88-3 サプライズ! 本物きちゃいましたの上映会!!(序)
ステラ内はおおむね講和の方向で固められているようで、あとは細部の調整だけ。
エルメスさんはもちろん、レム君、リンさん、そしてリンさんの御父上アークさんたちの的確なサポートのおかげで、翌週内にはもう、調印式ができそうな勢いだ。
これは『安全保障条約』ではないため、戦いにおいて直接的に加勢をもらえるわけではない。
それでも、ステラの人は堂々とここにこれるようになる。アイリーンさんもいつでもここに来られるし、サクヤさんとシグルドさんも別宅を構えることが可能になる。
そうなれば、守りの手だって増える。約束していた合同ライブイベントへの障害もなくなる。もちろん投げ銭=軍資金もさらに増えていいことづくめだ。
対ソリステラスでは、第一に白リボンのおれたちこそが『イツカナ』。ふたりが『魔王軍』代表としていかんなく実力を発揮できるよう、おれたち赤リボン組はサポートに徹した。
週末の歓迎会の準備も、そのひとつ。
イツカはタクマといっしょにヒャッハーとハンター組に参加。『いやこんなのマジにあの森んなかにおったのか?!』とアルムさんが驚くレベルの大物を仕留めてきた。
おれはというと、大地と一つになる力を鍛錬かねてフル活用。畑の作物たちを支援したり、島の各所からハーブや岩塩を探しだしたり、ときにはまんま生やしたり。
力を使うコツをエルマーに習い、作物そのもののことを兎家<アルネヴ>姉妹に教わるのは、正直に言ってめっちゃ楽しい時間だった。
もちろん様々な打ち合わせや決裁事項も待っているし、アイドルとしてのレッスン、メディア対応も欠かせない。
それでも今はそれら全てにおいて、心強いサポートをしてくれるプロがいる。
前よりもう少し自信をもって『魔王業』をこなしていれば、その日は無事にやってきた。
日曜上映・歓迎ランチ会。
全員が同時に持ち場を離れることはできないので、二部制で行う。
なお、第一部終わりにサプライズ加入者が来て、第二部のメンツはかれらと一緒に上映会を楽しむことになっている。
月萌国立研究所本部被験者、兼、魔王島支部の警備員としてやってくる二人のために、部屋はもう用意した。ドアプレートはネタバレ防止で名前未記載。二人がやってきたら、その場で名入れをする。
もちろんおれたちは最高責任者なので、二人が誰かを知っている。研究所に籍のあるメンツや総務を手掛ける人なども、準備などの関係で知っている。
一部、予測を的中させている人たちもいるけれど、もちろんないしょだ。
当日、白リボンのおれたちの仕切りで上映会が始まると、おれとイツカをはじめとしたお迎え組が『到来の間』へ。しばし、二人が来るのを待った。
約束の時刻は、十二時ちょうど。
はたして携帯用端末の表示が12:00となると同時に、魔法陣が光りだし、スーツケースを携えた二人が現れた。
「よう!」
「えへへ。今日からお世話になります! ほらイザヤも」
「お世話んなりますッ!」
そう、これからはじまる上映会の主役。金曜に卒業をきめたばかりの『イザヨイ』が、私服姿で立っていた。
「イザヤ、ユウ――!」
「きたきたー! まってたぜっ!」
ソラとアオバがわーいと駆け寄る。ミツルはその後に続く……かと思いきや、数歩で立ち止まった。
どうしたんだろうとふりかえれば、ミツルは紅の瞳をうるませていた。
うれしそう、否、幸せそうな声で言うには。
「…………俺たち。これでやっとまた、そろったな」
「おうっ!」
館の部屋のドアプレートに名前を入れて、室内に荷物を置けば、頃合いもいいころだ。
会場にいるおれたちと連絡をとり、タイミングを合わせて扉を開けた。
試合まで入らない安定のクオリティ……次回こそっ!
バトル開始からにしようもうそうしよう。
次回、アントハンターコンビの痛快卒シビ! お楽しみに!!




