90-1 舞え、南国の空に! もうひとつの特訓の成果! ~白のカナタの場合~
ソラくんの特訓について触れられていなかったのはミスではなかったのです(ドドン
リンさんが翼を取り戻した影響は大きかった。
天空島議会は、リンさんが鷲<アリオン>家の公女に戻ることを満場一致で認め、それに至る決定打を勇気をもって与えてくれたミルルさんにも、貴族の名誉を授与した。
さらにミルルさんは、この功績をもって、ライアンさんの群れに戻ることを許された。
二人とも当面は、働きながらの留学という形でステラに居続けるが、機を見て帰郷する予定である。
さらにこのことは、イザヤとユウ、そしてソラにも勇気とインスピレーションをあたえた。
その結実が、今日、ここに披露される。
南国の青空の下、満場の注目の中、白い武装でまっすぐに立ったソラが、長い脚をすぱんっと蹴り上げた。
頭の真上まですんなりと足が来る。何度見ても思う、すごい。
「ほいっさぁ!!」
少し離れたところからイザヤ、そしてユウが、ぴょいと跳躍。ソラの足の上に飛び乗ると、ぐんっと上向き急加速。突き抜けるように上昇していく。
やがて加速度は減衰し、ゼロに。
落ち始めた瞬間に、背中ですきとおった翅がひろがる。
風をとらえ、くるり。かろやかに滑空すれば、南海岸は拍手に包まれた。
* * * * *
イザヤとユウ、そしてソラには、もうひとつの特訓があった。
まずイザヤとユウ。
クイーンアントのアンナから翅をもらった二人は、それを使う練習をしていたのだが、一つ問題があった。
『多段ジャンプで上昇し、翼で姿勢制御しつつ降下攻撃。
これ、威力あるしかっこいいけどさ。このままじゃイツカの劣化版だよね。
せっかくの滑空も生かせてないし』
『うげ。
ユウお前さ、そろそろビブラートにつつむっての覚えてくれよ……』
『それはオブラートでしょ?
っていうか包んだらイザヤわかんないじゃん』
『うぐっ!』
『はいはいはい! あたしとびーこでもちあげて、ぶんなげるのはどうっ?!』
おかっぱかわいい幼女フォームではいはいっと手を上げるアンナ。かわいいんだけど、言ってることは女王様だ。周りで見てる一部のお兄さんがメロメロになっている。
当のびーこ……『嫉妬』もすっかりメロメロで、いい笑顔でアンナをむぎゅーっとした。
すっかり仲良くなったこの二人、姉妹っぽくてなんとも和む。いっそもうこのまま定住していただきたいものである。
『はは、ぶん投げるっておいおい!』
『うーん、それもたのしそうだけどさ、アンナイベントボスだから忙しいじゃん?
ヴィー子もいつも人前に出てくるの、やっぱしんどいよね?
二人に、無理させない方法を見つけたいんだよ』
ユウはちびアンナと『嫉妬』の頭をいいこいいことなでながら、柔らかい笑顔で答える。いいおにいちゃんっぷりだ。
『モモカさんの、風の弓で打ち上げてもらうか……俺もひとりなら、運べるけど』
なんか対抗してアオバのおみみをなでもふしながら言ってるミツル。いやどうしてそうなった。
でもちょうどいいのでおれもイツカをもふもふすることにする。
イザヤがモフる相手を探してきょろきょろしながら言う。
『うーん。モモカちゃんは魔王軍の主要ダメージソースだからなー……はやめに制空権取らせたいし、ミツルはプリーストだから正直俺らほど前に出させたくないんだよなー……』
『? みんななにモフモフ祭りやってるの?』
そこへソラがやってきた。
モフモフ祭りなうのおれたちをみて、きょとんとした顔をしているけれど。
『おまえだ――!!』
『わあああ?!』
ソラの先祖返り技は『Gravi_Stepper』――足もとに重力を発生させるわざだ。
もともと得意としていた蹴り技の威力を上げる好相性のスキルだが……
『ソラのそれで、こう、俺らをドーンと蹴り上げればいいじゃん? かなり出力あるしさ!
ほら、『0-G+』のカナタがイツカ蹴り落とすバージョンの逆みたくして!』
『あー!』
『あー!』
『いやちょっと待って言い方がすごくアレ!』
『だよね……なんかもっとマシな言い回しないかなー……』
そう、なんかすっごく人聞きが悪い感じがする!
ソラ(※イザヤにモフられなう)とおれは顔を見合わせた。
結局、適切な言いかえは見つからず。
『それよりはコンビネーションの練習したほうがいいよね』との結論にいたり、イザヤとユウ、そしてソラの『蹴り上げコンビネーション』の練習が始まったのだった。
そこからは試行錯誤が続いた。
さいしょはソラが地面に寝転んで、空を向けた足裏にイザヤとユウがとびのって、蹴り上げてもらうという形だった。
さすがに一発成功。しかし、なんか絵的にいまいち映えないということで、ソラが逆立ちしてみることに。
だがこれは絵的に美しいけれど、逆立ちが不安定で危ないためリテイク。
『そうだ! まずいっそソラを砂浜にさかさに埋めてさ、イザヤとユウ蹴り上げてからこうポーズとってドバーンと飛び出すとか!』
『いやイツカ、それ俺むり! ていうかしんじゃうから、ってわあああ?!』
『ミツルストップ! イツカも悪気ないだろうから! カナタもやめたげて! 埋めるのやめたげて――!!』
そんな一幕もあったけれど、ソラが頭上まで足を上げられることがわかり、この形に落ち着いた。
完成まで内緒にしておくため、練習はすべて地下フィールドで行っていた。
砂浜の様子もVRで再現したものの、実際の砂浜でやれるかは少し心配だった。
けれど三人は見事に決めてくれて、おれもほっとしつつも惜しみなく拍手を送ったのだった。
なおビブラーバさんは結構好きです。
次回、島南での激突開始! どうぞ、お楽しみに!




