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第七話 「旅のお土産に可愛い子との思い出話とかしてみたかったな」

 「……ちゃん、お……ちゃん」


 「っ、うーーん」

 

 (ああ、なんだか心地のいい声が聞こえるなあ。このまま一生過ごしていられそうだ……)


 「もうっ!お兄ちゃん!起きてってば!」


 「はっ、はいっ!」


 そう言って飛び起きた俺の目の前には妹の心がいた。

 どうやらいつもの時間になっても起きてこない俺を起こしに来てくれたらしい。

 なにそれ、お兄ちゃん感激!


 「もうっ、お兄ちゃん、早く起きて準備しないと遅刻しちゃうよ。今日遠足だから普段より早めに起きるって言ってたじゃん」


 「…………今って何時?」


 「……ん」


 そう言って心がスマホの画面を見せてきた。

 画面に映った時間を見てみると、当初予定していた起床時間よりも二十分も遅れていた。


 ――――――――って、


 「うおおぉぉぉぉぉぉぉお!やばいまずいどうしましょう!」


 「早く朝ご飯食べないと遅刻するよー」


 確かに今からすぐに朝飯を食べて急いでいけば何とか間に合う。

 しかし、ここで俺は昨日の夜、急に電話をしてきた綾音のことを思い出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 『ごめんね夜に、今時間よかった?』


 「ああ、寝ようとしてたけどなかなか寝付けてなかったところだったんだ」


 『もしかして、遠足が楽しみすぎて寝付けないのー?』


 「……悪いかよ」


 『ほっ、ほんとだったんだ!ふふっ、ふっ、ふふふっ……』


 「――――おい、笑ってんじゃねえよ」


 『ふふふっ、いやっ、ごめんごめん、まさか本当だとは思わなくてさー。……へー、そんなに私と回るのが楽しみなんだ~』


 「べっ、別にお前と回ることがどうとかっていうことじゃなくてだな……」


 『あーはいはい、そー言うことにしといてあげる。それじゃあ、そんなに私との遠足を楽しみにしてくれているということだし、明日の朝駅から一緒に学校まで行こうよ』


 「だっ、だからそー言うことじゃないって……はあ、言っても無駄だよな」


 『おっ、よくわかってるね』


 「何年の付き合いだと思ってるんだよ。分かった。何時に駅に行けばいい?」


 『うーーんとね、明日はいつもより早いから、七時半に駅に着くよー』


 「分かった。じゃあその時間までに待ってるよ」


 『うん!それじゃあそろそろ寝るからまた明日ね』


 「ああ、また明日な」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 (…………まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!)


 「どうかしたの、お兄ちゃん?」


 「すまない心、今日はどうやら朝ご飯を食べている暇がない様だ……」


 「えっ、そんなにギリギリなの?――――ごめんね、もう少し早く起こせばよかったのに、お兄ちゃんの寝顔を見てたら起こすに起こせなくて……」


 「いや、心は何も悪くないよ。お兄ちゃんが寝坊したのが悪いんだ」


 「でもお兄ちゃん、朝ご飯食べなくても大丈夫なの?」


 ――――――――確かにっ、確かに心の手作り朝ごはんが食べられないのはとても辛い。


 でも、もし約束の時間に遅れてしまうのはどうしても避けなくてはならない。


 (背に、腹は、代えられぬ!)


 「そこは気合で何とかする。だからすまない、せっかく作ってくれたのに」


 「ううん、大丈夫だよ。でーも、その分夜ご飯は食べてもらうからね」


 「ああ、分かったよ。それじゃあもうすぐに着替えていくから。お前も遅刻するんじゃないぞ」


 「うん。お兄ちゃんこそ、気を付けてね」


 「ああ、向こうで会えたらいいな」


 「うんっ!」


 そうして心が部屋から出て行ってから二分で着替えと準備を済ませた俺は、足がちぎれそうなくらい自転車を漕いで学校の最寄り駅へと向かった。



※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 「……はあっ、はあっ、はあっ、――――ふうっ、なんとか、間に合った」


 なんとかぎりぎり俺は時間までに駅に着くことができた。

 そして俺が着いてから一分も経たないうちに綾音が乗っているであろう電車がやってきた。

 思っていたより多くの人が駅から出てきたが、俺はすぐに綾音を見つけることができた。


 「おーい、綾音」


 「あっ、真。おはよー」


 「ああ、おはようさん」


 「ちゃんと間に合ったんだね、えらいえらい」


 「まあぎりぎりだったけどな」


 「ぎりぎりでも間に合ったんだからいいの。それじゃあ行こっか」


 「ああ、そうだな」


 そうして俺たちはいつも通りの他愛ない会話をしながら学校へと向かった。



※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 学校に着いたら普段はいるはずのない大きなバスがたくさん止まっていた。

 その中から自分たちの乗るバスを見つけて、俺と綾音はバスに乗り込んだ。


 ちなみに座席は俺と綾音で隣同士だ。


 「よーしお前ら―、全員ちゃんといるなー。いないやつは手を上げろー」


 担任ではないが、同じバスに乗る生徒指導の先生がお決まりのセリフで出席をとってから、バスは目的地の京都に向かって走り出した。


 「――――――ええっ!真、今日朝ご飯食べてきてないの?」


 「ああ、実は寝坊してさ、間に合いそうになかったから」


 「そんな、連絡してくれたら私一人で行ったのに」


 「さすがに約束を破れはしないしな。それに……」


 「それに?」


 「まあ、たまにはお前と朝登校するのもありかなって思ってたしな」


 「――――――――――――っっっ!」


 「ん?急にどうした?」


 「いっ、いや、なんでもないよ。ほんとほんと、何でもないから!」


 とは言いながらも、顔を隠して何か言葉を発している。

 よくよく見てみるとかをも赤くなっているように見える。


 「綾音、大丈夫か?熱でもあるんじゃないのか?」


 そう言って俺は綾音の額に自分の額をを当てて熱がないかを確認してみた。


 「――――――っっっ!」


 「お前、なんか熱いぞ。ほんとに熱でもあるんじゃないか?」


 「だっ、大丈夫だからっ、本当に大丈夫だからっ!だから、その、ちっ、近いよ……」


 「――――――――――――――わっ、悪いっ!」


 (しまった、昔妹にしていた癖のせいで)


 そうして何とも言えない空気が俺たち二人の間に流れ始めた頃、いいタイミングでバスは途中休憩のサービスエリアに到着した。


 「よーし、今から二十分後にバスが出るからな。それまでには戻ってくるように。それから……」


 そう言って俺と綾音のほうに視線を向けながら、


 「遠足でテンションが上がっているからと言って不純なことはしないように。それじゃあいったん解散!」


 ……明らかに最後のは俺たちに向けてはなった一言だった。


 ――――――ていうか見られていたのかよ!


 「そっ、それじゃあ私飲み物買ってくるからまたあとでね」


 「あっ、ああ……」


 そう言って綾音はクラスの友達とバスから降りて行った。


 ――――――――――――――――――トイレ行こっと



※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 「よーしお前らー、全員ちゃんといるなー。いないやつは手を上げろー」


 朝と全く同じセリフを聞きながら、バスはサービスエリアから走り出した。


 「真、結構ぎりぎりだったけどどーしたの?」


 「いや、思っていたよりトイレが混んでてさ」


 「あー、確かに。すごい並んでたよねー」


 「将来俺が有名な作家になったら、サイン会とかであのくらいの人が来るのかー」


 「なーに都合のいいこと言ってるの。……そういえば、今書いてる小説、どのくらい完成したの?」


 「ああ、それがな。――――実は!」


 「あー、もう言わなくてもわかったよ。まだ全然なんだね」


 「くっ、どうしてばれたんだっ!」


 「いやー、それは顔を見たらわかるよ」


 「くそっ、流石幼馴染だ。――――――まあそんな訳だから、今回の遠足はネタ探しにも期待してるんだ」


 「へー、そうなんだ。……だったらさ、遠足の間はカップルみたいに振る舞ってみる?」


 「ばっ、バカ、お前自分が何言ってるか――」


 「分かってるよ。だって、主人公たちの気持ちを考えるためならこれが一番でしょ?」


 「そっ、それはそうだが……」


 「――――――なんちゃって、うそでした」


 「おっ、お前なー……」


 「あっははー!照れてる照れてる」


 「うっ、うるせーな。もう、俺は寝るから着いたら教えてくれよ」


 「もー、すぐふてくされるんだからー」


 (ちっくしょー、完全にバカにしてやがる)


 そんなことを考えていたが、どうやら昨日寝るのが遅かったこともあってか、俺はすぐに意識を手放した。




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 「……い、ま……と。……たよー」


 (――――――ん、着いた、のか?)


 「おーーい、真ー。着いたよー」


 「っん、ああああ、綾音。着いたのか?」


 「うん、さっき着いたよ。――――――だからそろそろ起きてくれたらうれしいなー」


 ついて起こしてくれたことは分かった。

 しかし、起きたのに起きてほしいとはどういうことなのか、それを理解するのにそんなに長い時間は必要なかった。


 なんと俺は寝ている間に綾音の肩に自分の頭を乗せてしまっていたのだ。


 「――――――っっっ!すっ、すまないっ!」


 「うっ、うん、大丈夫だから。ほっ、ほら、もうみんな降りてるから私たちも行こっ」


 「あっ、ああ、そうだな」


 そう言って俺たちはバスから降りた。

 もちろん運転手さんにはちゃんと挨拶はしましたとも。


 ――――――――バスから降りた後、クラスごとに集合写真を撮り、今は先生からの注意事項を聞いている。


 「いいかお前らー、帰りのバスの時間までに絶対帰ってくるんだぞ。それから、指定されている範囲より外には出ないように。そして最後に、サービスエリアでも言ったことだが、遠足だからと言って不純なことがないように。それじゃあ解散!」


 そう言った瞬間、クラス全員が京都の町へと流れ込んでいった。


 (またあいつ俺のほう見ながら言ってたよ) 


 先ほどの注意事項を思いだしていたら綾音が声をかけてきた。


 「それじゃあ真、行こっか」


 「ああ、そうだな」


 こうしてようやく俺たちの京都遠足の本番が始まる!


 ――――――――――ぐぎゅううゥゥゥ


 「…………腹減った」


 「あっ、あははははー。……それじゃあ何か食べよっか」

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