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夢のような日々(5) 王都の宴

 その日は雲一つない晴天に恵まれた。

 ハドリスでのマードック流の結婚式が親類達による厳かな儀式ならば、王都パゼーでの結婚式は国民全てを巻き込んだ盛大な披露宴だ。ウエディングドレスも先日の肌を覆い隠すようなものから、コーデリアらしい華やかで可愛らしいデザインのものに変わっていた。それを皆より一足早く見せびらかそうとクリスティアーノの控え室に向かったコーデリアは、その姿を見つけると逆にあっと声を上げた。


「クリス、髪切ったの?!」

「切っちゃった。パゼー風にしてもらった。似合うかな?」


 背中まであったクリスティアーノの黒髪が、マードック家のトレードマークとも言える三つ編み部分を残してばっさりと切られていた。というのも数日前、コーデリアが侍女に対して「マードックの男の人ってどうして髪を伸ばすのかしら。皆長髪だからちょっと気持ち悪い」とぼやいているのを聞いてしまったのだ。そう言われてしまっては切るしかない。


「びっくりしたけど……格好良い。うん、似合ってる。そっちの方がずっといいわよ。クリス、そうやって時々格好良くなるのずるいわ」

「よかった。ディリィも新しいドレスすごく可愛いよ。それを言うなら、何を着ても可愛いディリィだってずるい。行こう、そろそろ時間だよ」


 王都での貴族階級の結婚式の夫の衣装は白銀の甲冑が基本で、クリスティアーノの場合はその上からマードック家の紋章のあしらわれた深緑のマントを羽織っていた。その姿に見とれていたコーデリアが入場で一歩踏み出すのが遅れたものの、式は滞りなく行われた。腕を組んで王の前まで歩き、結婚の許しを得る。クリスティアーノには彼女の瞳と同じ色をしたカーネリアン、コーデリアには彼の瞳と同じ色をしたエメラルドの指輪が贈られた。そして大勢の民の見守るバルコニーへと姿を現すと、広場に集まった全員の前で誓いのキスをする。白い花弁が雪のように舞い、楽隊のファンファーレを掻き消すほどの祝福の声が上がる。クリスティアーノが目を開けると、コーデリアは感動のあまりポロポロと大粒の涙をこぼしていた。


「ディリィ見て、皆が僕達を祝福してるよ」


 笑顔の戻ったコーデリアと共に手を振る。更に大きな歓声が上がった。


「いいなぁ、私も結婚式を挙げる時は同じくらい盛大にやらなくてはね」

「カーライル兄上は人気者だからきっと物凄く盛り上が……あ、どうだろう。人気がありすぎるのも考えものですね。兄上が結婚したらショックを受ける人、多そうです」

「そうかな? コンラッド、お前もショックを受けてしまうのかな?」

「全然」


 そんな兄弟の会話もありつつ、国民へのお披露目を終えた式も和やかな雰囲気に変わっていった。会場には贅を凝らした様々な料理が運ばれ、出席した各地の諸侯達の舌を楽しませた。その中に見覚えのある顔を見つけ、クリスティアーノはあの時とは違うリラックスした表情でそちらへ近付いていく。


「やあ、どうも」

「クリスティアーノ公、ご結婚おめでとうございます。宣言通りになりましたね」

「お陰様で」


 いつぞやの北国の青年だった。その傍らには彼の妻と幼い子供達。青年の妻は、夫はこんな大物と親しいのかと目をぱちくりさせ、子供達は身分など露知らず、頬に食べかすを付けながら無邪気に料理を頬張っている。

 あの日の事はクリスティアーノにとっては少々苦い思い出だったが、今となってはコーデリアとの幸せな思い出の一部だ。今コーデリアにどちらがいいか尋ねれば、確実に自分を選んでくれるだろうという自信が、彼に余裕を持たせていた。この青年に嫉妬する要素は何一つないのだと。


「クリス、こっちへ来て」


 夫が離れた事に気が付いたコーデリアが、大きく手を振って呼び寄せる。太陽の光を浴びた純白のドレスと愛しいコーデリアの笑顔の眩しさにクリスティアーノは目を細めながら、次はマードックに招待する旨を青年に伝えてその場を後にした。政略結婚ではあったが、二人が深く愛し合っている事は誰の目から見ても明白で、これほど幸福な結婚はないと誰もが二人を祝福した。


 宴は朝まで続き、翌日の王都の商店は半数が臨時休業となる有り様だった。「昨夜は王女の結婚式で忙しかったんだ」という言い回しが、しばらく王都での流行りのジョークとなったという。

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