Bonus Track_90-6 まもりたい! 無邪気なうさぎの優しい祈り!! ~シオンの場合~
灯台を兼ねた中央管制塔には、あちこちのカメラやレーダーからの情報が集約されてくる。
戦いが始まるとオレはそこにつめて、管制業務をはじめるのだ。
とはいえ、複数サイトでの戦闘を、ひとりで全部みるのはむりゲー。
第四陣で仲間になったアンドロイドエージェントのひとたちや、かもめ隊の管制のミイナさん、ほんとはだめなんだけどこっそり手伝ってくれてるレムくんたちといっしょに手分けしている。
ほんというと、索敵の達人のヴァラさん、神のうさ耳の主であるカナタ、どっちかでもいいから加わってくれるとカンペキなんだけど……
ヴァラさんはダンジョンアタック対応中だし、白カナタはいま前線、赤リボンのほうは後に備えて休息してる。
だからそのぶんは、オレがクールにがんばるのだ。
こういう時ってけっこう、どさくさにまぎれて侵入しようとしてくるひとがいるのだ――オンラインでも、オフラインでも。
だから、そっちも気を付けて、必要なら対策しないといけない。
北海岸での砲撃にあわせて、月萌軍ハッカーから1000件/秒の攻撃が。
月萌有志チームで、あらかじめ作ってあった対策プログラムが撃退。
するとすぐ、挙動分析でプログラム改良したと思しき攻撃がきた。
これについても予測と対策がすんでいる。つつがなく撃退できた。
月萌軍には、アスカがいる。
もんくなしの天才で、筋金入りのハッカーが。
そのアスカが監修したサイバーアタックチームの攻撃をしのげてるってのは、正直うれしい。
もちろんみんなのおかげなんだけど、オレもちょっと、成長できてる気がして。
南海岸でソラの全力キックが、パレーナさんの大津波をうち砕いた。
もちろん、力ずくでやったわけじゃない。
不壊属性をまとった状態の真っ向攻撃で、相手のほうを崩壊させたのだ。
すごい。管制は冷静でなくちゃならないものだけど、それでも興奮しちゃうくらい、すごい。
もちろん、オレはクールな管制チーフ。
ふおおおおっとしつつも顔には出さず、各種情報を確認。
よし、だいじょぶだった。
ぶっちゃけ、月萌潜水兵の二人がちょっと怪しい動きしてたからあれにあわせて侵入してくると思ったのだけど、とくになにもしてこなかった。
よかったとおもった、その時だった。
白カナタから、フロート制御システムに割り込み操作があった。
防衛用フロートをさっと動かすと、さっきの潜水兵二人のかげ、少し離れたところに『エナジーアローブレット』をガガガッと打ち込む!
そのときなんと、その二人の姿がふえた。
もとの場所の二人は、警戒しているようなそぶりでゆらゆらしつづけるだけ。
ふえたほうの二人は、慌てた様子で逃げ始める。
なるほど、幻術だったのだ。
つまり、オレが気になった二人の姿は、もとから幻術によるもの。
本物の二人はなんらかのステルススキルをつかって、島の海底に何かをしようとしていたのだ。
たぶん、防御結界を阻害する護符かなんかを設置するつもりだったのだろう。
戦いの終わりに放たれる一斉砲撃に合わせて起動すれば、魔王島は大ダメージを被る、というわけだ。
オレはそれをみて、ガーンとショックを受けてしまった。
こっそりひきょうとか、そういうんじゃない。
ミッドガルドでのバトルイベントでも、工兵が敵陣に忍んできてボムしかけとくとか、それを解除するとかは、普通にあった。
戦いで、作戦だから、そういうことは、ある。
オレがショックだったのは、それを見抜けなかったこと。
もちろん、それをあからさまに出したらみんなが心配する。パフォーマンスが下がってしまう。
この管制室の空気をたもつのも、管制チーフのオレの役目だ。
だから明るく、声を上げた。
「だ……だいじょぶっ。
いちおう『看破』付与のカメラだったのにね。
もっと、監視システム強化しないとだなあって!」
そりゃ、こっちは計器をつうじて観測してるだけで。あっちだって最新鋭のイリュージョン機器とか使ってきてる。
だから、こういうことがあるのも、ある程度しかたないともいえる。
でも、カナタはそれを見抜いた。前線なんて忙しいとこで、それも、視認なんかできない海のそこでおきてることを、カナタはちゃんと見て――いや『聴いて』たのだ。
わかってる、オレのちからじゃそれはむり。
ガンガン打ち合う戦場で『超聴覚』使うのは危険すぎる行為。だからこうして機械や、ヴァラさんみたいな索敵スキルにたよる。
それでも、おもった――
「『これ、オレができなきゃなことだった。
管制チーフとしてここにいる、オレができなきゃだったのに』」
きこえてきたのは、ソーやんの声だった。
驚いて振り返ると、ソーやんがまじめな顔でオレをみてる。
「えっ、えっ? どうしたのソーやん?
オレまだそんなこといってないよ?」
「いや『まだ』って言ってる時点で語るに落ちまくってますからシオンさん!
っていうかぶっちゃけ一見してバレバレだし!!」
「だよね」
「ほんとそれ」
「えええ?!」
次々上がる声にあわてて見回すと、管制室のみんながこっちを心配そうに見てた。
おかしい。うさぎ装備はポーカーフェースがとくいになるはず。いったいどうしてばれてるんだろう。
「いやあからさまにおみみがショボーンとしましたし」
「かわいいっていうかかわいそうっていうかキュンとするっていうか」
「ええええ!
もしかしておれ、これまでもみんなに、しんぱいかけてた……?」
かえってきたこたえは、オレを驚かせた。
「心配……っていうか、けっこううさみみに感情出まくってるっていうか……」
「パタパタしててかわいいっていうか……」
「防衛成功するとパタパタってしてああうれしいんだってわかるし」
「ドキドキしてるときもちっちゃくパタパタしてて」
「つかれたときとかは顔は笑っててもこう先っちょ下がっててすぐわかるし」
「えええ……そうだったの……??」
なんてことだろう。
オレは管制チーフとして、クールにふるまってるつもりだった。
でも、ぜんぶバレバレだったのだ。
おろおろしてると、あったかい手が頭にのっかった。ソーやんだ。
わしゃわしゃしながら笑顔で言ってくれる。
「いや、いいことじゃん?
だってわかるからな。ああ、シオも自分と同じように、驚いたり喜んだりしてるんだって。
それだけでなんつうか、ホッとするもんよ。な、みんな?」
「そうですよ!」
「まったくそのとおりやな!」
「シオンさんはそのままでいいんですよ!」
「なんというか、癒しです!」
いくつもの優しい声が返ってきて、オレはウルッとしてしまう。
だが、だからこそ思った。
「ありがと、みんな……
でもね、オレ、やっぱ思った。
そんなみんなだから、守ってあげたいって。
もっともっと、まもるちからがほしいって!」
素直に口に出したなら、体のなかがほんわかと温かくなってきて。
ソーやんの手を握って目を閉じたら、まぶたのうら、耳のなか、見えて聞こえた。
まるで多重のパノラマを一気見するように、この島のぜんぶが。
おれの第二覚醒を告げるシステムアナウンスが響いてきたのは、それからすぐのことだった。
某魔王軍メンバーの証言「クールにふるまおうとするシオンさんぶっちゃけギャップ可愛い」
某魔王軍メンバーの証言「みじかい黒うさみみパタパタ可愛い」
某魔王軍メンバーの証言「癒し。とにかく可愛い」
結論:プリティ!
……だそうです。
次回、白カナタに視点戻ります。
どうぞ、お楽しみに!




