86-3 破れたり、永久機関コンボ! 決着のステラ杯!! ~もしくはプライドと男女の厚い壁~
ちょっと早いですが上梓です^^
『もらった!
起動、『ヘイズ・ルーン』!『ブラッド・サッカー』!!
さあ、おいでください。そのダメージ、すべてわが力に変えてあげましょう!!』
フロートをみるみる覆った森の中。
シグルドさんが『永久機関コンボ』発動。飛びかかる『幻雪狼』たちを巨大雪狼たちに次々と食わせつつ、もうひとりのおれを、両手を広げて待ち受ける。
彼に、気づいている様子はない。
幻雪狼が食われるたび乱舞する、BPゲットの赤ポップアップにも。
召喚した巨大雪狼の瞳が、禍々しく赤黒く染まっていくのにも。
自らの姿がどんどんと、人を離れてゆくのにも。
酔いしれたまなざしで、ただただ、白リボンのおれを見つめ続ける。
そうして、歓喜の表情で飛び蹴りを受け止めた瞬間。
Fall from Grace!!
BP 1000000 Over!!
赤黒く、おどろおどろしいポップアップがあがった。
それは、『鬼神堕ち』を示すもの。
つまりあそこにいるおれは、まんまとやってのけたのだ。
『永久機関コンボ破り』。一人でやるには至難のことを。
シグルドさんと相性がいい3Sの中には『色欲』があった。
『色欲』といえば、『ヘイズ・ルーン』。通常ならば与ダメージによって得られるBPを、被ダメージ時にも得られるようになるスキルだ。
BPをHPに変換するスキル『ブラッドサッカー』をこれと組み合わせれば、ダメージがそのまま、あるいは組み合わせによりそれ以上の回復をもたらすようになる。
いわゆる『永久機関コンボ』である。
彼は必ずこれを使ってくるはずだった。
つまり、これを破れなければ、勝利はない。
攻略法は、知られているだけでふたつ。
一秒間に64回のダメージ――このうち最低一回はノーマルタイプのテラフレアボム一発分以上の威力を有すること――を与える。
もしくは、BP100万超えによる『鬼神落ち』を誘発する。
いずれかを達成すれば、このコンボを破壊できるのだ。
当然、シグルドさんは両方にきっちり対策をしていた。
『とにかくボムかなんか連打しまくって1ポイントのダメージを63回食らわされる』というパターンを避けるため、強化でしっかりと守りを固めていた。
必殺召喚をバカスカと撃ちまくり、大量のBPを取りまくっていたときも、技で消費しきれぬ分は適宜アースして、常時安全域を保っていた。
それがなぜ、BP100万越えをやってしまったのか。
終盤、あの森に入った時点で、シグルドさんの身の回りはもちろん、ステータスも幻影に包まれていたのだ。
かなり強引なやり口だが、不可能じゃない。
場所が場所というのもあるし、なにより『虚無本体』がいた。
あとは、雪狼の幻影をかぶせたBP超回復の実を、テラフレアボムと思わせて『巨大雪狼』に食べさせ、シグルドさんのBPを一気に爆上げ。
最後の蹴りで、100万BPを超えさせたのだ。
いちおう、あのおれもヒントは出していた。
あの、まぼろしの雪狼たち。
その時点で感づき、BPアース域値を変更していれば、ワンチャンあったかもしれない。
ともあれ『鬼神堕ち』なんかしてしまえば、『フィルの決闘』では負け扱いとなる。
名実ともにわんことなったシグルドさんを、あちらのおれは『ステイ!』のひとことで従え、その場でBP除去、TP付与による治療を施した。
結果、シグルドさんは人の姿に戻ったが、ホッとしたのか意識を失い、医療班に回収されていった。
白リボンのおれはというと、シグルドさんの額にそっと手をおいて見送ってから、静かにしかし堂々と、勝利の拳を突き上げた。
ステラさまが天覧席で立ち上がり、大きな拍手を送る。
追いかけるようにオンライン、オフラインにあふれる拍手、称賛、歓声。
『ステラ杯』の勝者が決定した、そのことが万民に認められた瞬間だった。
月萌軍は少し離れた海底にすでに展開していたが、さすがにステラさまがいる状態で攻めては来ないようだ。
厳戒態勢の中、不気味なほどに平穏に、閉会式の準備は進む。
おれはイツカとともに、まずは参加者たちのお見舞いに向かった。
だが医務室についたおれたちは、そこでしょーもないもんを目撃することになってしまった。
「さ、もう大丈夫ですね?
では、このくびきをときますよ」
「えっ、いや、待って、待ってください!
ええと、そう、まだダメです! まだムリです!
あー、今解放されたらまた狼男になっちゃいますー! 理性さんがどっかいってがおーっと」
医務室で目撃したのは、たれ耳をさらに垂らしてうんざり顔のおれと、ベッドに籠城し、年下に向かってダダをこねるいい年したお兄さん(しかも大貴族)、そしてその様子を嬉しそうに鑑賞する婚約者さん(なお、捕獲した白イツカをモフり中)たちの姿だった。
「いやサクヤさん、いいんですかあれ」
「あれは別腹ですわ、ね、みなさん」
「べつばら……」
ねー、ねーとうなずきあう女性陣。いや別腹なんですか。イツカもボーゼンとつぶやいている。
ともあれ、もうひとりのおれは埒が明かないと悟ったらしい。笑顔と偽計で解決することにしたようだ。
「そんなことしたら、討伐しますよ?」
「むしろよろしくおねがいしますっ!!」
「ハイ了解しました! いい子にしてたら後で討伐してあげますからねっ。はいっ、くびき外してカッコよく閉会式出ましょうねー!」
「しまったぁっ!!
でもカナタさんに討伐していただけるなら頑張れます! さあ行きましょうっ!
エスコートはお任せください、いっそわが背中にお乗りくださってもっ」
「乗りませんっていうか貴族のプライドどこ行った!!」
「貴族とはこういうものですっ!!」
シャキーンと起き上がり、すっかり全回復した様子のシグルドさん。
おれはサクヤさんに聞かずにいられなかった。
「いやサクヤさん、いいんですかあれ……」
「そこがいいのですわ。ね、みなさん」
ねー、ねーとうなずきあう女性陣。
いや、わからない。わかれそうにも、ない。
もしかして、これが男と女の壁というやつなのだろうか。
おれは軽く絶望したのだった。
暑い、蒸し暑い。まだ六月なのに……orz
というわけでまだ多少なりとも涼しいうちに投稿です!
次回、掲示板回!
ステラ杯各試合についてネット民ズがわいわいします。
どうぞ、お楽しみに!!




