Bonus Track_84-4 だから我々は、今夜も~シグルドの場合~
新生魔王軍、独立宣言五秒前です。
画面越しに見えるのは、佳境を迎えた祭り。
盛装した魔王たちがきらめくライトのなか、大きく手を振りマイクを手に取る。
『いました!
一時方向、十時半方向に月萌部隊! それぞれ特殊潜水艇3、遊泳兵6!』
『これはまた気前よく出してきたもんだな……』
『まあわれらも人のことは言えませんがね』
『違いない!』
『よし、プランAでいく。『目立たない程度に』お見舞いするぞ!』
『了解!!』
イヤホン越しに聞くのは、暗い海の下のやりとり。我らが同志の勇む声。
口をはさむべきところは現状ない。
執務室の椅子の上、私はゆっくりと、眠気覚ましのブラックティーを口に運んだ。
大恩ある、親愛なる魔王様方を敵とする気になどなれない。
その御国もまた同様。
これが、われらステラ領民の統一見解だ。
しかし、魔王様方は生まれ育った祖国をお出になった。
かねてよりの協定通り、敗走を装って。
だから我々は今夜も、月萌国と戦える。
『ステラ杯』宣言前後の、この海のしたで。
* * * * *
かつて旧ステラ国最大のピンチを救ってくれた恩義があることなど、もちろん全ステラ領民が理解している。だがそれでも、我らは水面下でかの国を攻め続けていた。
かの国も遠慮なく、我らがエージェントを排除した。
なぜって、それが我らの賜りし『聖務』だったのだから。
月萌高天原の成人はみな、この『ミッション』について知っている。
けれどその一方で、両国が『裏』のつながりを有し、互いを利用しあっていることまでを知っているものは極少ない。
だから、知る者は考えた。『ステラ杯』の開催を妨害しようと。
知らざりし者は考えた。妨害はさせまいと。
笑ってしまうのは総じて疑っていないらしいところだ。『ステラ杯』が開催されれば、そのチャレンジャーは勝利し、ステラ領は魔王軍との講和をめざし、すぐにこれが決定されると。
まあ、最悪に備えるのは当然のこと。それは置いておくこととしよう。
『知る者』にとっては、彼らの道行きを阻む魔王様方が敵。ならばその味方を増やさせぬために、今回の『ステラ杯』はつぶしたいというのが本音だ。
逆に『知らざりし者』にとっては我らソリステラスこそ先に叩きたい敵。『ステラ杯』を開催させることはその目的にかなうことだ――参加者たちは消耗し、ステラ領は魔王の味方を志すもの=堂々叩ける敵となる。
鎖国政策と結界により国内防衛ばかり、反転攻勢に出られなかった彼らにとっては千載一遇のチャンス。わかる、その気持ちは大いにわかる。
われらにとってもそれは渡りに船だった。国内開戦派の志は、いまだにくすぶっていた。燃え上がれずとも消えることなく。
だから、申し出たのだ。『知る者』たちに『我らが行きましょう、妨害工作やりましょう』と。
もちろん本音としては『ステラ杯』の妨害はさせたくない。魔王様方のお膝下に侍り、一時だけでも月萌勢とガンガン戦う、この両方がかなうことが我らの最良のシナリオだからだ。
ゆえに、予防線を張った。『完全な成功までは約束しかねる、相手は我が国民の誰より強い魔王であり、我らが出せる手勢は隠密作戦が物理的に可能なごく少数である。ゆえに確実に与えられるのはダメージのみと期待してくれ』と。
彼らはそれでもいいとうなずき、『知らざりし者』に情報を流した。
そうして『知らざりし者』は魔王島海域にて防衛線を張り、同志たちは出航した。
* * * * *
『ステラ杯』への態度は三者三様、奇妙なねじれ構造を呈していた。
それでも、やることは大して変わらない。
我らが心の主たちはこれより、新たな旗揚げを宣言される。
打ち捨てられし孤島を、小さき王国として。
つまり、もう月萌は『絶対に攻めがたい国』ではなくなった。
今まで通り。これまで通り。
その関係は一世紀の間続いてきていたし、これからもまだ続くことになろう。
魔王様方が、その悲願を遂げられぬ限りは。
だからわれわれは今夜も、月萌国と戦う。
『ステラ杯』宣言前後の、この海のしたで。
量と内容のわりに下準備がめんど……ごほんごほん、時間のかかった場所です(爆)
さすがにレティシアさんたちのガンナー攻防+イツカナ独立宣言とステラ杯開催予告アナウンスいれながらこの内容は無理っした。
次回、独立宣言の予定です!
がんばりやす!!




