックブームで対抗するか?!
はたまたふたたび見逃してしまうのか――!!』
やっぱり二部分になってしまいました……!
し、試合部分だけなら一部分分だし!(苦しい)




