Bonus Track_10_3-1 ラストワンステップ~アスカの場合~(1)
「よーし、そんじゃー今回はこんなもんかな。
なんかあったらすぐ連絡ねー。ほんじゃかいさーん!」
今週は『ウサうさネコかみ』プロデュースユニットのお披露目がある。
前々から準備していたこととはいえ、仕上げはしっかりしておくに越したことはない。
そういう意味で、イツカブレードがふたたび折れ、イツカの『アップグレード休暇』が決まったことはいいタイミングだった。
さいわい、計画は順調だ。
かれらなら、きっとやってくれるだろう。
ハンターのアオバ。
クラフターのレン。
ハンター兼業のクラフター、チアキ。
そして、プリーストのミツル。
新ユニットふたつの四人は、しっかり実力を発揮できるようになってくれた。金曜日当日の、エステと美容室の予約も済んでいる。
金曜の試合を華々しくこなし、星を上げてもらえれば、計画も加速する。
やることはいくらでもある。かれらが得意の分野で協力してくれるようになれば、『うさもふ』三人への負担も減らしてやれる。そして、もっと多くの生徒たちを救うことが……
「アスカ」
そんなことを考えていると、ふいに心臓が跳ねた。
ハヤトだ。おれの椅子の横に立ち、神妙な顔をして、じいっと僕をみつめている。
「は、はははハーちゃん?! な、なにきゅーにマジメな顔して。つかいつもマジメだけど。
どったの? もしかしておれへのこくはく?」
「ああ」
………………いやおちつけ。おちつけ。ハヤトはそういうキャラじゃない。
たとえば絶世の美少女もしくは美少年がマッパでベッドに入ってきても、いただきますと食いつくような男じゃない。ぶっちゃけていうなら朴念仁なのだ。そう
「……がほしい」
「へっ?!」
僕が落ち着こうと、つまり混乱しているとハヤトはがしっと僕の肩をつかんできた。
大きな手の力強さと真剣なまなざしに、僕はすっかり慌ててしまう。
「ちょ……ちょっとまっ、こんなとこできゅうにっ」
「悪い、でも今言わないともう間に合わな」
「わあああ!! まって! まってまだっこころのじゅんびがっ」
しかし僕が必死で待ったを言うと、すぐに両手を放してくれた。
「……そうだよな。専門でないお前が、急にこんなことを言われても……
悪い、やっぱりシオンに相談して」
「それはだめえええ!!
ほ、ほら、だいじょぶ、おれならだいじょぶだから!! おれがなんとかするから!!
なんでも、なんでもいって、ハヤトのためならぼくがんばるからっ!!」
「……ほんとに、いいのか?
わかった、じゃあ、頼む。
ライジングブレード・改の作成。必要な素材があったら調達してくるから」
「…… あ、はい」
そう、ハヤトはそういうキャラじゃないのだ。
ほんといっつも真面目で、真面目で、朴念仁で。
おれたちが高天原に入り、たくさんの女子が連日部屋に訪ねてきたときも、全員がハニートラップかひやかしだと信じて疑わなかった。
それでもきちんと、紳士的に対応していたのだからたいしたジェントルマンである。
『僕とハヤトができているかもしれない』と思うようにしむけ、まとめて追っ払った僕とは大違いだ。
自分のアホさ加減にうんざりとしながら、僕は改めて、シオンからもらった詳細解析データに目を通した。
そもそも、ライジングブレードは『普通の』剣だ。
イツカブレードのような特殊機能も、マジックソードのような追加効果もない。ほんとうに、まっさらの、潔いほどプレーンな鋼のミルフィーユだ。
なるほど、これとあれをそれすれば、コピーしてワンランク上にすることはわけなさそうだ。
おれはさっそくいくつかの素材を『ティア通』などで調達。ラボを借り、プレーンな物理剣の錬成を行った。
ハヤトの力を支え切れるよう、研ぎすぎず、少し厚めの重めに。
サイズと重心の位置は、変えない。
これでいいかな。いやちょっとまて。ハヤトはいまのところ格闘が弱点だ。ついさっきイツカと徒手戦闘やってみたときも懐に入られてからのネコパンチでKOされかけてた。一人で戦い、ふいに至近距離に入られたときでも大丈夫なよう、すこしだけ防御性能はつけておきたいな。常動型の『神聖障壁』をつけとくか。そうなってくるとますますガンガン攻めてくだろうから、体力もすこしは回復するように……いやまて、そもそも僕がついてないということは目が減ると言うことだ。つまりは簡単な観測と助言も可能な程度のAIが必要なのじゃないか。もちろんオートムーブは必須。あ、そこまでできるなら神聖魔法くらい扱えるようにしといてもいっか。で、これだけのものとなると相当パワーも食う。だからパワー補給についても……
「いや、どうしてこうなった?」
かくして小一時間後出来上がったのは、SSRランクのアイテム、メタモルソードドールだった。
どうしてこうなった……たんにラボが大爆発→究極神剣ができるだけのおはなしじゃなかったっけか……




