第十二話 「かわいい幼馴染って、いいよなあ」
5月1日9:30
朝、目が覚めてスマホを見ると、そう表示されていた。
そういえば学校から連絡がないなと思っていたが、この日付を見て思い出した。
「そうか、よく考えてみれば今ってゴールデンウィークだったな」
そう、ゴールデンウィークだ。
いくら妹のことだといっても、無断で二日も学校を休めば何か連絡が来ると思っていたが、そもそも学校が休みだった。
「さあ、今日で退院だし、準備しないとな」
そう言ってベッドから出ると、
「まことー、起きてるー?」
と言いながら、綾音が部屋に入ってきた。
「ああ、起きてるよ。おはよう綾音」
「うん、おはよう真」
そう言って微笑む綾音。
その顔を見て、俺は昨日寝る前に思ったことを口に出した。
「綾音、ありがとう」
何の前触れもなく言ったからなのか、綾音は一瞬、間の抜けた顔をした。
「っ、くくっ、あっはははははっ!綾音、何そんな間抜けな顔してるんだよ」
俺がそう言って爆笑していると、綾音は顔を真っ赤にして怒った。
「だ、だって真が急に変なこと言うからじゃない!」
そう言われたので、俺は真剣な表情をして言い返した。
「変なことじゃない、本気で思ってたんだ。俺は今回、綾音に助けてもらってばっかりだからな」
そういうと、綾音は少しあたふたしながら答えた。
「そ、そんなこと、真だって、私のこと助けてくれたじゃない」
「それでもだよ。綾音がいなかったら、俺はもう駄目だったかもしれない。だから綾音、ありがとう」
そういうと、綾音は顔を真っ赤にし、体をもじもじしながら
「そ、それはその、どういたしまして……」
そう言ってうつむいた。
そんな綾音を見た俺は、少し恥ずかしい感覚になりながらも話を続けた。
「そっ、そんなわけでだから、何かお礼をさせてくれないか?」
「お礼?」
「ああ、何か俺にしてほしいこととかあるか?」
そう俺が聞くと綾音は少し考えてから、
「じゃ、じゃあさ、ゴールデンウィークのどこか一日、私のためにあけておいて」
と言われた。
しかも、上目遣いで。
そんなことをされたら、誰だって照れるに決まっているだろう。
もし照れないというやつがいるなら今すぐここにやってこい!
「あ、ああ、わかったよ。明日は妹といてやりたいから、明後日でいいか?」
「うん、大丈夫だよ。それじゃあ楽しみにしてるね!」
そういって嬉しそうにする綾音を見て、俺もなんだか嬉しくなった。
「ところで、その日は何をするんだ?」
と、俺が問いかけると
「それは……真が考えてきて!」
と、言われた。
ということはつまり、
「全部俺に丸投げかよっ!」
「うん、それじゃあ真、私が喜びそうなプラン立ててね。楽しみにしてるから!」
そういわれてしまっては何も言い返せないじゃないか。
ーーーーーーまあ、それがお礼になるならやるしかないか。
「ああ、分かったよ。でもあんま期待すんなよ」
「うん、わかった。期待してるね」
「おいっ」
そんないつも通りな掛け合いをしていたら、時刻は11時を回った。
退院の時間は11時30分なので、さすがにそろそろ用意しなくてはならない。
そのため綾音は自分の部屋に戻っていった。
その時に心の用意も頼んでおいた。
「さて、俺も準備しないとな」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺たちは準備をして病院の駐車場へと向かった。
「そういえば、僕たちはどうやって帰るんですか?」
と三ツ矢先生に聞いたが、答えは別の人から返ってきた。
「真君、私が送っていくから安心して」
と声をかけられた。
その人物は、
「あ、お母さん!」
「綾音、それに二人とも、大丈夫だった?」
そう、綾音のお母さんだ。
「お、おばさん、どうしてこんなところまで?」
「来るにきまってるじゃない!娘とその大切な人とその人の妹が大変な目にあったんだから。本当はすぐに行きたかったんだけど、仕事のせいで一日遅くなっちゃったの。遅くなってごめんなさい」
と、言ってくれた。
前からそうだが、この人は本当に優しい人だ。
俺たちの親が単身赴任で家にいなくなってしまい何かに困っているといつでも助けてくれた。
俺たちが家事をできるようになるまではいろいろ教えてくれた。
俺たちにとってもう一人の母親のような人だ。
ところで、
「俺が綾音の大切な人って、どういうことですか?」
「ふふっ、それはねえ」
俺の問い掛けにおばさんが答えようとすると、
「ちょちょちょちょちょちょっ、ちょっと黙ってようか、お母さん!」
と、慌てて綾音が止めに入った。
「あらあら残念、せっかく教えてあげようと思ったのに」
「いいからお母さんは黙ってて!」
「いったいどうしたんだ、綾音?」
「どうもしなああぁぁぁい!」
なぜか俺まで怒鳴られてしまった。
俺、何か悪いことでもしたかな?
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「先生、お世話になりました」
車に乗り込んだ俺たちを見送ってくれている三ツ矢先生に最後の挨拶をした。
「真君、頑張ってください。これからが勝負ですからね」
「はい!わかっています!」
「綾音さん、あなたはとても強い人だ。大変な時、真君を支えてあげてください」
「わかりました。任せてください」
「心さん、あなたの周りには、あなたを大切に思っている人がいます。ですから無理はせず、ゆっくりよくなっていってください」
「は、はい……」
俺たちはそれぞれ、三ツ矢さんに言葉をかけてもらい、車は走り出した。
三ツ矢先生に話しかけられたとき、少しびくついてはいたが、心も返事はできていたので良かったと思う。
こうして俺たちは二日間泊まった病院を後にした。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
14時30分、ようやく俺たちは帰ってきた。
綾音のお母さんはわざわざ俺たちの家まで車で送ってくれた。
ただ、いきなり俺と二人だと心にストレスを与えるのではないかということで、綾音も一緒に車を降りた。
「おばさん、わざわざありがとうございました」
「いいのよいいのよ、また困ったことがあったらいつでも呼んでね」
「はい、わかりました」
「お母さん、それじゃ夜に帰るから」
と、綾音が言うとおばさんは顔をニヤニヤさせて、
「あら、今日は泊まるんじゃないの?」
と言ってきた。
「「ーーーーはっ、はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ‼」」
そういわれて俺と綾音は驚きのあまり叫んでしまった。
「ちょ、何言ってるのお母さん!」
「あら、昔はよくお泊りしてたじゃない」
「それって小さい頃の話でしょ!」
「ダメだったかしら真君?」
と、問い掛けられてしまった。
「い、いや、ダメってことはないですけど、その……あんなことがあったあとなんですから、家族でいたほうがいいんじゃないですか?」
そう答えた。
勿論泊まってもらえるのであれば心のことについてもいろいろ助かるのでありがたい。
でも、綾音だって被害者なのだ。
きっと家族といたいに違いない。
そう思っていたら、おばさんが
「真君、あなたは本当に優しい子ね。自分のことだけじゃなくて、ちゃんとこの子のことまで気にかけてくれている」
と、答えた。
ーーーーなんだか少し照れ臭い。
「い、いえ、そんなこと」
「そんなことあるわよ。でもね、少しだけ間違いがあるわよ」
「間違い、ですか?」
「ええ、そうよ。この子にとって、最も落ち着けるところは、あなたのいるところなの。だからこれはお願い。このゴールデンウィークの間、この子を泊めてあげてほしいの。私のためにも、何よりこの子のために。お願いできるかしら?」
綾音にとって落ち着けるところは、俺のいるところ。
ーーーーそう言われると、さっきよりも照れ臭い。
「そうですね……綾音は、それでいいのか?」
ここで俺は綾音に問い掛けた。
本人の意見を聞かなくては、答えようがない。
「えっと、ーーーーできれば、泊まりたい、です」
そう綾音は答えた。
なら残った問題は、
「心、そういうことなんだが、綾音を泊めてやってもいいかな?」
そう、心だ。
心のためにやっていることが、逆に心を苦しめるかもしれない。
それだけは絶対に避けたかった。
心が嫌だっと言ったら、申し訳ないが綾音には帰ってもらうことになる。
しかし、そんな心配は無用だった。
「う、うん、もちろんいいよ。そのほうが、いい」
心は体を震わせながら、俺に答えた。
俺としゃべってこの怯え方なのだ。
やっぱり綾音にきてもらえると助かるな。
「わかった。じゃあ綾音、今日からしばらく、うちに泊まってくれないか?俺たちのためにも」
そう綾音に問い掛けた。
綾音は俺に満面の笑みを向け、こう答えた。
「ーーーーーーはい、よろしくお願いします」
こうして綾音が俺たちの家に泊まることになった。
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