Bonus Track_85-6-1 弱ささえも力にかえて!『涙硝』VS『皇女』! ~エルメスの場合~(1)
「よろしく、サーヤ」
「よろしくお願いしますわ、殿下」
お互いに一礼して、距離をとった。
容姿もふるまいもたおやかな年下の少女。しかし彼女は、私以上の使い手だ。
彼女との試合で勝てるのは、三回に一回がいいところだった。
それでも、今日はその1/3をつかみたい。
なぜって、愛する人がそこで応援してくれている。
サーヤも同じきもちだろう。
お互いに、想いの強さでは負けてない、そう思う。
だから、頑張るしかない。
さきの試合をもとにサーヤは虚無本体に助けを求めたようだ。きゃしゃな体に、うす青いオーラをまとっている。
一方で、私の剣に宿っているのは虚無分体。おそらくこうなると見越しての人選だ。
本体と分体では、絶対的に本体のほうが強い。
けれど、勝機はあった。
急ごしらえのドリームチームより、連携をばっちり行える従来チームのほうが強いのもまた自明の理だからだ。
サーヤはスピカと連携の練習をしていなかったはず。友達どうしの気安さを差し引いても、そこはやはり大きな差となるはずなのだ。
はじめの合図とともに、サーヤと私は精霊の加護の証である翼を背にあらわし、一気に仕掛け……なかった。
「いかがなさいましたの、殿下?」
「サーヤこそ。
やはり、フラグメントは『嫉妬』のほうで当たりということかな」
サーヤと相性のいい3Sは『虚飾』と『嫉妬』だ。使用許可申請もこの二つで出ていた。
無害化済み3Sフラグメントは、一度に一種類しか服用できない。使うのは、どちらかだ。
はたしてサーヤはにっこり笑った。
「ご明察ですわ、殿下。
……理由をお聞きしても?」
「今の、サーヤのテンション。それと、すぐに仕掛けてこなかったこと。
『虚飾』ならば、イケイケですぐに攻めてくるのが定石だ。
正直に言って、サーヤは私より強い。『虚飾』でガンガン押し切ってしまえば勝てるだろう」
しかしこの二つ、序盤の定石が真逆なのだ。
『虚飾』ならば、すぐにパワー・エクステンドを使って攻めはじめる。
逆に『嫉妬』ならば、先に相手に強化をさせ、パワーの落差をつけてから強化となる。
「だが、唯一私が『嫉妬』を使っていた場合に限っては、それは悪手となる。
『嫉妬』は自分に対して相手が強いほど、強化にレバレッジがかかるからな。
むしろ私が『嫉妬』でサーヤのチカラを超えてくることを見込み、さらにそこを超えようと、自らも『嫉妬』を用いることにしたのではないか……そう推測したのだ」
告げればサーヤは、鈴を転がすような声で笑った。
「うふふ。さすがは殿下。
ええ。わたくしが今回使っているフラグメントは『嫉妬』で相違ございません。
そして、殿下もこの度は『嫉妬』をお使いなのですね」
「ああ。
どうあがいても、いまの私はサーヤより弱い。
だから、これで、やるしかないのだ。
いくぞサーヤ! 勝負っ!!」
互いに使用は『嫉妬』。と分かれば、弱者たる私のとる手は、みずから仕掛ける、一択だ。
愛用のレイピアを抜き、私は駆けだした。
私の剣技はマスタークラス、『ソードダンサー』抜きでも戦うことができる。
もちろんマルやタクマたちといった本職にはかなわないが、それでも距離を詰める役には立つ!
一方でサーヤは、ナイトブルーの翼で舞い上がる。
中空を飛びながら、愛用の小さな竪琴を召喚。軽く爪弾きながら歌いだした。
たちまち、彼女の周囲に水色にひかる、手のひらほどの光球が無数に現れる。彼女にかしづく水の精霊たちだ。
彼らはそれぞれ、両手の間に小さな水球を携えている。
サーヤの歌声に合わせ、水球に力を注いでゆけば、水球は小さく縮んでゆく。
圧縮された高圧のしずくは、半端な防御などアッサリ貫く必殺の飛び道具となる。
私が空に向かって地を蹴れば、その行く先を閉ざすように、しずくが次々撃ち放たれた。
ひなたさんはせつめいがにがて。
わかる文章になっているのかいっつも悩む……。
文意解釈問題はいい加減解けるようになったけど誤信念問題はほぼ全滅です。アカン。
次回、決着! おたのしみに!!




