10-8 ノルン西市街の奇跡
2020.07.09
うわー。名前を間違ってました……
ミキとアトラではなくマイケルとアッシュです……すみませんでした……!!
「やっと見つけた!! やっと見つけた!!
まったくさ何やってんだよお前!! おまえメンタル豆腐なんだからわざわざスターシードが走ってるとことか見に行くんじゃねえってまえまえから言ってんじゃん!! ほんともう心配させやがって!! ほんと、もう……」
「ニノ……」
しばし、無言で抱き合っていた二人だが、どちらともなく体を離すとイズミ君は口を開いた。
「その真っ赤な髪、変」
「え」
その場はとまどいと静寂に包まれた。
だが、イズミ君は構う様子なく続ける。
「つかなんでうさぎ? そっちはすごい似合ってる。
ごめん、どうしてもすぐ生イツカナ見たくって……
ごめん。心配させてごめん。みつけてくれてありがとう。うれしい……すごく」
イズミくんの金と青の両目からは、いつしかぽろぽろと涙があふれていた。
そしてぽろぽろとあふれるキラキラが、ニノにふりそそぐ。
ごめんとありがとうをくりかえすうち、ゆっくり、ゆっくりと声と表情がほどけていく。
イツカがちっちゃくはなをすすり、ミライが小さな声で泣き出し、おれも目もとが熱くなる。
「お前さ……ほんっと、イズミな!
ほんと、イズミだわ……ちょーイズミだよ、まったく……」
それはニノも同じようで、目元に袖を当てながら、イズミ君のあたまをわしゃわしゃ。
目を細め、耳を下げて撫でられていたイズミ君だが、不意にあ、と声を上げた。
「そうだ、ニノ。おれあやまらないと。
アトリエの窓割った。かわいいうさぎのぬいぐるみが見えて、もっとよく見ようと近くにいったら鼻が当たって。ごめん」
「え、それお前? あいつらじゃないの?」
「あの三人は後からきて。ちょうど窓から落っこちたぬいぐるみをひろっただけ。
わーかわいいもっふもふーってテンション爆上がりしてた」
「え、まじ……?」
ニノがおれたちの後ろの三人を振り返る。
三人はというと、小さな黒うさぎのぬいぐるみを真ん中にして号泣していた。
「どうしたのあれ? つか、なんでオッドアイの黒うさぎ?」
「え?! えっとその、それは、……あの……えっ、と……
も、もらったんだ! その、そう、赤い服着た白いおひげのおじいさんに!!
あの……け、けっしてけっして、俺がお前を懐かしんでつくったわけじゃないからっ!! ほんとだか」
「……バレバレ。」
あせりまくりのニノに見せたイズミ君の顔は、今度こそいっぱいの笑顔だった。
「俺は、どうしても自分がイズミを見つけたかった。
だから、あえてこの姿になっていたんだ。
俺がオッドアイの黒うさぎなんじゃないかと思わせれば、ほかのプレイヤーたちをかく乱し、イズミをかばうことができると思ったんだ。
眼帯をつけていたこと、それをはずすのを拒んでみせたことも、その一環だ。
……適当にはぐらかして立ち去るとか、アイカラーの装備解除して眼帯はずせばよかったのに、あのときはついムキになっちまった。
すまなかった、レオナール。ケンカ売るような真似をして」
「俺こそ、どうかしてました。
高天原行きのチャンスがマジに目の前にと思ったら、焦っちまって……
すんません、ニノの兄貴。ほんとうに、申し訳なかったっす!!」
熊男こと、レオナール君たちとニノは、その場で和解した。
お互いに悪いところはあった。そう認め合い、録画もせーので消しあった。
「ほんとうに、どうかしてましたよね。
イズミさんは、高天原の厳しさゆえにこうして堕とされたのに……」
「そのイズミさんが達したAランク。それにすら届いてないオレたちが、高天原でやってけるわけなんかないんです。
高天原を目指すかどうか、三人でもういちど考えてみます」
レオナール君の仲間たち、マイケル君とアッシュ君もそんな風に頭を下げていた。
三人とも、すっかりさっぱりとした顔をしていた。
レオナール君が、決意の表情で言う。
「あの。それで兄貴、ひとつお願いがあるのですが!」
「だから兄貴ってのは……まあいいか。何だ?」
「あの、そのっ……息子さんを俺にくださいっ!!」
「え?
あ、そのうさちゃん……」
「はいっ!!!」
黒うさぎのぬいぐるみをだっこしたまま行われたのは、衝撃の告白だった。
「実は俺っ、もともとクラフターで……
こういう小さい人形やぬいぐるみを作るのがその、まあ、なりわい……でして……
今度のことを忘れないためにも! 俺が目指す高みとしても!!
兄貴の作品をひとつ、そばに置かせていただきたいんですっ!! おねがいします!!」
「え、……いや、むしろ俺なんか目標にしちゃっていいの? ほ、ほら、ここにいるカナぴょんとか、まじかるあーちゃんとか、もっとすごいクラフターはいっぱいいるんだぜ?」
「兄貴がいいんですっ!!
お二方ももちろん尊敬してますけど……
やっぱりカナぴょん様は『500ポイント固定ボム』や各種オーブ、『フレーバード・ポーション』をはじめとした戦闘アイテムとその活用がメインフィールド。
あーちゃん様は、オリジナルボムやトラップを駆使したコミックショーの大家。
こういうひたすらかわいいモノ系とはやっぱ、畑が違うんで……」
レオナール君が熱血し、とまどうニノ。
彼を決意させたのは、イズミ君のこんな言葉だった。
「いいんじゃない、こんなにいってくれてるんだから。
そんな人今までいなかったろ? これからもいるかわからないし」
「おまえほんっとイズミな……」
とほほ笑いになりつつも、ニノはやっぱり嬉しそう。
そして、こんなことを提案した。
「じゃさ、レオの作品もひとつくれよ!
たとえばさ……その戦斧についてる、ちっちゃいくまちゃんの根付!
あ、大事なもんだったら、別のでもいいけど」
レオナルド君の背負った戦斧。
その柄には、親指の爪ほどの大きさの、茶色いくまの根付がついていた。
言われて気が付いたが、かなり精巧な、そしてかわいらしいもの。
これはソナタや、ソナタの友達が喜びそうだ。いずれ連絡できるときのために、あとでオンラインショップをチェックしておこう。おれはそう心に決めた。
「マジですかっ?! いやこれ、実は宣伝用につけてるもんなんで……これでよければ喜んでっ!」
かくしてファンシーグッズクラフター同士が作品を交換し、握手を交わし。
おれたちは八人一緒に西市街に凱旋した。
そこで待っていたのは、市街に漂う甘ーいにおいと、『チボリーのアイテム屋』に列をなす人人人。
大きく開かれた店先では、おやじさんとチコちゃん、チコちゃんのお姉さんとおぼしきマゼンタの髪の若い女性が忙しく働いている。
チコちゃんのかわいらしい声が、さびれていた町並みに晴れやかに響く。
「いらっしゃーい、いらっしゃーい。ノルン新名物『オッドアイのうさぎまんじゅう』はこっちだよー!
なんとうさぎ発見者ニノのオリジナルレシピ! おいしいよー! 縁起がいいよー! さーあ並んだ並んだー!
あ、おに……ニノ! 遅いよ、あんたが店に立たないとしまらないだろ!
ほらこっちこっち! そこのあんたたちも手伝いにきたんだろ、ほらはやくってば!
天使様たちはあがってお茶でも飲んでいってよ、さすがに現役天使様をこき使うわけにゃいかないしね!」
チコちゃんはめざとくニノを見つけると、人垣をわけてとんできた。
ニノはまたしても不敵に笑う。
「ほーう。この俺が店に立つってことがどういうことかわかってるのか?
それはずばり、バイト代を出すという事だぞ!」
「あたりまえだろ! ほらきりきり働く働く!
うさぎまんが売れれば売れるほど、ニノのわけまえも増えるんだからね。
……たった二割しか取り分いらないなんて言ってんだから、せめていま、いっぱい稼いで行ってよね。ああっ、これは母ちゃんの受け売りだけどさっ!!」
チコちゃんはうれしそうにニノをひっぱり、イズミ君とレオナール君たちがそれに続く。
「あらチコ、また素敵なお友達が増えたわね! 我が子ながら隅に置けないわ!」
それを見て、マゼンタの髪の女性がにこっと微笑んだのだが……え?
「あの、いまなんて……」
「わがこ? っていいましたよね?」
「……こども?」
「てことは……」
「お、お母さん――?!」
「うそおお!!」
「おやじずるい!!」
「もはや犯罪だろこれ――!!」
「うらやまけしから――!!」
その瞬間、おれたちをはじめ、周囲の人たちまでもがええええと声を上げた。
おやじさんはというと、苦み走ったいい笑顔でグッ! と親指を立ててみせた。
ノルン西市街唯一のアイテム店『チボリーのアイテム屋』。
その店頭にはもはや、さびれゆく町であがき続ける、寂し気な笑顔の店主はいない。
家族そろってのしあわせと、明るい未来への切符をつかみ取った、自信と誇りにみちた漢が立っていたのだった。
何という偶然!
・クラフター同士が互いの作品をプレゼントしあう
・ニノがお世話になった店主さんにレシピをプレゼントしていく
というちょっぴり『クリスマスの奇跡!』的なお話になりました。
もういっこの『プレゼント?』のほうは次回、意外な??? 結末となります。
どうかお楽しみに!




