Bonus Track_85-5-2 『狼牙』VS『絶地』! 居合で始まる剣士対決!~フィル=ベルナデッタ=シルウィスの場合~(2)
タクマは最初に現れた時から、小さな子供とは思えないほど強かった。
生まれながらに高い資質を持つ、スターシードであるのが大きな要因だ。
嫉妬する兄弟弟子もいたが、オレはそんな気持ちにはならなかった。
むしろやつを目標に、ときにはやつに技を教えて、追いつけ追い越せとともに修行を重ねる日々は、楽しくて楽しくてたまらなかった。
タクマが一歩進めば、オレがもう一歩。
オレが一歩進んだら、タクマもまた、もう一歩。
授業に試合、闘技会。決闘私闘、任務にクエスト。
相性のよい3Sも結構似ていて、互いに補い合い、ときには手合わせもして。
気が付けば、二人そろって『六柱』に任じられていた。
けれどいつのころからか、オレたちは別々のものを見るようになった。
オレはもっといろいろなつわものたちに会いたくて、月萌との開戦を望むようになり。
タクマはステラ様を助けに来た異国の王子様たちと仲良くなって、世界平和の夢に加わった。
そうして今オレたちは、互いに赤いポップアップを上げながら、切り結んでいる。
オレが右上段から軽く仕掛ければ、タクマはくるりと剣先を巻いてさばき、さらに右、オレの剣の後ろ側から刺突を放ってくる。
後方に体を開いてかわしつつ、こちらも剣を回して弾き上げ、タクマとの間合いを調整――よし。得意の斬り下ろしをお見舞いだ。
「『スマッシュ・ファング』!!」
「グリ!」
タクマは低く構えてスイートスポットを外し、左腕の銀の腕甲で剣撃の威力を吸収、自分の斬り払いにそれを載せて返してきた。
とっさに刀身を立て、盾代わりとして衝撃を軽減しつつ――なんだいまのは?
オレは間合いを保ちつつ、タクマに問いかけた。
「いまの何だ?」
「知ってるだろ、グリード。イツカとカナタの仲間の『強欲』さ!」
タクマが左腕を軽く掲げれば、いつもの黒い詰襟の腕で、鈍い銀の腕甲がなんだかめんどくさげに光った。
もちろん知っている。けれど。
オレは突っ込まずにいられなかった。
「いや、いやお前さ! イツカとさんざん公開で特訓しまくってたよな?!
そんなかでは使ってなかったよな……?!」
「ああ。3Sたちとの連携まぜたやつは外だとあぶねーからって、魔王城の地下でやってたんだけど……」
「どんだけ特訓してんだよっ?!」
突っ込みつつも……これは勝てない、そう確信せざるを得なかった。
『魔王の仲間』の3Sは、従来型の3Sと違い、自我と意志を持っている。つまりやつらと連携することは、味方が増えることに等しい。
ただ、連携には練習がいる。そして、タクマはそんな練習はしていなかった――と、オレたちは思い込んでいた。
タクマが3S使用許可申請を出していたことも、オレたちの目を曇らせた。
やつと相性のいい『憤怒』と『暴食』。これまでに何度も使っていて、なじみのある3Sを用いることで、実戦練習を増やし、勝ちをねらっていくのだろう、そう結論付けていた。
まさかの、判断ミスだ。
やつと『強欲』は相性がいまいちだ。許可申請もされていない。だから、使われない。そう判断されたため、『強欲』対策はビルドに組み込まれていなかった。
だが、それでもだ。
「ま、いっか。
オレはオレの、ベストを尽くす! それが今日のミッションだからなっ!
起動『暴食』。第二階梯『ウルフダウン・ブラスト』ッ!!」
そう、ベストを尽くし、食らいつくだけだ。
『暴食』をアクティブに。おとっときの必殺剣に、そのチカラを掛け合わせてお見舞いだ!
『ウルフダウン・ブラスト』。オレの守護たる『天狼』のチカラを剣撃に乗せてはなてば、それは突進する星光の狼の群れと変わる。
ぶっちゃけいうなら、ひと振りで範囲攻撃と多段ヒットを実現するワザだ。
これに『暴食』のチカラを編み込めば、ダメージ・発生BPが増加し、それらがオレのパワーに変わる。
ぶっちゃけヤバい攻撃だ。グリードも対応せざるを得ない。
そこでオレがタクマに突撃、ダメージを通すのだ。
まあそもそもよけられちまったらアレなんだが、タクマはこういう時よけない。『地烈斬』や『辰地斬』でもろともにぶったぎってくる。
今だって、ぐんと地面に足を踏ん張って。
「っしゃあっ! オレもっ!!
『辰・地・斬』! からのっ、『辰・地・斬』ッ!!」
「そうくるかよっ!」
まさかの『辰地斬』二連発。地を震わせる星気が弾幕を薄め、突破口を穿つ。
しかし現れた道は細く、タクマは駆け抜けざまにダメージを食っている。
それでもやつは、うおおおおと突進してくる。
ああ、それでこそタクマだ。オレもまっすぐ突進する。
間合いよし。ファイナルアタックは、出の速いこいつでだ!
「『スマッシュ・ファング』!!」
「『地・烈・斬』っ!!」
互いに繰り出すのは第一階梯の剣技。すれ違いざまに斬りあった。
『……チッ。そこはドレインだろうがよ、主人公野郎。
ま、ちっとラクできたんだし、ここはホメてやっか』
「そう、いうなって、グリ……
途中の、ドレインがあったから、いけたん、だし……」
ちょっとだけ笑いを含んだグリードの声と、ぜえぜえ弾むタクマの声を聴きながら、オレは剣を杖替わり、体を支えた。
HPはもはやすっからかん。なんとか立ってはいるが、もう、戦うことはできない。
タクマのHPは、残っていたがほんのわずか――たったの2500。
ぶっちゃけあと一撃で刈りつくされる程度の値。ギリギリの綱渡りだ。
「いや。なんでだよ、マジ……?
いまのブラストか、スマッシュか……どっちかでもチカラ使ってりゃ、もすこし余裕だったろうよ……?」
振り返り、問いかけた。
帰ってきた答えは、やっぱりだった。
「そうだなー……
オレが、そうしたかったから!」
「はは……
ほんっと、タクマだな……
ほんっとおまえ、タクマだよな!!」
いつもの答えに湧き上がってきたのは、ひたすら気持ちのいい笑い。
まったく、憎めない。弟のようにかわいらしい、主人公野郎だ。
とりあえずぐっと首っ玉を抱えて、うりうりうりっと撫でておいた。
ちょっとだけ調子いいです^^
次回、インターバルタイム!
どうぞ、お楽しみに!




