91-6 拍手いっぱい! アルム島平和条約調印式、はじまりました! 〜白リボンのカナタの場合〜
とりあえず投稿まで!
次回は続きの予定です!
赤リボンのおれたちから話を聞いて、おれたちもまた言葉を失った。
それからいろいろと検討を重ねたが、結局のところ、正攻法よりほかはなさそうだった。
すなわち、ワナならワナごと食いつくす。
となるとわれらが魔王軍は、この策を知っていることをおくびにも出さずふるまわねばならない。
そんなわけで、これを知らせたのは、ほんのごく一部。
首脳会談の調整官をはじめとしたブレーンたち、第七陣の作戦指揮や編成をおこなうメンツなど、秘密を守れることが確実なメンバーだけに絞った。
そのほかのみんなに教えるのは、当日になってから。
心配をかけてしまうことになるのは申し訳ないのだけれど、華麗に制して見せることで『ごめんね』に変えよう。
ともあれ、まずはステラとの平和条約調印式だ。
おれたちの代わりにリハやチェックをやってくれた赤リボンたちのおかげもあり、おれとイツカ、そして本日出演のアイドルたちは本番に集中すればいい状態。
予定の時間、あつらえられた衣装をまとったおれたちは、ありがたく会場フロートに向かったのだった。
司会進行をつとめるのは、淡いブルーのドレスでさわやかに装ったエルメスさんと、ダークブルーのスーツでビシッと決めたタクマ。
どちらの服も、この海の色に合わせた色あいと、シンプルな上質感でいい感じ。もちろん二人にしっくりと似合っていて、かっこよさ3割増しだ。
そんな二人に呼ばれて、おれたちは舞台の上へ。
調印を行う白いテーブルの前まで進むと、観客席を埋める皆さんに、そして司会の二人に一礼。
続いて、ステラ領女王ステラマリス陛下がご入場。夫君シュトラール殿下のエスコートで仲睦まじく入場して来られるのを、笑顔で迎える。
お二方の本日の装いは、レモンイエローを基調としたドレスと、淡い淡いイエローを帯びた白のスーツ。優雅な一挙手一投足のたび、星のようなかがやきが散る、美しくもどこか愛らしいものだ。
キラキラのティアラもお揃いで、まるで妖精の国のロイヤルカップルである。
「素敵です、よくお似合いです」
思わずそう告げたら、ニッコニコの笑顔で「ありがとう。お二人もすごく素敵よ」「とてもカッコイイよ。まさしく正義の魔王様だね」とおふたりにほめてもらってしまった。
そう、いまおれたちが着ているのは、普通のスーツじゃなくて、マントがやけに堂々とした、魔王っぽい装束なのだ。
『正式な国際式典なんだし、さすがに』とおれや何人かは言ったんだけれど、結局ノリノリになったアカネさんにはかなわなかったというわけだ。
これは衣装これは衣装。心でそう唱えて笑顔でありがとうございますと返せば、イツカのやつめは「これアカネちゃんがデザインしてくれたんだ! マリーさんとシューさんも作ってもらったらいいんじゃないか……じゃない、ですかっ?」なんてのたまわる。
こいつ、アイドルバトラーなりたてのころに着るハメになった『ちょっとえっちな衣装』も平然と着てたし、昼寝シーンを撮られても平気だし、なんなら公開露天風呂をタオルだけで入ろうとすらしていた。
ほんとうに、つくづく神経の太い男だ。それとも、まだまだがきんちょなのか。
見習おうとは……ちょっとしか思わないけど、たまにうらやましいときもないではない。
閑話休題。
おれたちにつづいて姿を表すのは、魔王軍、ステラ領それぞれの後見を務める方々――すなわち、アルムさんご夫妻と、ステラさまである。
『おお、マザー・ステラ様……まさか、あなたさまと同じ舞台に立つ日が来ようとは……それもこのようなかたちで。
このアルム・クルーガー、感無量にございます……!』
ボウ・アンド・スクレープをばっちり決めつつも、アルムさんは男泣きしそう。レクチェさんに笑顔でこそっとたしなめられてる。
いきなりステラさまと顔を合わせたら、アルムさんは大変なことになりそうなので、一度顔を合わせてもらっていた。
それでもこのウルウルぶり。前もって会ってもらっておいてほんとによかったと思ってしまう。
けれど、イツカがよかったなーよかったなーと背中をさすってあげれば、アルムさんも笑顔に。
ほんわかした雰囲気に包まれたところで、シューさんがマイクを渡された。
『ああ、そうだったね。開会の辞を述べなければ。
これより調印されるアルム島平和条約は、さきのステラ杯で勝ち取られし願いに基づき提案されたものでした。
しかし、ただそれだけにとどまらないのは、みなさんも既におわかりでしょう。
ごらんの通り、我々は胸襟を開き、笑顔で語らう間柄。憎しみ、争うことのかなわない、親しき家族のようなものなのです。
本日の調印式は、それをカタチにするためのものでもあります。
われわれはともに平和への誓いをしたため、楽しい歌を歌いましょう。
今日のこの日は、平和で幸せな世界への確かな一歩。
さあ、ともに、拍手をもってはじめましょう!』
さすがというべきか、シューさんは緊張した様子も見せず、腹から出る声、アドリブ込みのあたたかなことばで見事に盛り上げてきた。
素直に、素晴らしい。こんなの拍手せずにはいられない。
かくして舞台の上も下も、みんなが大きく手を叩く中、調印式は華やかにスタートしたのであった。




