Bonus Track_89-5 つばさをなくした、おひめさまのおはなし~リンの場合~
リンさん過去回です。
うあああ予告詐欺ってしまったすみませぬ……もっと短く終わると思ってた……!!orz
父は鷲<アリオン>家の公子、母はステラの貴族の姫。
ふたりの婚姻には、とうぜん政略結婚の側面があった。
それでも、父と母は胸焼けするほどラブラブで、わたしのことも溺愛といっていいほど大切にしてくれて。
だからこそわたしも、けんめいになった。
ステラとの子だから、出来損ないだなんて、誰にも言わせたくなくて。
さいわい、二人の血はそれなりのアドバンテージを与えてくれた。
勉学、武術、芸事。体力、知力、精神力に、容姿。
ただ、飛ぶ力は並だった。
『空の民』でもっとも重視されるのは飛ぶ力。同年代の子供には、わたしをからかうものもいたし、陰口を言う大人もいた。
父も母も、敬愛する女王ルリアさまも、つまらないやっかみなど気にするな、私たちはリンの味方だからといってくれた。
けれど、そうしてもらえるほどに、わたしはやっきになった。
こんなにも大事にしてくれる人たちに、なんとか応えたいと。
もっともっと飛べるようになって、父母に安心してもらい、ゆくゆくはルリアさまのおそばにお仕えしたい。
そうして、ともにこの天空島を、もっと住みよい場所にしたいと。
毎日、練習を重ねた。
雨の日も、風の日も。
あの日は、嵐がくると予測されていた。
だがわたしは、そんな日だからこそ飛び出した。
誰も練習なんかしやしない日。そんな日だからこそ、練習を重ねて差をつけようと。
そしてわたしは暴風に巻かれ、翼を出現させる力と飛翔力を失った。
理由は明らかだった。天空島はいやな空気に包まれた。
島の技術ではわたしの『翼』をよみがえらせることはできなかった。
そのうちに、言い出すやつらがあらわれた。飛ぶ力がイマイチのリンは、それをわざと事故に見せかけて捨てたのだ。そうして補償金をせしめつつ、悲劇のお姫様になったのだと。
さらには、リンの父母もそれに加担した、その証拠に娘を家に置きっぱなしにして甘やかしているとまで言い出す輩が出るに至り、私は静かにキレた。
陰口を吹聴している者たち、そのリーダー格の息子に、決闘を申し込んだ。
当日やってきたのは代理闘士だったが、もちろんかまわなかった。
「あらまあ、卿らは大した勇気をお持ちでいらっしゃいますこと。
アリオンの女ならば幼くとも嵐の中飛び出し、翼をなくしてなお、こうしてみずから決闘の場に立つこともできますのに」
わざとお嬢様言葉でそう煽れば、そいつは顔を真っ赤にして飛び込んできた。
それを契機に始まった乱闘を制し、わたしはその場で宣言した。
「これでよくわかった。
この程度の連中に私の翼が治せるわけがなかったのだ。
大方私の継承権がはく奪に至るよう、わざと手抜きを指示していたのだろう。
そんなやつらの技術も、承認もいらない。
私はいまからステラにわたり、そこで治療と成人の儀を受けてくる」と。
さすがにそれをするとステラ領との関係にひびが入る、いったんソリスの別の部族を経由してくれと仲介役の大人たちに頭を下げられ、私は平原の民のもとに赴くことになった。
正直、期待していなかった。あんなことを言ったが、天空島の技術は高い。こと翼に関しては世界一と知っていた。
あれだけの啖呵を切っておきながら、先行きに希望はないといってよかった。
私は、夢を失ったのだ。父母を支え、ルリアさまにお仕えし、天空島をもっと住みよいところにする夢を。
島を離れ、身元を引き受けてくれたライアンさまのお屋敷で暮らす日々が重なるにつれ、その事実は心に重くのしかかった。
悪いことに、近接戦闘を得意とする平原の民の中では、わたしなど貧弱なものでしかないと気付かされた。
攻撃をよけたりあてたりするのは空の民相手より簡単だ。けど、頑丈な彼らには攻撃が通らず、結局負けてしまうのだ。
やっぱり、ダメなんだ。鳥の私は、ここではやっていけないんだ。
気持ちは沈む一方だった。
ライアンさまは、まるで本当の子供のようによくしてくれたのに。
そんなある日出会ったのは『生まれつき飛べない鳥』をトーテムにもつ少女だった。
ミルルという名の、かわいらしい女の子。
人一倍頑張り屋の、だからこそ優しい彼女との日々は、わたしの心を癒してくれた。
ここにいていいんだ。鳥のトーテムでも、いいんだ。
わたしはまだ弱いけど、それはまだ子供だから。これからがんばって、強くなっていけばいいんだ。
そう実感できたわたしは、やっとすこしだけほっとできた。
だからこそ、見られたのだ。
みんなが楽しそうに見ていたあの動画。月萌で大人気の『ミライツカナタ』の活躍する様子を。
パーティーの司令塔であるカナタの戦いぶりをみて、わたしは直感した。
あれが、わたしの天職だ。
パワーのなさを補い、動体視力と判断力、スピードを一番に活かせる。
ガンナーになろう。あんな、クールでかっこいいガンナーに。
そうしてわたしは、ミルちゃんに助けてもらって、ステラに渡った。
肝心の翼は蘇らなかったけれど、新しくできた家族との日々、ガンナーとして成長を遂げていく楽しさが、わたしを支え続けてくれた。
ステラで成人の儀をパスし、エルメスの家のきょうだいたちとともにステラ領軍で働き始めた私は、皮肉にもカナタたちを敵に回した作戦行動に参加。拉致と言って差し支えない形で、カナタとイツカをステラに招いた。
それでも彼らとその仲間たちは、かぎりない優しさでわたしたちを助けてくれた。
かれらになにかあったなら。そのときこそは、絶対にこの恩を返す。
その決意のもとにわたしはいま、ここにいるのに。
わたしは、飛び出してしまった。
心配を、かけてしまった。
うさぎ姉妹によるトレーニングで、先祖返りの力を開花させる人が続々でるなか、わたしの翼は蘇らなかった。
チャレンジ失敗なんて、いつものことなのに。
笑顔でおめでとうを言ってるうちに、たまらなくなってしまった。
けど今日はそこに、母上がやってきた。
母上は思いもつかぬことを言ってきた。
「リン。
……ステラの星霊と、契約をしてみなさい」
と。
サラッと語っちゃったけどたぶんここ、もっとうまい人が描いたら1000倍受けるところ(爆)
最近書きあがると「これでいいのかなー」と思うことがたまにしょっちゅうけっこうあります^^;
もっとおもしろく!
次回こそ、よみがえるか翼!
どうぞ、お楽しみに!!




