Bonus Track_87-3 間に合った援軍、もしくは、もっと力が ~トラオの場合~
イエネコだって飛びたいのです。青春です。
この戦いは、殺し合いじゃない。
サイアクな言い方をすれば、餌付けのようなもんだ。
みんな大好きイツカの戦いを間近のナマで見て、あわよくば参加できる。
そのあとも、チャンスがあれば闘れるぞとエサをぶら下げる。
そうして魅了した奴らを、仲間として迎える。
みためはハデだがその実は、双方暗黙の了解の上での『合戦イベント』だ。
イツカにとっても悪い話じゃない。ソリスには、イツカにより近い強さを持つ奴らもいる。そいつらと闘れれば、イツカのトレーニングにもなる。
俺たちにとってもそうだ。
トレーニングはもちろん、仕事や防衛を分担し合い、一緒にメシを食って笑いあう、そんな仲間ができることはマジにありがたいのだ。
そんなわけで、俺たち『魔王の仲間たち』も大いにはりきっている。
うれしいことに、俺たちにもお呼びがかかっていた。『コメットブラスト』やってくれと。
ただ、こいつは必殺覚醒技、長い時間は持続できない。
遠距離攻撃での打ち合いが終わりに近づき、比較的近距離で戦うやつらが寄せてきたところで飛び出す手はずだ。
クレチナ召喚士コンビもここに加わる予定だったが、神獣たちのバトルが長引いているようだ。クレハはションボリオオカミだし、チナツもなんとか雰囲気を明るくしようとがんばっている。
もちろん気になったが、変に声をかけると逆効果になる気配がプンプンした。
あえてアッサリと気合を入れ、予定通りに出ることにした。
「っしゃあっ!! 俺らもいくぜ!!」
「了解よ!!」
「『コメットブラスト・アクア』!!」
はじめは低めの軌道で、海面を寄せてくる船に軽くちょっかいをかけ、そこから急上昇。ぐるっとまわって急降下。曲芸飛行のように飛び回ってはぶちかます。
と、クレハが見覚えのない白いデカい虎に乗って飛んできた。
「クレハ、そいつは?」
「先代虎神獣のシーラさん! なんか来てくれた!!」
「マジか、あと頼んだぜ!」
クレハはキラッキラしてやがる。これならあとはダイジョブだろう。程よき所と判断して、浜に戻った。
今回は前より長めに飛んだ。サリイも息を切らせている。
ここはいったん退場。一休みしたら、月萌ハグレドリ隊のほうに行ければいく予定だ。
浜辺でアイテムをなげ、あるいは上陸部隊を待ち構えてる奴らとおつかれーと声をかけあい、館のほうへ。
ふとふりかえれば、南国の青い空。
のびのびと飛ぶ、空の民たち。
まぶしくて目を細めた、そのとき。
「……もしかしてあたし、持久力なさすぎかしら」
サリイがぽつっと言った。
「いや、そりゃねーだろ。必殺技だぜ?
それでこんだけ飛べりゃ、御の字だろ」
「…………そりゃそうだけど」
空を見上げたままのサリイの表情は、どこかうらやましげに見えた。
そういえば。
ミッドガルドにいたころ、俺とサリイは別行動が多かった。
そのころのサリイは、もっと飛んでたような気がする。
ぶっちゃけていうとそのころの俺とサリイは、婚約者という名のついた遊び相手でしかなかった。
同じ師匠に日舞を習ってはいたが、別に一緒に通うでもなし。ミッドガルドでもあまりパーティーを組んでいなかった。
恋人、でないと言えば嘘になる。けれど、お互い別の男や女と歩いていたところで嫉妬のひとつもしない。メールやコールだって、用のある時だけ。
よくいえばサバサバした、悪く言えば、乾いた関係。
それでも、青い翼で空を切り裂くように飛ぶサリイの姿は、綺麗だと思ったものだった。
ふと、口から出ていた。
「あのよ。俺が飛べるようになったら、お前もっと飛べるよな」
「は?!」
「なんか……ここんとこ、俺を飛ばせるばっかでよ。
うまくいえねーけど、サリイはもっとこう……飛べていいのにって」
「トラ……」
サリイは驚いた顔で俺をふりかえり、そして、柔らかく微笑んだ。
あつい……あたまがまわらない……
じかい、うみのたみのもうこう!
おたのしみに!!




