Bonus Track_10_3-2 ラストワンステップ~アスカの場合~(2)
メタモルソードドール。簡単に言うとこれは、ヒトガタに変形できる、知性を宿した剣である。
仮の名前はライジングブレード・改からとって『ライカ』。
ちなみにいまはヒトガタをしているが、その姿は僕そっくりになっている。
ハヤトはライカ(仮)と僕を見比べて、困惑した様子だ。
僕は説明を試みた。
「いやー、ハヤトのためにってほしい仕様追加してったらこうなってさー。
ほら、自分で動けるから持ち運びの苦労もないし! たとえ武器落としされてもちゃんと帰ってくるよ!
自力で飲み食いしたり周囲のマナ吸い込んで自発的にパワー蓄えといてくれるからいつでも必殺撃ち放題! つーか中級までの神聖魔法だってワンワードで使えちゃう!
AIがそもそもちょー優秀だからオートカウンターやマジックアシスト、戦況の助言なんかもバッチリできるし、宿題のお手伝いやあれやこれ、いろんなことができるんだよ! えっちなことはだめだけどね!」
「あー、俺が欲しいって言ったのは……」
『大丈夫! おれ、ちゃんとふつうに剣だから! ちょっと変形するけれど! 魔法も助言もオートカウンターも、オフにするっていっときゃしないから!
もちろん威力も強度もばっちりさ! 『月閃』『青嵐』とガチで必殺撃ち合っても負けないし、絶対折れないよ!! すっごいっしょハヤトきゅん?』
「普通の剣がそんなにしゃべるか!」
「てへっ?」
「テヘペロもしない!」
「ハーちゃん、おれアスカ。」
『はーい、おれがライカ(仮)ねん♪』
「見分けつかねえよっ!!」
二人でハヤトのまわりをぐるぐるしながらやったら、案の定ひっかかった。これだから、ハヤトはやめられない。
ライカもたのしげにハヤトをからかう。うんうん、さすがは僕の子だ。
『わーひどーい。ハヤトきゅんてば愛が足りなーい』
「まーしゃーないって。見分けつかないレベルに擬態できるようにしてあるんだから。つまりは仕様だねん♪」
『ほらほらーかわいーこいぬにもなれるよーん。女体化マスターだってこの通りー』
「ちょっきみ何やってんの?! おれの顔でミニスカメイド服とかまじやめてっ?!」
『えー、前着ていいって言ってたよねー?』
「女体化するとは言ってないよ!!!」
とか思っていたらとんでもないことをかましてきた。
誰だ、こいつのAI作ったの。僕だ。どうしてこうなった。
かるく現実逃避したい気持ちに陥っていると、ハヤトがビシッとつっこみをくれた。
「作り主いじって漫才するとかオーバースペックもいいとこだろうが!!
ったく……あのな、アスカ。俺がほしいのは、『ただの』剣だ。エンチャントも疑似知性も要らない。
ただひたすら、己の剣の腕だけで戦う。それが俺の求める……」
ハヤトはむうっとした顔で腕を組み、おれに文句を言う。
するとそれを聞いたライカが、ショックを受けたような顔をした。
『え、……おれ、ひつよう、ない、の……?』
「たしかにこれは、おれのミスだね。
ハヤトが心配だからって、勝手に暴走したおれの。
しょうがない、この子は……」
おれも神妙に見える顔をした。
もちろん、ハヤトは慌てだす。
「ちょ、……待て! まさか、廃棄に……」
『いいんだよ、おれはただの疑似生命体。必要とされないならば……』
「ま、まて! 存在が必要じゃないとは言ってない!!
だが俺は、お前の幸せに責任が持てない!!
俺は、剣士だ。これまで何本も剣を変えてきた。
いずれお前が手に合わないとなったら、また替えたいと思ってしまう! それこそ好きに利用して、使い捨てるようなことになってしまうかもしれない!
そんなくらいなら、確実に終生お前を大事にしてくれる主と……俺が思うのはただ、それだけで……」
とつとつと、不器用に語るハヤトの頭を、ライカは背伸びしてやさしく撫でた。
『お馬鹿さんだねえ、ハヤトきゅんは。
そのために、変形する機能があるんだよ。
しかるべき素材を取り込み消化、再配置すれば、ハヤトきゅんの望む構造にいくらでも変化できるんだ。断言するよ、ほかの剣なんかに替えたくなるわけがない。
君が、試合中はただの鋼のカタマリでいてくれというなら、おれは喜んでそうするよ。
けど、君がいずれαとしてそれ以上の相手と対峙するなら、そしてそれでも大切なものを守り切ろうとするならば、おれを使い倒すくらいの技量が必要になる。
本気でおれのマスターを守りたいなら、おれを君の牙にして見せろ。
ハヤト、これは、君へのおれの挑戦だ』
そして最後に、まるで決闘でも申し込むかのように、握手の手を差し伸べた。
「………………わかった。受けて立つ。
改めて頼む、ライカ。おれの剣となってくれ」
「引き受けた。
今後よろしく、ハヤト」
ふたりは力強く手を握り合った。
ハヤトの右手の甲に銀色の紋章が一瞬浮かび、ライカの使用者登録が完了する。
その様子をたしかめると、ほっと溜息がもれた。
同時におれの肩に、優しい手が置かれた。マイロ先生だ。
俺は振り返り、丁寧に頭を下げた。
「先生、ありがとうございました。錬成、アシストしてくれて。
これで、心おきなく、アイテム作成をやめられます」
「アスカくん……」
「おれ、やっぱ向いてないんです。
ボムを作れば威力おかしいし、移動のスクロールは異界につながるし……
くわえてあんなの、一時間でできるとか。もうおれの存在自体がバグなんですよ。
そんなやつがこうして、すきにアイテムふりまいてたら、またきっと、……」
そう。こんな僕がアイテムづくりを続けていたら。
きっといつかまた、ハヤトをひどく、傷つけてしまう。
あれはまだ、ミッドガルドにいたころ。
僕はゲームのなかでも腕っぷしが弱くて、ハヤトに守ってもらってばかりだった。
そこで、なんとか役に立ちたいとボムを作ってみたら、なんと一発でうまくできてしまったのだ。
楽しくて続けるうち、僕はどんどん腕を上げ、昇級試験もサクサク突破。小学生プレイヤーの上限とされるBランクまで、あっという間に上り詰めた。
鼻歌交じりで適当に錬成したものさえ、ほぼすべてがAランクに近い品質。失敗気味のものですら、Bランクを下回ることはなかった。
僕は『神童』ともてはやされるようになり、すっかりうかれていた。
そうして面白半分手を出した『オリジナルさいきょーボム』の錬成は、しかしすべてを吹っ飛ばした。
手順もいい加減なまま魔力をつぎ込みまくったため、構成の甘い錬成陣が崩壊、爆発。
ハヤトはとっさにおれをかばって重傷を負った。
もちろん『ティアブラ』のなかだ、演出はあくまでポップでかわいらしいもの。
でも僕は、ショックだった。本当に、後悔した。
だから、プリーストになった。もう、あのまちがいをくり返さないために。
けれどここに入った僕はまた、クラフトに手を染めていた。
魔力流量調整リングをいくつもお釈迦にしながら、冗談みたいなアイテムを作り続けていた。
絶対安全な闘技場で、デタラメな威力と効果を振りまき、笑いを取るため。
自分が、自分たちだけが、『イケニエのウサギ』にされないために。
ときには、一番恐れていること――ハヤトを大きく傷つけること――への危険を冒しながら、それでも。
でも、もうそんな日々は終わったのだ。
おれはプロジェクトのプロモーター、チームのマネージャーだ。
あとはひたすら、この頭脳でみんなを助ければいい。
「……剣闘士としては、プリースト一本に絞る。
ハヤトがライジングブレードに満足しないほど強くなったら、こうするつもりだった。
だから、……」
「ほんとに、それでいいの?」
マイロ先生が、真剣なまなざしで僕を見上げている。
「わたしは好きよ。アスカ君のクラフト。
というか、作ってるときの目。
きらきらしてて、ほんとうに楽しそうで、見ているだけで幸せになる。
すきなんでしょ、クラフト。
ここはね、そういう子たちが、のびのびクラフトできるために手を貸す、そんな場所でもあるの。
すくなくともわたしのラボは、ただの予備兵器工場になんかさせないつもりよ。
……それに、もったいないわ、その才能。
君がもっと自由に想像の翼を羽ばたかせたら、このさきもっともっと素敵なアイテムができるはず。
月萌の戦争なんかパパッと終わらせて、その後の世界も支えていってくれるような、楽しくてワクワクするようなものがたっくさん。
アスカ君がひとりでもきちんと錬成を制御できるようになるまで、先生はいくらでもがんばるわ。何年在学してくれてもいい。なんだったら、このままラボに就職してほしいとすら思ってるの。本当よ?」
少女のような小さな手が、小さく震えながら、きゅっとおれの腕につかまっている。
なんてひきょうなんだろう。おれはそっとその手をはずしながら言った。
「……わかりました。
わかったから、つま先立ちでぷるぷるするのやめてくださいね?
せっかくいいシーンなのに、笑えて来ちゃいますから」
すると先生は、少女のように膨れて言った。
「もう、アスカくんのいじわる!
そういうアスカくんには、鬼の先生が地獄の特訓をしちゃうんだからねっ!
……とりあえず、週明け。クラフトのポテンシャルテストをするわ。
おそらく上級クラスへの編入になるはずだから、準備しておいてね」
「はい。ありがとうござ……」
「おーい!!」
そのとき、ハヤトが助けを求める声が聞こえてきた。
「アスカ! お前! こいつどーなってんだよー!!」
みればライカがいい笑顔で、ハヤトにコブラツイストをしかけていた。
「えっと、主要な近接戦闘系の技能基本パックはひととおりインストールしといてみたんだけど……ダメ?」
「ダメとは言わないが、とりあえず『錬成室でふざけてプロレス技を仕掛けないという基本的な常識』をインストールしといちゃくれないか……?」
「てへっ?」
このすこし後に、様子を見に来た仲間たちが『アスカが増えたー!!』と仰天するのだが、それはまた別のお話である。
メリークリスマース!
まあ私にゃんこ教徒なんですけどね! だから飲み食いの機会は見逃しません(いらん情報)!
そんなわけで次回はフルーツサンド(いちご)でわいわいの予定です。お楽しみに!




