第十一話 「決意と感謝」
気が付いたらPV8800越え、ユニーク2700越えをしていました!
本当にありがとうございます!
それでは、本編のほうをお楽しみください。
朝、目が覚めた俺はすぐに心達の病室へと向かった。
すると、すでに綾音が起きていた。
「おはよー、真」
「おお、おはよう」
「よく眠れた?」
「ああ、しっかり寝たよ」
「そう、ならよかった。――――でも、心ちゃんがまだ……」
「心……」
そう、心はまだ目が覚めないでいた。
俺は心のいるベッドのそばへ行き、手を握った。
すると、
「っ、う、うーん……あれ、お、にい、ちゃん?」
――――――ああ、どれだけこの時を待ち望んだことだろう。
ついに、心が目を覚ました。
あまりの嬉しさに、俺は握っていた手をさらに強く握った。
「心っ!」
「ヒっっ!」
――――それはあまりに唐突な出来事だった。
心は俺から逃げるかのように手を振り払い、ベッドの端で体を震わせた。
「心……」
「お兄ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい……」
そう言って心は泣き出してしまった。
このままではいけないと判断した俺と綾音は、ナースコールをした。
すぐに担当医の三ツ矢さんと看護師さんが部屋に来て心の様子を見ていた。
すると、少し心と話をしたいとのことだったので、俺と綾音は俺の部屋へと向かった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「大丈夫、真?」
「あ、ああ」
「げっ、元気出して!とりあえず、心ちゃんが目覚めたからよかったじゃん」
「あ、ああ」
「まこと!」
「あ、ああ、――――すまない。さすがに今回は参ったよ……」
「真……」
「実は昨日聞いていたんだ。心は精神的に異常が起きるかもしれないって。まさか、心に限ってそんなことって思ったよ。――――でも、現実は甘くないもんだな……」
「でっ、でもまだ何かあるって決まったわけじゃ――――」
「お前も見ただろ、あの時の心は間違いなく怯えていたよ。――――ははっ、あの時の俺を見たから、怯えたのかな……」
そう言って俺は自傷するかのような笑みを浮かべた。
「そんなことない!」
それは突然のことだった。
綾音が俺を、抱きしめた。
「綾音……」
「そんなことはないよ。だって真は、心ちゃんを助けるために頑張ったんだもん。そのことは心ちゃんはきっとわかってくれてるはずだよ。だから、信じて待とうよ、真」
「綾音……。ありがとう。なんだか俺、お前には助けられてばかりだな」
「ううん、そんなことないよ。私こそ、助けてくれてありがとう」
そう言って綾音は微笑んだ。
その綾音の笑顔に、俺は救われた気持ちになった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――――そしてしばらくすると、三ツ矢先生が俺の部屋にやってきた。
「先生っ、心は、心は大丈夫なんです⁉」
「落ち着いてください。今から説明しますから。」
そういわれて俺は一度深呼吸をした。
(そうだ、今は落ち着かないと)
「すみません、取り乱しました。――――それで先生、心はいったいどうなったんですか?」
俺がそう問いかけると、三ツ矢先生は深刻な顔つきで話し始めた。
「真さん、心さんは心的外傷後ストレス障害、つまりPTSDになってしまったと思われます」
――――――――――俺は先生の言葉を理解するのに、少し時間を要した。
「PTSD、ですか。――――聞いたことはありましたけど、まさか、心が……」
「そしてその結果、おそらく男性恐怖症になってしまっているのでしょう。私が心さんに話をしようとすると、とてもおびえた状態になっていましたから。もちろん女性の看護師に話をしてもらったので、心さんに必要以上のストレスは与えていませんので」
「心のことを配慮していただき、ありがとうございます。――――先生、心は、このまま一生、男性恐怖症になったままなんですか?」
「いえ、そうとは限りません。PTSDは時間がたてば治ることもあります」
「ほ、本当ですか!」
「しかし、治らない、ということもあります。そのことはどうか覚悟をしておいてください」
「そう、ですか……」
治るかもしれないと言われて喜んだのも束の間、残酷な現実を突き詰められた。
(このままじゃ心は、一生、男に対して恐怖心を持ったまま生きなくてはならないのか?)
そう思ったとき、このままだともしかしたら一生、心は俺に対しても恐怖心を抱いてしまうんじゃないか、と思った。
その時、俺は何とも言えない恐怖を感じた。
このままずっと、俺としゃべるのを嫌がってしまうのか?
このままずっと、俺と同じ家にいるのを嫌がってしまうのか?
このままずっと、俺と顔を合わせるのも嫌がってしまうのか?
このままずっと、俺と遊ぶのも嫌がってしまうのか?
このままずっと……
このままずっと……
このままずっと……
このままずっと……
このままずっと……
このままずっと……
このままずっと……
このままずっと、俺と兄妹でいるということを嫌がってしまうのか?
「い、や、だ……」
「まこと……」
「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、そんなの、そんなの、そんなの嫌だ……」
俺はどんどん悪いほうへと思考を向けてしまった。
心が俺といることを嫌に思うかもしれない。
そのことが俺にはとても受け入れられなかった。
「いやだ、いやだ、いやだ……」
そんな現実は受け入れられない、まるで駄々をこねる子供のようだ。
「落ち着きなさい、真君!今一番苦しい思いをしているのは誰だと思っているんだ!」
そう三ツ矢先生に言われた。
その時俺は、心があの時俺に何と言ったかを思い出した。
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「お兄ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい……」
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ーーーーそう、心は言っていた。
俺に恐怖を抱いてしまったことを、心は悔やんでいたんだ。
(畜生、なんでそんなことに気づかなかったんだ!心が今、どれだけつらい思いをしていると思っているんだ!しっかりしろ俺、俺は心の兄貴なんだろ!)
「ーーー-すみません先生、そんなことに気づかないなんて、お兄ちゃん失格ですね」
「真、そんなことないよ!真は心ちゃんのために頑張ってるじゃない!」
「綾音……」
「だからさ、今回も頑張ろうよ!心ちゃんのことだもん、きっと元気になるよ!」
「綾音ーーーーああ、そうだな。そうだよな。先生、俺に、俺に何かできることはありますか?」
そう言って先生を見ると、先生はとてもうれしそうに俺を見ていた。
「真君、あなたはいいお兄さんだ。覚悟を決めてくれて、私は嬉しいよ」
「先生……」
「いいですか、まずはストレスをなるべくかけさせないことが大切です。しかし、男の人にも少しずつ慣れていかなければいけません。ですから真君から優しく、いつも通りに接してあげてください」
「はい、わかりました!」
「それじゃあ今日もう一日入院してもらって、明日には退院としましょう。真君と綾音さんは昨日と同じ部屋でお願いします」
そうして話が終わった時には、既に18時を回っていた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
先生と綾音が部屋から出て行ったあと、すぐに夜ご飯を頂いた。
本当は心に会いに行きたかったんだが、ストレスを与えるわけにもいかないので、今日はもう寝ることにした。
「しっかりしろよ俺。明日から、心を全力でサポートするんだ」
改めてそう心に誓い、俺はベッドに入った。
(そういえば、ここ最近綾音に助けられてばかりだったな。こんど何かあいつにお礼、しないとな)
そう思って俺はもう一度綾音に感謝し、眠りについた。
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