91-1 痛みと、愛との再会と〜白リボンのカナタの場合~
新型結界を無事披露、月萌軍にお帰りいただいた直後に、それは起こった。
アルムさんが地面にくずおれ、うなり始めたのだ。
「うぐう……やってしもうた……
はりきりすぎたらこしが……こしがうあああ……」
いや。いやちょっとまて。
アルムさんは幽霊だ。実体はない、というか超希薄だ。それが、腰を痛めるなんて。
「うむう……たぶんぎっくり腰だけど幽霊だから断言はできないんだな……」
われらが医療班の意見はだいたいこんな感じで一致を見ている。
「とりあえず回復かけてみる?」
「いや、幽霊に神聖魔法ってやばい気が……」
「アルムさんは飲んだり食べたりできるし、ポーション飲んでもらってみましょうか?」
残念なことに、国を超えて集まった精鋭プリーストたちといえども、幽霊を治療した経験がある人はいなかった。
アルムさんを横たえたベッドをかこみ、あれやこれやと試してみるが、結果は芳しくない。
途方に暮れかけた、その時だった。
『あなた?
そろそろおきてあげてはいかが? いくらかわいい女の子たちに心配してもらって嬉しいからって、そのへんにしておかないと怒りますよ?』
少し古風なドレスをまとった、なんだか見覚えのある貴婦人がどこからかあらわれたのだ。
花のかんばせにうるわしの、ただし迫力も満点の笑みを浮かべて。
とたん、アルムさんは飛び起きた。
『レクチェ?! おっ、おまえ、いきていたのか?!』
レクチェ。その名前には憶えがある。
ほかでもない、いまは亡きアルムさんの奥様だ。
その場を驚きの声が包んだ。おれも仰天だ。
『死んでいますよ。でもね。
あなたったら、ボスモンスターとしての魔力をめいっぱいつぎ込んで、墓前に毎日GIN-SHARIをお供えしては語り掛けるのですもの。おかげで目が覚めてしまったわ』
リンカさんにどこか似たそのひとは、苦笑しながらアルムさんに歩み寄り、そっとその手を取った。
『言いたいことは色々あるけど……
こうなったからには、わたくしもここで、あなたのお手伝いをいたしますわ。
魔王様、皆さま、どうかわたくしをお仲間に加えてくださいませ。
主人を支え、皆さまの助けとなるべく、誠心誠意つとめます』
そしておれたちにむけ、流れるようなカーテシーを。
もちろん歓迎だ。おれもボウ・アンド・スクレープでこたえ、握手の手を差し出した。
「どうか気楽になさってください、住まわせていただいているのはおれたちの方ですから。
あの、せっかくご夫妻そろわれたことですし、お部屋をお返ししましょうか?
お二人の思い出も、つもるお話もあるでしょうし」
そう、おれたち魔王四人組は、アルムさんから執務室とともに、領主夫妻の居室を譲っていただいていた――「一人で使うには広すぎる部屋だし、思い出も、ありすぎるからの」ということで。
けれど、他の部屋に比べて格段に状態の良かったその部屋をくずすのは忍びなくて、間取りや調度をいじらずにいたのだ。
すでに起きていた赤リボンたちに事情を話せば、二つ返事でOK。
ササッと片付けたのちにお通しすれば、レクチェさんはいっぱいの笑顔で歓声をあげてくれた。
そんなわけで、めでたく新たな仲間も増えたおれたちのさいしょのしごとは、部屋のお掃除と引越しだ。
幸いここはヴァルハラフィールド。執務室のクローゼットにポータルを設置、もともと基地でおれたちが使っていた部屋につなげて私物を移し、領主夫妻の居室に『クリーニング』コマンドを使えば、すべて完了だ。
そのとき、赤リボンのイツカが笑っていった。
「ほんとならさ。
ゼロブラ館の部屋につなげられたら、いいんだけどな。
そしたらおまえたち、もっと会えるじゃん。
ライムちゃんと、ルカとルナとさ」
まったくこいつは、ちょっと油断すると無邪気にこんなことを言う。
そうしたとしても、愛する女性と会えるのはおれたちだけ。こいつ自身は多分、セレネさんとは会えないのに。
優しすぎる主人公野郎をおれたちは、セレネさんのぶんまでぎゅーっとしたのだった。
さて、うれしいハプニングのおかげで、時間は押しぎみだ。
このあと、ステラとの和平条約調印式に向けての準備と、週末の合同ライブのうちあわせがある。
また第6陣の結果を受け、ステラ主催での国際首脳会談が開かれるので、その下準備も待っている。急いで引き継ぎをし、おれたちはそれぞれ動き出したのだった。
(腰の)痛みと、愛との再会と でございました。
ぎっくりごしこあい((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
次回、レオナさんやアカネさんたち、デザイナー組にスポットが当たる予定です。
どうぞ、お楽しみに!
※あさって月曜と、そのつぎの火曜日ですが、所用につきお休みさせてくださいませ。
毎日更新を楽しみにしてくださっている方、申し訳ございません!m(__)m




