Bonus Track_90-3 迫る月萌航空隊! 島北の攻防!(2) ~月萌軍飛行隊指揮官(匿名希望)の場合~
設定は朝できていた(言い訳)
とりあえず投稿まで!
水平線にぽつり、小さな黒い点が姿を現す。
旧アルム島。現在の通称を『魔王島』。
われら航空隊は月萌領空より南進し、その北岸を攻める手はずとなっている。
ここに防衛部隊員を足止めしておくことで、南岸での作戦を無事に終わらせる。
それが今日の我々のミッションだ。
編成は、爆撃機が三機、要撃機が二機、小型輸送機が二台、飛行兵が八名。
それでも少なすぎるくらいだとうさぎの天才軍師は言っていたそうだが、相手はほぼほぼ新卒たちだ。足止めどころか、殲滅してしまうのではないかとしか思えなかった――
すぐに、彼が正しかったと思い知ることになるのだけれど。
防衛施設――見た目、岩と木でできた小屋のようなものにしか見えない――の前からキラキラと発生する輝き。島の各所で立ち現れた銀色のものは『友群強化』。続くのは神聖強化、『シャスタの恵み』、『タテガミオオカミの星眼』、そして各種バフが一通り。
意外と思ったのは召喚士チナツが加わっていることだ。
現在、この戦いに合わせて再びミッドガルドの隠しダンジョンへのアタックが再開されている。つまり、彼は翼をもがれたサル状態のはずなのだが、相棒へ陽気にジャムポーションをぶん投げている。
まあ、それはいい。こちらも同様にして――もちろんジャムポーションはぶん投げないが――強化を積んだ。
飛行兵が輸送機からテイクオフ、遅滞なく両翼についたところで、爆殺カラスが進み出てきた。足元に拡声のオーブをたたきつけ、挑発的に声をかけてくる。
『おーお、爆撃機にメガフル装填たァ随分ヤル気で来てくれたもんだなァ。
環境保護には最大限配慮する、じゃなかったっけか?』
そう、そのとおりだ。
配慮『は』した。テラ級の装備はせず、メガ級で抑えている。
こちとら人類の敵を相手にしているのだ、これで十分というものだろう。
でもって、裏切者の下っ端のクソガキを相手に、いちいち答える必要などはない。
ただ、ミサイルの発射を指示した。
対して奴は不敵に笑い、高らかに呼ばわった――『レッツ・パーリィ!』
たちまち飛び出してくる巨大なボム10発。つづいてさらに10発。どうみてもテラフレアボムだ。しかもおそらくまたバージョンアップしていやがる。
『確かにオレたちゃ海を荒らさない約束だ。だが、バクダン積んで飛んでくる奴らをバクハすんのは許されるよなァ?』
爆殺カラス男は楽しそうに笑った。
おかしい、こいつ、完全に頭おかしい。
いくら相棒の覚醒技で、周囲への被害は抑えられるとはいえ。
いや、わかっていたことだ。ひるむ要素などない。
防御対策はもちろん万全だ。我らには『センフロ』があるからダメージはゼロ。光学的防御も施されてあり、目がくらまされることもない。
だが、爆炎の向こうに見えたものどもに、さらにわが目を疑わざるを得なかった。
チナツを筆頭として五人が、防衛隊の最後尾に並んで踊っている。見たものにスロウのデバフをくれる、『減速の踊り』だ。
デバフ抵抗ももちろん積んであったが、さすがに五人そろって踊られると、ガリガリと耐久値が削れていく。
まさか、こんないかれたデバフを仕掛けてくるとは。急いで加速での対抗を指示。
そしてそんなものより恐ろしかったのは、もうひとつのほうだ。
こちらのメガボムを完全に食い尽くしてなお猛る、地獄の爆炎の中を突き抜けて、飛んでくる者たちがいる。
人の背丈ほどもあるホワイトタイガー――先代虎神獣のシーラ。
その背中にまたがる、召喚士クレハ。
コノハズク装備の飛行ハンター・ユキ。
いくらカラス男の技でボムダメージがゼロになるといったって、万一があれば黒焦げだ。
本当に、いったい、どんな精神力をしているのだ。
ひるみかけた自分に活を入れるように声を上げた。
『飛行兵、押さえろ!
相手はたったの三人! 恐れるに足らずッ!!』
『我が参戦を知りつつこの人数とは……なめられたものよ!』
対してシーラは咆哮し、飛行兵たちに飛び込んできた。
あっという間に一人が跳ね飛ばされ、一人が前足の餌食に。それでも打ちかかった二名の攻撃は通ることなく、あっさりと返り討ち。
『シーラと闘うな! ユキを狙え!』
いったん後退、難を逃れたハンターが声を飛ばすが、それは悪手だった。
『おい。今、なんていった』
ホワイトタイガーの背中から飛んできたのは、『タテガミオオカミのにらみ落とし』。デバフ抵抗を一気に削り、残った飛行兵二人がガクンと高度を落とす。
『ナイス、支援! コノハライド!!』
すかさず覚醒技を飛ばしたユキに二人が吹き飛ばされ、前哨戦はあっという間に終わってしまった。
『いよーう、あっついねー? ってなわけでー?』
『山、笑う!』
調子づいたやつらは、一気に畳みかけてきた。
カモシカのハルオミが覚醒技で岩山を生成。我らの行く手を阻む。
飛行しないハンターたちが、そこを身軽に駆け上ってくる。
『戦闘機』とはいえ、さすがに足に地を踏ん張ったハンターに直接ぶん殴られることを想定したつくりではない。急いで高度を上げる。
『はいはーい逃がさないよー?
カモナ・ファニーフォレストー!
植物はやすんはカナぴょんだけじゃないってねー?!』
が、さらに追いかけてくる色鮮やかな植物。チナツの覚醒技によるものだ。
にょきにょきと伸びてくるつるをよけていれば、機銃の狙いも定まらない。そのうちにどんどんと押し返されていく。
だめだ。これは、負けだ。部下たちに退却を指示した。
殿として旋回しつつ――しばし迷って、そのボタンを押した。
森のはたへと落ちていくのは、隠し玉の特殊ボム。
大丈夫だ。小さな範囲をしばらく焼いたら、鎮火するようになっている。
あくまで、消火に手を取らせ、やつらをここにくぎ付けにするのが目的だ。
正直、褒められた手ではないし、やらずに済めばよかったのだが……
『スイート・ミルキィ・レイン!!』
響いた、優しい、甘い声。
上がった火の手は秒で鎮火され、私は心中ほっとしながら、全速力でその場を離脱したのだった。




