燃え落ちる夢(3) 燃殻
あの華やかな結婚式からわずか三ヶ月、次に行われるのがまさか王達の葬儀になるとは、誰も予想していなかった。葬儀の進行はほとんどメルキオッレ公によって行われた。未だ目覚めぬカーライルはもちろん、王妃やクリスティアーノもその役割を担える状態ではなかった。
あの日以来、クリスティアーノはほとんど眠る事が出来なかった。微睡みの中で妻の優しく呼ぶ声を聞いて跳ね起き、やっと眠りについたと思えば妻の苦しみ悶える姿を見て叫びながら目を覚ました。時には幸せな頃の夢を見る事もあったが、そんな夢から覚めた時の絶望は一段と辛かった。
そんな生活は彼の外見にも変化をもたらしていた。体は痩せ細り、瞳からは生気が失せ、髪には白髪が目立つようになった。コーデリアの棺を見つめ、虚ろな表情で佇む姿は、現世に取り残されてしまった幽霊のようでもあった。
祈りの言葉が捧げられ、死者の鎮魂の為の香が焚かれる。その薫りが風に乗ってクリスティアーノまで届いた時、彼は持っていた花束を取り落とし、ふらふらと前へ歩き出した。
『クリス』
彼にしか聞こえない声が優しくその名を呼ぶ。
『さようなら』
囁くような声が静かにそう告げた。
「嫌だ!」
そう叫ぶと同時にクリスティアーノは駆け出していた。供えられた花を蹴散らしてコーデリアの棺にすがり、額を擦り付けた。
「僕はディリィと離れたくない! お願い、どうか……どこにも行かないで、っ君がいないと僕は……ディリィ……ぅ……き、君を愛しているんだ。ようやく心から愛せると、思ったのに……ずっと、ずっと僕と一緒にいてよ……!」
嘆く声はやがて嗚咽の中に埋もれていき、やがて彼は人目も憚らず子供のように大声で泣き出した。その姿に多くの者が衝撃を受け、呆然と見ている事しか出来なかった。父であるメルキオッレでさえ息子のこんな姿を見るのは初めてで、ただ戸惑うばかりだった。
そこからの先の記憶はクリスティアーノにはない。泣き疲れ、丸一日死んだように眠り続けた。このまま目覚めない事が彼自身の望みかのように。
それでもいずれ目覚めは訪れる。コーデリアのいない朝は容赦なく彼を打ちのめし続けたが、投げ出す事はしなかった。涙も枯れ果てた心を抱えながら、共に彼女を愛したこの国を守ると誓い、王家に忠実であり続けた。
「一緒にいてあげられなくてごめん。でも、いつかは君の元へ行く。そしたら、遅いと叱って欲しい。のろまでごめんね、ディリィ」
クリスティアーノ・クローチェ・マードックはその後、崩壊しかけたヴィノティーン王朝の再建に尽力し、その輩としてマードック領主を長きに渡って務め、晩年甥にその役目を譲ると南部の都市ボーツェレンで静かに息を引き取った。その薬指には、生涯変わることなく薄紅色の小さな輝きが共にあったという。




