10-5 元・きつね少年と『チボリーのアイテム屋』
教会を出たおれたちは、ニノの先導で裏通りをたどり、西市街へと向かった。
ニノが『出発前にアイテムを補給したい』と言ったからだ。
だが確か、西市街はいまや半分スラムと化しかけていて、店ももうほとんどないはず。
それを言うとニノは『西にだってちゃんとしたアイテム屋はある。そっちのほうがずっと勝手がわかってるからボッたくられる心配もない、どうせならお前たちも未来への投資と思って補給していけ』と主張。
そうして連れてこられたのは、ちいさな傾きかけたアイテム屋だった。
「はあ、また一段とさびれちまったな……」
「帰ってきて早々いやなこと言うない! 入るなら入ってくれないかい? アンタがそこでブッ立ってるとあたしがウチに入れないだろ!」
目深にかぶったフードの下、ニノが寂しげにつぶやく。
すると、後ろから威勢の良い声が聞こえてきた。
ふりかえれば、おれたちの半分くらいの背丈の小さな少女。
気の強そうな顔立ちに、濃いマゼンタのショートヘアがよく似合っている。
身なりは裕福なものではないが、さっぱりと小ぎれいにしている、かわいらしい少女だ。
はじめまして、こんにちわとあいさつをすれば、彼女はまんざらでもないようすでふふんと鼻を鳴らした。
「そっちのお兄さんは礼儀ってものがわかってるみたいだね。いらっしゃい、チボリーのアイテム屋へようこそ。あたしはチコ、この店の看板娘だよ。
ったくねぇ、さっきはめんどくせえ野郎どもがどしどし来やがって買い物もせんと『オッドアイの黒うさぎを見てねえか』ってしつっこいから、見てたらとっくに捕まえてらあっておんだしてやったわ。
っで、ニノは何の用? ひやかしだったらとっとと帰んな!」
「ほーう、いい態度だなーチコー。
俺は客を連れてきてやったんだぞー。お茶の一つも出してもらいたいもんだなー?」
「はあ? ああこのお兄さんたちね。
『お客』というからには最低でも……」
そのとき、ニノがにやーりとわらいつつおれのフードを取った。
そして、大きく目を見開いたチコちゃんの口をふさぐ。
「うそおおおお!! おうじさもがもが!」
「よーし、わかったなら案内してもらおうか。
今日はたっぷりサービスしてもらうからなー?」
うんうん、いろんな意味でいい構図だ。あとでプレゼントしよう。
おれはとりあえずスクショを撮っておくことにした。
「もうっ、『ミライツカナタ』連れてきてるならさいしょっからそう言ってよ、お兄ちゃんの馬鹿!
……っじゃない、あわわわ、これはただのちょっと面倒見のいい常連で!! あたしとはべつに深い関係があるわけではなくて……っ!!
と、父ちゃーん!『ミライツカナタ』がきたよー!! おまけにニノまできたー!! ほらお茶だしてお茶ー!!」
店内に連行されたチコちゃんは、はずかしそうにニノにくいついた。
そうして、ごまかすように店の奥へと呼びかける。
「あ、いえおれたちは先を急ぐので、どうぞお構いなく……」
「だそうだぜー。残念だったなー」
「そっかーあ。ニノはよーやく全財産ここで使っていってくれるのかあ。ふ――ん」
そのとき店の奥からどんがらがっしゃん! とハデな音がして、初老のおっさんが飛び出してきた。
おれたちをみるや、こぼれんばかりに目を見開き、何度も何度も頭を下げる。
「ひゃあああ!! いらっしゃいませ!!
天使様方がこのようなさびれた店にどのようなっ……お入り用は娘でしょうか、それともわたくしめでしょうかっ?! すみません家内はただいまべっきょちゅ」
「あの……あ、アイテムを……」
そんなこともあったりしたが、見せてもらえたアイテムはどれも高品質。なおかつ、値段もかなり割安。
どうしてこんな店がかくもさびれているのか、正直わからないレベルだった。
「昔はこの辺も、こんなアイテム屋がずらりと軒を連ねておりまして……
ですが、西坑道が掘りつくされてから、一軒、また一軒と店をたたみましてねぇ。
いまでは、この辺でアイテム屋と言えばウチひとつになってしまいました。
家内はいいかげん見切りをつけて、さっさと東に移れというのですが、ここで私が辞めてしまっては、西市街にアイテム屋がなくなってしまう。
せめて、私が足腰たつ間はと、意地を張って続けておりますが……。」
おっさん改め、チボリーさんは寂しそうに笑った。
そうして、腰に抱き着くチコちゃんの頭を愛おしそうに撫でる。
「チコはけなげな子で、毎日様子見と称して、こうして手伝いに来てくれているのです。
そんなチコのことを、ニノはなにかとめんどう見てくれておりまして……
ぶっちゃけ冒険者としてはてんで鳴かず飛ばずだったので、なんとかして婿に、だめならば嫁にと考えていたのですが」
「おい今変な言葉が混じってなかったか」
「そうですか、ついに万年Cランクのニノも、高天原への手がかりを……。」
「スルーかよ!!」
先を急ぐはずのおれたちだったが、気づけばこうして、チボリーさんの話を聞いていた。
「イズミさんが魔物としてこのミッドガルドに堕とされたと聞いた時にはショックでしたが、これも天の思し召しなのでしょう。
どうか、ニノをよろしくお願いします。ふつつかな狐娘ではございますが」
「ひとんちの子を勝手に嫁に出すんじゃねえええ!! つかいまの俺はうさぎだから!! つかそもそも男だから――!!」
そんな、心温まるお話にほっこりしてから、おれたちは『チボリーのアイテム屋』を出た。
ちなみにニノは、さすがに本当に全財産ではないだろうが、相当の額を支払っていた。
ずっしりと太った袋には、なにか手紙が入っているようだったが、それについては誰も何も口にしなかった。
「もし、また寄れたら寄るわ。
……じゃあな」
そんな風に笑ってニノは、店を出ていった。
おれたちもふたりに一礼して、後を追った。
なんか、ファンタジーRPGっぽい……!!(自分で感動)




