89-2 確認と、決意のカタチと――『ゼロブラ館』での『会わないデート』(2)
『ゴーちゃん』限界突破。
月萌郊外での最終戦『第四陣』での暴れっぷりは、いまだにそんなキーワードで語られている。
あれがきっかけで判明した『ダンサーズ』の『先祖返り』。
そのチカラは、ただの『モンスター使い』の枠には収まらないものだった。
あの時はなんだか暴走気味だったようだけれど、それがきちんと制御できるようになれば、月萌軍にとっては大きな戦力に。おれたちにとっては、そのぶんの脅威となる。
「カナタ君は、どう思う?」
エルカさんは微笑んで問いを返してきた。
すでにつかんでいる情報からは、こたえが決まっていた。
「おれは、『ダンサーズ』は『第六陣』に参加しないのではと考えています。
月萌軍は急に、研究レポートの提出を追加で求めてきたのですよね。『第五陣』の当日になってから。
ここから、月萌軍の意図がうかがえます。『第五陣』の間、『ダンサーズ』に動かれたくないという。
もし『第五陣』の動画を見てしまったら、彼らは『独力で』動き、作戦を妨害することができてしまう、そう考えていたんでしょうね」
『第四陣』であれだけの超パワーをみせつけた『ゴーちゃん』を、『第五陣』では起用しない。そのことに関しては、憶測が飛び交っていた。
実際のところ『第五陣』には、『先遣隊』として追いやった非主流派を、強弁を弄し始末するというダーティーな目的が含まれていた。そのため、新時代アイドルたる『ダンサーズ』をそこに参加させられない、というのが理由だった。
……と、巷のうわさでは、そのように結論付けられている。
「けれどそれだけなら、わざわざ当日に実験が入るようにし、拘束する必要まではない。
つまり、正確にはこう考えていたのでしょう。
『ダンサーズ』は端末なしでもモンスターのアバターや、パワーを操れる。よって最悪、そのチカラをもっておれたちのもとへ走ることも可能だと。
だから、もはやそうしたことのできえない段階。具体的には月萌領内での決戦まで、『ダンサーズ』が参戦してくることはない――おれはそう推測してます」
「エクセレント! そのとおりだよ、カナタ君」
エルカさんは笑顔で拍手してくれた。
「急に追加レポートをよこせとか、クオリティはそこそこでもいいからとか、あまりに不審だったのでね。『第五陣』の後になって、いろいろと聞かせてもらったんだよ。
結論から言えば、月萌軍は『ダンサーズ』が魔王軍に走ることを警戒している。
さらにはその光景が衆目にさらされることで、あらたな『先祖返り』が出、魔王の味方になってしまうことをね」
「逆に、月萌国内でそれを起こせればおれたちが有利に――いや、そううまくはいきませんよね」
「ああ。
『ゴーちゃん』はその場で倒れて、三日昏睡状態だった。そんな危ない戦い方は、させられないからね。
使うなら、ちゃんとトレーニングして、制御できるようにしてから。
そして君たちには、その可能性がある」
エルカさんは優しい目で、イズミとソラを見た。
「イズミ君、ソラ君。そして、イザヤ君、ユウ君にも。
これはまだ仮説だけれど、ソリスの民のチカラの使い方が、『先祖返り』のチカラを使いこなすヒントになるのではと言われている。
島にももう、ソリスの民が来ているだろう? 波長の合う人に、指導を受けてみるといい」
「……!」
イズミがポーカーフェースのまま、ぱあっとうれしそうなオーラを発した。頭のお耳もぴこぴこり。可愛くて思わず言ってしまった。
「うんわかる、おれも兎家<アルネヴ>姉妹に教われたらすっごくうれしいもの」
「! ! !」
めずらしくイズミのほっぺたが赤くなり、うさみみパンチが飛んできた。もふっとしてきもちいい。
一方ソラはちょっともじもじしている。
ほほう、ソラも気になるひとがいるのか。
イツカがずばんとのたまった。
「ルリアだったらゼンゼンだいじょぶだぜ? むしろバトル申し込まれっと喜ぶし!」
「わあああイツカっちょっまっげほげほっ」
ソラは派手にむせ返り、室内が再び笑いに包まれた。
そのあといつくつか気になることどもを話し合い、ミーティングはおしまい。
エルカさん、イズミとソラは、イザヤとユウと合流して今日の実験へ。
おれたちは白リボンたちを回収して一足先に島に帰還だ。
けもフォームに変身したおれたちは、ぴょんぴょんと白リボンズをさがして木立に入った。
そこでは、笑顔のルカとルナ、そしてけもフォームの白リボンたちが楽しそうにたわむれていた。
ルカとルナは、気づいているのか、いないのか。
「……あと五分だけ待つか」
「だね」
おれとイツカは茂みのなか、そっとうなずきあったのだった。
くそう! もふもふてえてえ!! デートしてえ!!
……あーあー、マイクテスマイクテス。
次回、先祖返りのチカラについて!
どうぞ、おたのしみに!




