変わらぬ日
平成最後の夏。
世間はそう浮かれているが、僕にとっては何も変わらない日だった。
八月最後の日。
もう日は落ちきって真っ暗だ。
僕はいつものように階段を降りる。仕事からの帰り。いつも通りに人で溢れた駅の階段。
いくつかの考え事をしていた。仕事で起きたトラブル。私生活のいざこざ。面倒だなと思いながらも思考を巡らせる。
そんな時だった。
右の肩に重い衝撃が走る。思わずよろけて足を踏み出した。
落ちる事も転ぶ事もなかった事にホッとする。こんな所で転げ落ちたら恥ずかしい。それが一番最初に過った思いだった。
顔を足元から階段の下に向けると、僕にぶつかったと思われる人の背中は、既に小さくなっていた。
きっと急がなければいけない理由があったのだろう。軽い謝罪も言えない程に急ぐ理由が。
周りの人も僕を気にしない。いやむしろ、立ち止まった事を迷惑に思うだろう。
それは嫌だなと思い歩き出す。先ほど踏み出した足首が痛い。
不思議と怒りはなかった。むしろ、実に僕らしい夜だと思い笑えてくる。
八月最後の夜。
平成最後の夏。
僕は変わらず僕だった。
--fin.