リオンの物語 始まり
キャラクター紹介。
リオン
記憶をなくした少女。気づけば森に倒れていた。
本作の主人公。
サラ
謎の女性。
リオンを助けるように色々なことをしてくれる。
リット
異世界の獅子族と呼ばれる種族の青年。
何かの目的を果たす為に動いている。
パーティ
~クライネス~
ギラス
若き冒険者。馬車の護衛をしている。
ギラネス
ギラスの姉。怒らせると怖い。
グランタ
騎士の男。陽気で気さくな性格
マガータ
魔法使いの女性。リオンの才能に嫉妬する。
これからも頑張って色々増やしていきます!
一応設定を一つ。
この世界には魔法が存在する。
それは使用者の想像力によって左右される。
詠唱もあるにはあるが、言わなくてもいい。
名前も特には決められていない。
では、お楽しみください。
第一話 物語の始まり
「う…ううん。」
とある森の中、一人の少女が目を覚ました
彼女は泥だらけの服装で辺りをきょろきょろと
見回す。
何もない。
ただ木々が日の光を遮っているだけである。
「…私は…。」
彼女はどうしてこんな所に居るのかを
思い出そうとした。
しかし、しかしである。
自分の名前がリオンであるという事、
そして、自分がこの世界で何かをしなければならない
ということ以外は何一つ思い出せなかった。
「…。」
鳥が突然飛んで行った。
バサバサっと飛んでいく音とともに
リオンの近くの木々が揺れる。
ガサッと近くの茂みが揺れる。
リオンはそちらに目をやる。
グルルルル…
そこから低いうなり声とともに現れたもの。
そいつは白い毛の狼だった。
体はリオンより二回りほども大きい。
そいつは鋭い牙をむき出しにして
リオンを威嚇する。
「あ…ああ…」
リオンは気圧され後ろに下がる。
しかし、そんな彼女を森は許さない。
木がリオンの背中に接触する。
涙目のリオン。
それを見て、ゆっくりと着実に歩を進める
白い狼。
ドスッドスッと足音を鳴らす。
リオンとの距離が2メートル程になった時
「グルァアアアアアアア…!」
爆音の咆哮とともにリオンに襲い掛かる。
「いやぁぁぁ…!!」
リオンは目を閉じ、両手を白い狼に向けた。
刹那。
リオンの手から灼熱の炎の塊が放たれる。
「ガッ…」
その炎は一瞬にして白い狼を黒い消し炭にしてしまった。
辺りに焦げ臭いにおいが漂う。
リオンは目を開く。
狼の見るに堪えない亡骸が目に入った。
「…。」
これを…私がやったの…?
私は…一体、何なの?
リオンは己の両手を見ながら自身に
そう問いかける。
けれども、答えはない。
彼女にはその答えとなるであろう記憶がないのだから。
「…っは!」
リオンがそんな風に考えていると、
狼の亡骸に変化があった。
亡骸はゆっくりと光の粒となり消えて行ってしまう。
後には何も残らなかった。
それを見届けたリオンは何も言わずに
その場を立ち去った。
「ここは…?」
リオンが森を進むと少し開けた場所に出た。
大きな木が中央にそびえ、その枝に葉を茂らせている。
リオンは上を見上げていた。
「よくぞ、試練を乗り越えましたね。」
「!?」
そんな彼女に突然掛けられる声。
見ると、先程まで居なかった女性が木の根元に
立っていた。
「驚くのも無理はありませんね。
なにせ、記憶を失っているのですから。」
その女性は頷きながら言った。
「…あなたは?」
リオンは恐る恐る聞いた。
「私の名前はサラです。」
その女性、サラはそう言った。
「えっと…サラさん、私は…」
「…どうしてこんな所に?ですか?」
「はい…」
リオンはサラの言葉に頷く。
「それは、じきに思い出すでしょう。
記憶喪失とはそういうものですから。」
サラは微笑む。
「今はつらいでしょうが、きっと思い出せますよ。」
リオンは言葉を失ってしまった。
何も言うことが出来なかった。
「それにしても、あの聖獣を一撃で倒すとは…
さすがですね。」
「聖獣?あの狼の事です…よね?」
コクっと頷くサラ。
「あの聖獣は私の使いとして使役していました。
そして、無益にここに人が立ち入らぬように
していたのです。」
サラは続ける。
「それを貴方は乗り越えました。」
サラはそっと、手を伸ばす。
「これを。」
その手には小さな短剣があった。
リオンはそれを受け取る。
「これがいずれ役に立つ時が来ます。
それまで持っていて下さい。」
「はい。」
リオンは持っていたバックにそれをしまう。
「さて、この森を出るには風に従ってください。」
「風…ですか?」
はい。と言いサラはそっと指を鳴らす。
フワッと風が流れる。
「この風が貴方をこの森の出口へと導きます。」
「ありがとうございます、サラさん。」
リオンはお礼を言い、風に従い歩き出した。
「あっ…あの!」
リオンは振り返る。
…………。
ザァっと木々が揺れているだけ。
そこにサラの姿はなかった。
「…?サラ…さん?」
サラさんって、誰?
リオンはサラの事を忘れてしまっていた。
「…!この森を出ないと!」
リオンは風に従い歩き出した。
「行きましたか…」
サラは木の枝に腰かけていた。
「誰かから記憶を消すというのは複雑な感覚ですね…」
サラは遠くの空を見ながら言った。
「お前ともお別れですね…」
サラは隣を見る。
サラの隣には先程リオンを襲った
白い狼によく似た小さな白い狼がいた。
「お前たちの一族は親が殺されると、
その殺したものに従うという掟がありますからね。」
ポンポンっと白い子狼の頭をなでるサラ。
「お前はまだ幼いですが立派な戦士です。
あの少女を助けてあげなさい。」
サラにそう言われると、ワフッと一鳴きして
白い子狼は枝からジャンプし地に降り立つ。
そして、リオンが向かった方向へと進んでいった。
「私は見守っていますよ、リオンさん…」
そう言うとサラは微笑みながら消えていった。
第二話 獣人との出会い。
「…。」
その人物は何も言わずにただ歩いていた。
ここはリオンのいる森から少し離れた場所。
その男は黙って歩き続ける。
その男は、着ている服こそ普通だが、リオンや人間とは
違うところがあった。
彼には、人間にはない尻尾や大きな耳が生え、
顔も人間のそれとは大きく異なっていた。
彼は獅子族と呼ばれる種族で、この地方には
あまり見かけられてはいない。
その為か、彼は顔を隠すようにフードを着けていた。
ただ、尻尾は丸見えなのだが…
彼はリット、21歳の若き獣人である。
リットは草原をしばらく歩き、公道に出た。
すると、丁度そこに馬車が通りかかる。
馬車がリットの場所の直前で止まった。
スッと、馬車の荷台から影のように無数の何かが出てくる
「!!」
リットは咄嗟に剣を抜いた
ガギンっと鉄と鉄がぶつかる。
「お前、盗賊か?」
ギリギリと剣に力を込めながら、リットに
何か、改め人が問う。
彼は冒険者のようで、身なりは動きやすそうなものだった。
「いや、違う。」
リットは彼の言葉をきっぱりと否定した。
他にも彼以外に三人の人物が出てきているのを
リットは横目で確認する。
「…。」
彼は考えるように剣に力を込めながら俯き、
そして、剣をリットから離す。
「分かった、ちょっと待て。」
そう言うと、彼は馬車を先導していた二人の人物に
近づき声をかける。
他の三人は馬車の荷台に戻っていった。
リットは剣を収めその会話を聞いていた。
「あいつ…強いですよ。」
「護衛に使えそうか?」
「はい。恐らくは…」
「だが、本当に大丈夫だろうな?
盗賊という心配はまだ残っているが…」
「俺は盗賊ではない。」
「!」
三人がリットを見る。
リットはその視線を気にせずに続けた。
「…この馬車の護衛を引き受ける。」
リットはムスッと顔をしかめながらそう言った。
「…」
三人は黙る。
またごにょごにょと会話を少しすると
冒険者が近づいてきた。
「金は払えないぞ…いいのか?」
その言葉にリットはハァと一つため息をついた。
「構わない、街まで行きたいだけだからな…」
リットはこういった金の交渉が昔から嫌いだった。
ただ、金だけの関係。
そこには縁も絆もない。
そんなやり取りをリットは虫唾が走るくらい拒絶していた
「分かった、付いてきてくれ。」
そう言われ、リットは馬車の荷台に向かった。
やはり、荷台には三人の人物が乗っていた
リットはそっと端のほうに座る。
馬車が動き始めた
「俺は、ギラス。冒険者をやってる」
先程の男、ギラスがリットに話しかけた。
チラリとリットは彼らを見る。
「私はマガータです、よろしくお願いします。」
恐らくは魔導士なのだろう、マガータはドレス姿だった。
「俺は、グランタだ!獅子族かお前、珍しいな!」
ガハガハと笑いグランタが話す。
グランダは騎士のようで、鎧を着ていた。
その頭がバシッと叩かれる。
「うるさいよ!グランタ。」
痛って~とワシャワシャと頭をかくグランタ。
「はぁ…まったく…あんた、ごめんね。
あたしはギラネスさ。そこのギラスの姉だよ。」
やれやれとしながらギラネスが話す。
ギラネスはマガータと同じく魔導士のようだった。
回復系だろうか…?と一人リットは思う。
「あたしたちはこの四人でパーティを組んでいてね。
名前はクライネスって言うんだ。」
「姉さん、先に言わないでくれよ!」
ギラネスにギラスが言う。
その頭をギラネスは叩く。
「うるさいよ、何度も言わせないで。」
うう…とギラスは涙目だった。
「ところで、あんた名前は?」
ギラネスがリットに話しかける。
「…リットだ。」
リットは呟くように、だがはっきりと告げた。
まだ、空は青く平和な日が続きそうだった。
「…。」
リットは今まで馬車が通ってきた道を眺めていた。
周囲に敵の気配はない
あるのは緑豊かな自然だけだ。
「あんた、そういえば何でこんな所に居るんだい?」
ギラネスがリットに話しかける
「俺も気になってたな。」
ギラスもそれに乗る。
リットははぁ…とため息をはく。
「俺は自分の居場所を追い出されただけだ…。」
そう言うとリットは寂し気に遠くを見つめる。
その動作の一つ一つがもう聞かないでくれと
二人に訴えていた。
「そ、そうかい…。大変なんだね、あんたも…。」
ギラネスとギラスは聞いたことを後悔していた。
「…。」
リットは目を閉じて黙る。
とここで、馬車が止まった。
「…敵か?」
グランタが言う
もうすでに五人は腰を上げ、臨戦態勢に入っていた。
「いや…どうやらそうではなさそうだ…」
リットが口を開く。
耳をピクッと動かしてまたはぁ…とため息を吐く
「俺が対処してくる。」
そう言って、リットは外に出て行った。
「?どういうことだ?」
グランタが首を傾げる
「ギラス、あんたも行って来なさい。」
ギラネスがギラスを催促した
「俺もかよ!姉さん」
ギラスは嫌だ…と言いながら出て行った。
「お願いします、街まで乗せていってください!」
そんな声が馬車の前方から響く。
リオンが必死に交渉している最中だった。
運転手は渋っている
「…どうかしたのか?」
リットは運転手に話しかけた。
「ん?ああ、あんたか。
いや、こいつが乗せてくれっていうからな…
どうしようかと思ってな…」
どうする?と二人で会話を始めてしまう。
「お前…一人旅か?」
リットはリオンに話しかける。
「え、あはい。そうです」
リオンは頷く。
「…あまり強くは見えないが…。」
「え?どうしたんですか?」
リオンはリットに尋ねる。
「いや…何でもない。ただの独り言だ」
…無理だな、やめておこう。とリットは一人呟く。
「しょうがないから、乗せてやるよ姉ちゃん。」
どうやら話し合いは終わったようだ。
「あ、ありがとうございます!」
リオンは頭を下げる。
「…よかったな。」
リットはリオンに言った
しかし、リオンにはそれが聞こえていない。
リットはまたため息を吐く
「お~い、ってあれ?その子は?」
ギラスが荷台から出てきた
「次の街まで乗せる事になった。」
リットが説明する。
「なるほどなぁ、よろしくな!」
笑顔でギラスはリオンに挨拶をした。
「はい、お願いします!」
それにリオンは笑顔で返したのだった。
ガサッと葉っぱを揺らし、
白い子狼は草むらからそんな彼女達を見ていた。
第三話 盗賊 急襲
辺りはすっかり暗くなり、空には月が浮かんでいた。
森は夜行性の動物たち(モンスターも含む)によって
出される音が響き、
草原でも風が吹き抜けたり、茂みががさがさと揺れたりして
昼の時と違う賑わいを見せていた。
そんな中を一つの馬車が急ぐように進んでいる。
はたから見れば運転手の二人しかいないように見えた。
そんな馬車を見る目が大量にある。
それは夜のとばりに身を隠しながら、
馬車に確実に近づいていた。
馬車の人たちは気付いていない。
「ん…、なんだ?」
最初に異変に気付いたのはリットだった。
リットは一人、何かの気配を感じ取り武器を取り出す。
そして、その方向を荷台から顔を出し確認する。
はじめ見た時、その方向には誰もいないように見えた。
「気の…せいか?」
リットは遠ざかっていくその方向を見ながら呟く。
「どうした?」
そんな彼にグランタが声をかける。
「何か、人の気配を感じた。それも大量にな…」
リットはグランタにそう答える。
「最近物騒だからな、もしかすると盗賊でも
この馬車を狙ってんのかも…」
グランタのその言葉を遮るように馬車が急に止まる。
「うおっつ!何事だ?!」
グランタが声を上げた
それに反応してギラス達が仮眠から目覚める。
「行くぞ…!」
リットが一番に荷台から飛び出した。
それに続くグランタとギラネス。
「マガータはここでリオンと一緒に居ろ。
きっと俺たちだけでなんとかできる。」
「分かったわ、気を付けてね。ギラス。」
マガータの言葉を受け取り、ギラスも飛び出した。
「一体何が?」
リオンの一言。
「とにかく、今は黙って様子を見ましょう。」
マガータの言葉に頷き、様子を見るリオンだった。
馬車の周りに現れた盗賊たち
その内の一人が声を出す
「俺たちは盗賊だ。あるだけの金と食料、そして馬車の
積み荷をおとなしく引き渡せ。」
そんな彼らに運転手は余裕をもって返す
「いやだと断ったら?」
その言葉を受け、盗賊たちの中に笑いが起きた
「はっはっはっ…!随分余裕だなぁ?
たった数人で俺たちとやりあおうってか?」
「誰が数人だって?」
盗賊の言葉を遮るギラスの言葉。
「焼き尽くせ、ファイアーボール!」
炎の塊が盗賊たちの目の前で爆散する。
その炎は盗賊たちの足元に黒い線を残し、消えた
「あんたら、そこから一歩でも入ってきたら
容赦しないからね…?」
ギラネスの殺気のこもった声が空を切る
「そうだそうだ!怒ったギラネスさんは怖いぞ!
今のうちに帰っとけ!」
グランタが続けて声を上げる。
バシッとその頭がすぐに叩かれた
「あんたは余計な事言わないの!」
痛って~!と頭をかくグランタ
「グランタ言われてやがんの~」
ギラスがグランタをおちょくる
「…余計なことをすると、弱く見えるぞ…?」
そんな三人にリットは躊躇しながら言った。
「余計なお世話!」
三人は一斉に反応した。
はぁ…とため息をリットはつく。
「お前らかかれ!」
盗賊の声が響く。
一斉に盗賊たちが馬車を守るように立っている
四人に襲い掛かった。
「始まったようですね…」
マガータはそう呟いた。
「どうすればいいんですかね…」
マガータにリオンは声を抑えて聞く
「基本的に私たちは外からの合図がない限りは
表では戦いません。」
あっ…とマガータは動作をする
「そういえば…リオンさんは何か魔法は使えますか?」
そう言われて、リオンは 私は…と自分の手ひらを見る。
「分かりません…記憶がなくって…」
リオンは手を握り、顔を俯かせ自分の胸元に当てた。
「そうですか…でしたら…」
ピィーと外から指笛の音が響いた。
「…!リオンさん、行きましょう!
外からの援軍要請です!」
マガータは立ち上がる。
「でも、私は…」
リオンは渋った。
「大丈夫です。きっとあなたは魔法が使えるはずです、
私にはそんな気がします。」
マガータはリオンの手を握る。
「きっと大丈夫ですよ、リオンさん。」
「…はい。」
リオンは小さく頷いた。
外では盗賊と四人の激闘が繰り広げられていた。
「ちっ…数が多すぎるな。」
ギラスは剣を構えながら呟く。
目に映るだけでも十五人ほどだろうか、
ジリジリと距離を詰めてくる。
「あたしの魔力もそろそろ限界かもしれないね…」
ギラネスが言う。
ファイアーボール! と相手にぶつける。
「ギラネス、あと何発いける?」
グランタがギラネスと背中合わせになり聞いた。
「良くても、あと三十発って所だね…」
ギラネスは答えた。
「フッ…まだまだ余裕じゃねえかい。」
グランタは笑みをこぼす
ガキンッとグランタの剣が盗賊をいなす。
「あんたこそ、まだまだ余裕そうで何よりだよ。」
グランタにそっと呟く。
そんな二人に盗賊がまとめて襲い掛かる
けれども、二人と盗賊の間にリットとギラスが
割って入り、盗賊を蹴散らした。
「しゃべっている暇はないと思うが…」
「激しく同意!」
四人は一か所に固まった。
周りは盗賊に囲まれている。
「押し流せ、アクアウェーブ!」
盗賊の背後から水が押し寄せ、倒す。
それによって開いた道を二人の人物が通り抜ける。
「マガータ、リオン!」
ギラネスが叫ぶ。
「馬車の周りの盗賊は全て倒しました。
そして、馬車もあの通りです。」
クイっとマガータは指をさす。
見ると馬車の周りを全方位から取り囲むように
分厚い水の壁が覆っていた。
「流石マガータだね、よくやってくれるよ。」
ギラネスは微笑みながら頷いた。
「さてと、じゃあこいつらをちゃっちゃと倒すか!」
グランタはそう言った。
「一人何人がノルマだろうな?」
ギラスは呟く。
「一人当たり、ざっと八人程度じゃないかい?」
ギラネスが答える。
「…。」
リットは黙ってそれに頷いた。
「それじゃあ、すぐに終わらせましょう!」
マガータの発言で六人は一斉に動いた。
…きっとさっきのマガータさんみたいにすれば…。
リオンは近づく盗賊達を見ながらそう思う。
盗賊たちの手前で止まり、攻撃を避けつつ
手の平を盗賊に向ける。
「押し流せ、アクアウェーブ!」
先程のマガータと同じ言葉をリオンは叫ぶ。
次の瞬間、
先程のマガータとは比べ物にならないほどの
水が盗賊達を襲った。
「えっ…?」
リオンはその光景に驚く。
まだ盗賊は倒し終わっていない
リオンは驚きつつ、さらなる攻撃を加える。
「押し流せ、アクアウェーブ!」
そう言うとまた威力の高い魔法が発動した。
まただ…
リオンは二発で倒し終わった盗賊を見ながら思った。
「初級の魔法でそこまでの威力とは…。」
マガータが呆れたように呟いた
見ると、もう既に皆盗賊を倒し終わっていた。
「周囲に敵の気配はもうないな…。」
リットが聞こえるように言った。
「さてと、すぐに後処理してここを離れるよ!
また盗賊に襲われるのは勘弁だからね!」
ギラネスの言葉にリットとリオン以外が頷き
作業を始めた。
数時間後…。
馬車は暗い夜道を走っていた。
夜道を照らすのは月明かりと
運転手の持つ心許ないランプの明かりのみだ
「ですから、魔法とは想像する力を具現化したもので、
本来、詠唱などは必要ないんです。」
マガータの声。
それを真剣に聞くリオン
「でも、詠唱をするのは…。」
「威力を上げるためと、魔法のイメージをより
強めるためですね。」
リオンの言葉にマガータはすぐに答えた。
「例を上げるとすれば…。」
そう言ってマガータは人差し指をピンっと
たてる。
「…。」
目を閉じてそして開いた。
ボッ…と指の先から炎が出て、
ゆらゆらと揺れて弱弱しく辺りを照らす。
「今、炎を想像してみました。
では、これを詠唱すると…。」
一旦炎を消し、マガータはまた目をつむる。
「辺りを照らせ…」
小さくつぶやいた。
すると、また炎が指の先から出る。
しかし、その炎は先程よりも力強かった。
「まあ、こういう事です。」
火をフッと吹き消しながらマガータは言った。
「なるほど。」
リオンは頷く。
「魔法は想像力の強さがそのまま威力になります。
より強くイメージすればするほど強さは上がっていく、
そのことを覚えていてくださいね。」
マガータはニコッと微笑む。
あっ、ちなみに…と続けた。
「魔法の名前はまちまちなので適当に自分でつけるか、
もしくは言わなくてもいいですよ。」
「え?!名前ないんですか?」
リオンは驚く。
「はい…よくかっこつけて色んな名前をつけている
人は居ますが、想像力を上げるのが重要なので
特に意味はありませんよ?」
それに…
「覚えるのも、面倒ですしね。」
マガータははっきりとそう言った。
「基本的な詠唱の形と、ある程度の想像力さえあれば
誰でも魔法は使えますから。」
マガータは頷いた。
それを聞いて、先程盗賊との戦いにおいて
マガータの詠唱を丸パクリした事を
恥ずかしく思うリオンだった。
第四話 それぞれの旅立ち
リオン達はようやく街についた。
「いや~やっと着いた~。」
ギラスがうーんと背伸びをして言う
「長かったわ~、また盗賊に襲われるかと
冷や冷やしちゃったわよ。」
ギラネスもうーんと背伸びをしながら
横にいたグランタに話しかけた。
「あの一件の後、ちらほらと盗賊の影は見たけど
誰も襲っては来なかったな。」
そこまで言ってグランタはギラスの所に行き、
肩を震わせる。
「…きっとギラネスのおかげだ、怖いから。」
「…俺もそう思う。」
ギロリ、とそんな小声で話す二人に殺気が
向けられる。
「…二人とも、後で覚えてなさいよ…?」
そっと握りこぶしを固めるギラネス。
「す、すいませんでした!」
ギラネスに急いで頭を下げる二人
「まったく…いつも通りですね…」
それを見ながらはぁ…とため息をつき、
帽子のつばをそっと傾けるマガータ。
「あの雰囲気は確かに大変そうだな…」
リットが呟いた。
「もう慣れましたけどね…流石に。」
マガータがそんな彼の呟きを拾う。
「そうだろうな…」
リットはフイッと顔を背けながら言った。
「さて、そろそろ私たちは行きます。
まだ護衛は終わったわけではないので。」
マガータがコホンと咳払いをして言った。
「俺たちはここで降りる。」
コクっと頷きながらリットが言った。
「本当にありがとうございました!マガータさん。」
リオンがお礼を言う。
「いえいえ、私は何もしていませんよ。」
マガータは笑顔で返した。
「リオンさん、あなたにはまだ
魔法の潜在能力が眠っているはずです。
それも強力なものが…です。」
マガータは少し悔しそうな顔をしながら言った。
「私にはあなたの成長が楽しみであり、
同時に恐ろしく感じました…すいません。」
ペコリと頭を下げ、そして上げる。
「だから、頑張ってその素質を磨いてくださいね!」
その笑顔にはどことなく影があった。
馬車はリオン達を降ろして走り出した。
「ほんと…面白い子たちだったわ。」
ギラネスが二人を見つつ言った。
だから…と横を見る
「別れの涙としてそれを流しているって
思っておくわよ?マガータ…」
マガータは帽子で顔を隠し泣いていた。
「負けた…私は…」
泣きながら声を漏らす。
「魔法はかなり自信があったから…」
ポンっと励ますようにマガータの肩に
手を置くギラネス。
「もう一度、鍛えなおさないといけないわね
ね、マガータ…」
言い聞かせるようにギラネスは言った。
泣きながらマガータはそれに頷く
彼女は泣きながら決意した。
いつかきっと魔法を極めよう
誰にも負けないくらい強く、と。
「さて…」
リットはフウ…と息を吐く。
「…これから行く当てはあるのか?」
リオンにリットは話しかけた。
「いえ…特には…」
「…そうか。」
リットは言う。
「俺には…力が必要だ。奴を倒すほどにな…」
リットは続ける。
「だから、俺に力を貸してほしい。頼む」
リットはリオンに少し頭を下げながら言う。
「えっ…えっと…」
リオンは戸惑う。
「あの…奴って一体…?」
恐る恐るリオンは聞いた。
「…。」
リットは目を閉じて俯く。
意を決したように言った。
「俺は、行かなくてはならない…俺の国に。」
サァ…と風が通り抜けていった。
「…分かりました。」
リオンは了承した。
彼女は思っていた。
もしもこの場で断っていたとしたら
それはそれでまた別の未来になるだろう。
でも、きっと彼、リットは救えない。
今のリットは放置していてはいけない…と。
復讐に憑りつかれれば、破滅しかない…と。
「そうか…助かる。」
リットは口の端を上げた。
こうして、リットとリオンは仲間になった。
<迷いの森>
その森は、人々を嫌い
まるで生きているかのようにうごめき
人々を惑わせるのだという。
故にそこは<迷いの森>と言われ
人間はおろかモンスターでさえもあまり
近づかないのだとか。
その森の一角。
木の根元に一人の女の子が寝かされていた。
彼女の服も体もボロボロで、
一人では動けない瀕死の状態であるのが
一目でわかる状態だった。
そんな彼女に近づく影が三つ。
その影は人間ではない。
唸り声を上げ薄暗い森であるためか目を光らせて
彼女にゆっくりと近づいていく。
“ウェイストバード”
それら、いやその鳥たちはそう呼ばれていた。
彼女の命に危険が迫っている。
彼女は今もなお眠り、傷をいやしている。
誰も戦えるものは居ない。
そう三匹は判断し、何も食べていない腹を
満たそうと彼女に襲い掛かる。
その時、三匹の前に一人の若者が立った。
彼はその少し小さいからだには
なんだか大きいような剣を持ち構える。
そして三匹に笑いかけ言う。
「お前らが食えるほど、俺の仲間は安くねぇよ!」
そして三匹に向かって走り、
通り過ぎ様に剣を振る。
その攻撃は全て命中し、三匹はその場で倒れ
光の粒となって消えた。
彼の名前はロウル、
そして女の子はアズサという。
「悪いなアズサ、一人にして。
でもあともう少しだからな。」
ロウルはアズサに語り掛ける。
ただ、アズサからの返事は、ない。
ロウルはアズサをそっと抱きかかえ、森の奥へと進む。
何故か?
それはロウルの目的地が森の最奥にあるからである。
<迷いの森>にはとある言い伝えがある
それは森の一番奥にどんな傷でも治してしまう
泉がある。というものだ。
ロウルはその泉に向け歩いている。
けれども、もう何日も歩いているがここは迷いの森。
一向に着くはずもなくいつも同じ場所に戻されていた。
先程も一人泉を探そうとして迷ってしまい、
アズサの救助が遅れてしまったのだ。
アズサはもう一人にしておくわけにはいかない。
だが一人でないと戦えない。
今更この森を出てもアズサが死んでしまうのがオチだ。
「…。」
一人ロウルは少しずつ冷たくなっていくアズサの
体温を感じながら黙って歩き続ける。
モンスターが居れば隠れながら進み、
木の根でデコボコとして歩きにくい道があれば
慎重に進む。
…いくらか進んだところでロウルは気付いた。
また同じ場所に戻ってきていることに。
「…くそっ…。」
ロウルは少し顔を落とした。
「誰か…助けてくれ…。」