Bonus Track_88-3 忘れていたサプライズ! 卒業直前のティーパーティー! ~イザヤの場合~
『イザヤ、変わったな……』
復学してからはよく言われた。
『お前当番大っ嫌いじゃなかった?』
『そうそう、よくユウに叱られてたよな。ちょっと余裕出来たからって免罪符使うな! ってさ』
『四ツ星はもう当番しなくっていいのに、どうしたんだよ?』
そのたび俺は言ったものだ。
「なーに、これも貴重な青春の一ページってな!
お前らと掃除できるのも長くて一年とかだろ? 満喫しとかなくっちゃだかんな!」
そう、心から笑って。
復学してからはひたすら、真面目にやってきた。
おかげで四ツ星講習のカリキュラムは、必要在籍期間の『一カ月と三週間』を迎える前に、とっくに終えてしまっていた。
だから、行こうと思えば行けないことはなかったのだ。
学園軍志願での繰り上げ卒業、からの、魔王軍所属。
そう、チナツとクレハのように。
俺たちがそれを選ばなかったのは、かけがえのないものと心から思っていたからだった。
ここで過ごす、一分一秒が。
ソラたちもわかってくれた。こっちは任せろ、俺の分まで勉強してきてなとまで言ってくれた。
だから俺たちは、めいっぱい勉強し、トレーニングをし、仲間たちと働き、カルテットの研究を手伝い。
時には、茶会でパーッともりあがったりもした。
その間に俺たちが『先祖返り』――前世のモンスターのチカラを色濃く残す人間――だということも判明し、研究所での(今度こそまともな)被験者アルバイトもして。
気が付けば、その日は明日に迫っていた。
金曜の定例闘技会。
俺たちはもう国立研究所への就職が決まっていて、週明けには配属先に移る予定。つまり週末はメチャ忙しい。今のうちに、学内でのあいさつ回りをすませてしまうことにした。
……のだが、ノゾミちゃん先生、ミソラちゃん先生はつかまらず。
『あとでコールバックするから』といわれたので待つしかない。
しかたないので『騎士団』詰め所に先に回れば、ミズキとミーたんもお留守。
さらには「おーいーとこにー! ちょっとこれはこぶの手伝ってくれよたのむー!」と山ほど箱を抱えたアキトとセナに拉致られ。
「っていうかお前たちにもあいさつ」
「いーからいーから!」
「もしかしてなんか企んでる?」
「考えるな。感じろ。」
ユウが勘ぐってもセナにポーカーフェース(ちょっと笑ってやがる感じ)ではぐらかされ。
荷物とともに連れられて行った先は、講堂。
「よっしゃ! それじゃあドア・オープン!」
ステータス・オープンのノリで開いたドアの向こうには、ミズキとミーたん、ミソラ先生とノゾミ先生をはじめ、うさねこや騎士団のみんなが笑顔で待ち構えていた。
鳴り響いたのは、ぱーんとはじけるクラッカー、そして拍手と歓声。
「卒業おめでと――!!」
「そういうことかあああ!!」
みんなの真ん中には、なんとまるいケーキがひとつ。
俺とユウの好きな、ショートケーキとチーズケーキがハーフアンドハーフになっている、どうみたってスペシャルな、そしてめっちゃうまそうなやつだ。
「これっ?!」
「えへへっ。おれたちでつくったの!
これぜーんぶふたりのだからねっ。いま食べてくれてもいいし、とっといても日持ちするようつくったから!!」
「マジかよ――!!」
「いいのっ?!」
すると、ミーたんとノゾミ先生のなかよし兄弟が言ってくれた。
「みんなのぶんも、それぞれあるからだいじょうぶ!」
「お前たちには特に、苦労をさせてしまったからな。
放校に追い込まれて、復学して。そこからがんばって、ここまで来てくれた。
せめてもの心づくしだ」
「…………!!」
ぐっとこみあげてくるものに言葉を失っていれば、アキトがぽんと肩を叩いてきた。
「それと、さ。
ふたりとも、その箱、開けてみてくれよ!」
そういや、まだ箱持ったままだった。とりあえず床に降ろして開封してみれば、中にはポーションやらボムやら、アイテムがたっくさん。
「こっちは、料理組以外の有志から!
頑張ってきてな、俺たちの分まで!」
思い出した。『S&G』の卒業の時には、俺たちがこうしてサプライズをしたんだった。
あいつらは俺たちより、よっぽど苦労している。根性あふれた、すげえ奴らだ。そう思っていた俺たちも、二人の卒業サプライズには素直に力を尽くせた。
そこから一か月。完全に不意を突かれた。
でも、それはうれしい不意打ちだった。
俺とユウは意気揚々と声を合わせた。
「みんな! ありがとうございますっ!」
あいさつのために考えていた言葉たちを、みじかいスピーチにして。
最後にもう一度ありがとうを言って、楽しい突発ティーパーティーが始まったのだった。
たまにはこういう楽しいだけの回もほっとするものです(特に作者が←)
次回、もうひとつのフェアウェルパーティーの予定です。
どうぞ、お楽しみに!




