10-6 いざ、アトリエへ!
2020.01.28
キャラ名の間違いを修正しました。
ミレイ→ミユウ
町はずれの、小さな門から外へ出た。
かつては大きく大きく開かれていたはずの門はあちこちさびつき、わずかに通用口が開いているだけ。
旧坑道からモンスターが来るかも! とそわそわする門番たちはしかし、どこか楽しそうでもあった。
弱めの奴でいいからこっち回ってこないかね? なんて軽口をたたいてニノと笑いあう。
「や、悪いな。こっちはさびれちまって通る人もほぼいねーから、当番なると暇なんだわ。正門と東門のときはみんなマジメにやってんだぜ、ソースは俺!」
「ニノはそっちでもサボってなかったっけー?」
「あれは『戦略的休息』だから!
まそんなわけでちょっと野暮用いってくるわー」
「いってらー」
もと同僚らしき門番たちと手を振りあって、ニノはおれたちを先導し始めた。
黒いわたしっぽをふりふり、かなりのペースで歩いていく。
「さあって、用事も済んだし! サクサクいこうぜ野郎ども!
あんまり端っこ歩くなよ。そうでなくとも聖白鉱がすりへってんだ、普通の街道のつもりでいるとモンスターに横からガブッと来られるからな!」
「ねえ、ちょっとまって。
ニノはほんとに……いいの?
あそこが、西市街が好きなんでしょ? もし、クエストをクリアしたら……」
しかし、おれは思わず彼を呼び止めていた。
『チボリーのアイテム屋』を出てから、西門につくまでにも何度か、ニノはすれ違う住人たちに声をかけられていた。
楽し気に笑いあうその様子を見ていると、ミッドガルド時代にいろいろとよくしてくれた、はじまりの町やミルドの町、そのほかたくさんの人たちの顔が浮かんだ。
おれたちはソナタを救うためにと、このミッドガルドを駆け抜けてしまった。この件が終わったら、また、もうしばらくは戻れない。
けれど、もしそうじゃなかったら……
ニノは小さく目を伏せた。
「ああ、好きだ。
『ティアブラ』のなかのどこよりも、おれはここが好きで、大切だ。
でも、それよりもっと大事なことが、今はある。
イズミをつかまえなくちゃ。
そうして、あいつの夢をこの手でもう一度つなぐんだ。
高天原に連れ戻してやったら、俺がファイトマネーもガンガン稼いで、あいつの足をしっかり治す。そして、もう一度、最速のハンターを目指せるようにする。
そのために、けも装備もあいつと同じにしたんだ。あいつのことがもっとわかるように。
あんときははぐれちまったけど、もう二度とはぐれない。
……そういうわけで、高天原はいったらヨロシクな、先輩たち?
俺たちは、確実にお前たちの助けになるぜ」
けれども不敵に、かつ明るく笑って、もう一度歩き出した。
* * * * *
そうして、二十分ほど山道を上ったころ。
山肌に小さな囲い。そして、そのまえに立つ衛兵たちの姿が見えてきた。
先頭を行くニノが声を上げてかけよった。おれたちもちょっと遅れてあとに続く。
「ちょ……マジ? くずれたのここなの?! ええ……」
「あっ、ニノ?
その声ニノだよね? おかえりー」
衛兵たちのリーダーらしき、色鮮やかな緑の羽根とポニーテールの少女が手を振ってきた。
鳥種はカナリヤだろうか、小柄でかわいらしいソプラノの持ち主だ。
ニノも手を振り返す。
「ようミユウ! しばらくぶり。
土砂崩れ起きたって聞いたんだけど……マジでここ?」
「マジでここ」
ニノは崩れた岩穴の方を見やり、あちゃーといった様子で天を仰ぐ。
「もしかしてまだ倉庫にしてたの?
調査隊入ったときには、ほとんど何も残ってなかったみたいだけど……」
「まじか……」
「元気出しなよって。
というか、一度アトリエの様子見てきた方がいいんじゃない?
魔物の足跡、そっちの方に向かってたからさ。
まあ、もう退治されちゃったかもだけどねー。さっき三人組のパーティーがすごい勢いで……」
「わりぃミユウいってくるっ!!」
くん、と空気のにおいをかいだニノは、だっとばかりに駆けだした。すかさずイツカが伴走する。
ミライも同じようにしてにおいをかぐと、おれにアイコンタクトを取ってきた。
ミユウさんたちに別れを告げると、おれたちは足早に山道をたどり始めた。
「さっきはどうしたの、ミライ」
「あのねカナタ。いま通ったってひとたち、さっきの熊さんたちなの。
だけど、魔物討伐、てかんじのにおいじゃない。
……なんか、偶然じゃない気がする。いそごう」
ミユウさんたちから充分に距離が取れたところで、おれはミライに言いたいことをたずねてみた。
ミライが伝えてきたのは、胸騒ぎのする事実だった。
そういえば、ニノの様子も気になる。
そのとき、イツカの『声』がした。
スキル『猫遠吠』による遠隔通信だ。
『あの熊たち三人がアトリエの庭にいる。窓が割れている』
ミライがおれを見る。おれは言った。
「イツカに伝えて。終わるまで現場を録画して、って」
「りょうかい!」
ミライが『犬遠吠』で返事をする。
そして、おれに身を寄せてくる。おれはミライをしっかりと抱えた。
スキル発動『スカイ・ハイ・スキップ』。一気に地を蹴る。
イツカの『声』で場所は把握した。曲がりくねった山道、藪に隠れたけものみちを空から一気にショートカットして、おれたちはイツカのうしろに降り立った。
・聖白鉱は魔よけ効果を出す石で、街道や大きな道などの縁石として使われます。
効果は徐々に減退するため定期メンテが必要ですが、その道の重要度が下がると……。
・犬だけでなく、猫も『遠吠え』をするようです。
近所のお友達と会話をしているとか。
カナタが『ハウリング』を覚えていないのは、ケモミミ装備特典の違いから、という設定です。
(兎は進化の過程で声帯がなくなったため、ハウリング系スキルがない)




