第九話 「やめろ、やめろぉ!」
「――――くそっ、ここにもいないのかよ……」
俺と綾音は再び二寧坂へ戻って、行方不明になっている心を探していた。
「ねえ、このままじゃ埒が明かないよ」
「確かにそうだな……とりあえず、聞き込みでもしてみるか」
そうして俺達はスマホにあった心の写真を道行く人たちに見せ、聞き込みをした。
「すみません、こんな子を見ませんでしたか?妹なんですけど……」
「うーーん、いや、見てないね」
「そっ、そうですか。ありがとうございます……」
「すみません、こんな子を見ませんでしたか?」
「いやー、知らないなあ」
「分かりました。ありがとうございます」
なかなか目撃者に出会えなかったがしばらく聞き込みを続けた結果、俺達はついに手がかりをつかむことができた。
「――――――ああ、この子なら見たと思うよ」
「っ!ほっ、本当ですかっ!」
「ああ。……確か、三十分くらい前だったかな。あっちのほうで男の子に背負われていたよ」
「背負われていた?」
「ああ、そうさ。男の子が背負いながら走っていったから足でもケガしてたんじゃないかな?」
「そっ、そうですか。……分かりました。ありがとうございます。よし、行くぞ綾音!」
そう言って俺はその人が教えてくれた方へと走り出した。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!すみません、ありがとうございました」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ここか……」
俺達はついに心がいるのであろう廃墟にたどり着いた。
「ねえ真、この場面でこんなこと言いたくないんだけどさ……」
「どうした?」
「どうして、――――――どうしてスマホのGPS機能のこと忘れてたのよ!」
そう、どうして俺はGPS機能のこと忘れていたのだろうか。
そのことを思い出したのは、親切な人が教えてくれた方向へ走り出してすぐのことだった。
そしてそこからは早かった。
GPSを辿り走っていくと廃墟があり、そこでGPSは止まっていた。
(つまり、心はここにいる!)
「よし、それじゃあ行くぞ」
「まって、警察を呼ばなくていいの?」
「そんな余裕はない!」
「っ!」
急に怒鳴ってしまったせいで綾音はかなり驚いていた。
「俺はな、心が行方不明になったって聞いてから、ずっと生きた心地がしないんだ。心が、俺の大切な妹が、行方不明になってるだなんて、本当は今でも信じられないんだっ……」
そう言って俺は今までこらえていた涙をついに流しだしてしまった。
「真……」
「たとえ義理の妹だとしてもな、俺にとってはただ一人の、大切な、大切な、妹なんだ。その妹が今どうなってるのかも分からないんだ。もし心に何かあったら、俺は、俺は……」
「落ち着いて!真!」
そう言って綾音は俺を抱きしめた。
「きっと心ちゃんは大丈夫だよ。こんなに素敵なお兄ちゃんがいるんだもん。きっと真が助けてくれるって信じて待ってるよ。なのに、その真がそんなに取り乱したら駄目だよ。だから落ち着いて。心ちゃんを助けに行くんでしょ?しっかりしなきゃ。だって真は、お兄ちゃんなんだから!」
「綾音……」
綾音の言葉は俺の心にとても響いてきた。
――――――――そうだ、俺は心のお兄ちゃんなんだ!
「そう、だよな。しっかりしないとだめだよな。ありがとうあ、綾音。おかげで落ち着いたよ」
「うん、よかった……」
「だから、そのー、そろそろ離していただけるとありがたいのですが……」
「へっ?――――――――っ!ごっ、ごめん!」
「いっ、いや、別に謝ることじゃないぞ……」
「うっ、うん……」
俺と綾音との間に何とも言えない空気が流れ始めた。
――――――その時、
「きゃあっ!やめてっ!お願いだからやめてよぉ!」
「「っっ!」」
心の叫び声が聞こえてきた。
その瞬間、俺は走り出し廃墟の扉を蹴り開けた。
「大丈夫か、心!」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
扉を蹴り開け、その先に広がった光景に俺は息をのんだ。
床に押し倒されている心。
そして、心を押し倒していたのは、
「――――――哲也ぁっ!」
「おっ、やっと来たのか、お兄さん?」
そう、心を押し倒していたのはなんと、一緒に行方不明になっていた哲也だった。
「お前、心に何をしてるんだ!」
「見たら分かるでしょう?高校生ならさ」
「どうやってここまで連れてきた?」
「簡単なことだよ、スタンガンで軽く気絶させたんだよ」
「お、にい、ちゃん……」
「っ、心!――――――貴様ぁ!」
そう言って俺は哲也に殴りかかった。
しかし、俺はあることを忘れていた。
心の班には、男子が三人いたことを。
「がはっ!」
俺は背後からバットで後頭部を殴られた。
頭がふらふらし立ち上がれはしないものの、何とか後ろを振り向くと、そこには哲也以外の班員二人が立っていた。
「おっ、お前らは、確か……」
「どうもお兄さん、心さんと同じ班の矢田と言います。そしてこっちが同じく班員の堀木です。さて、お兄さんには少しおとなしくしてもらいますよっ!」
そう言って矢田は俺の鳩尾を思いっきり蹴りあげた。
「ぐふっ!げほっげほっ!」
俺は激しく咳き込んだ。
しかし、矢田と堀木は手を緩めることはなかった。
すると廃墟に、隠れていたはずの綾音が飛び込んできた。
「やめろっ!」
綾音の声が響いた瞬間、哲也がニヤついたのが見えた。
その瞬間、俺は綾音に向かって叫んでいた。
「だっ、駄目だ綾音!来ちゃ駄目だっ!」
しかし、すでに手遅れだった。
それまで俺を痛めつけていた矢田が、綾音を無理やり押し倒したのだ。
「っ!やめてっ!」
「いやー、遠足で会ってからずっと思ってたんですけど、貴方、とても可愛らしいですねぇ」
「っ!」
「やめろ!心と、綾音を、はな、せ……」
いまにも痛みで意識が持っていかれそうになるが、俺は何とか堪えていた。
すると、そんな俺に哲也が声をかけた。
「お兄さん、僕達はあなたが来るのを待ってたんですよ」
「なん、だと」
「目の前で妹が犯されるのを見て、あなたはどんな反応をするのかが楽しみですよ」
「哲也、もうヤッてもいいか?そろそろ我慢するのも限界なんだ」
「もうとっととヤッちまおうぜぇ」
「ああ、好きにしな。矢田、堀木。――――それじゃあ、お楽しみといこうかっ!」
「「よっしゃぁ!」」
そう言うとついに三人は心と綾音の服を脱がせ始めた。
「やだ、やめて、やめてよぉ!助けて、助けてお兄ちゃんっ!」
「お願い、やめて、やめてっ!まこと、まことぉ!」
そう言って抵抗する二人。
しかし、男の腕力にはかなわず、服を脱がされあられもない姿をさらしていた。
「っ!やめろ、やめろぉ!」
「はっ、はは、いいですよお兄さん。そのまま妹と幼馴染が犯されるのを見ていてくださいね」
そう言って哲也は心の下着を剥ぎ取った。
「やだ、見ないで、見ないでよぉ……」
「ああ、可愛い。なんて可愛いんだ心ちゃん。――――さあ、もっと僕を感じてよ。手取り足取り教えてあげるからさあ!」
そう言って哲也は心の首筋へ舌を這わせた。
「っ、やだ、やだよ、やめっ、て、っ」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
さっきまで感じていた痛みは感じず、ただ自分の中にどす黒いような感情が流れ込んできた。
「――――――――――やめろ」
気づいた時には哲也を蹴り飛ばしていた。
突然のことに頭が追い付いてないのか、その場にいた全員が動きを止めた。
「――――っ、お前、よくも」
「よくも、だと?」
ついに俺の中の感情が爆発した。
「それは、こっちのセリフだっ!」
そう言って俺は哲也の顔面を殴った。
「ぐはっっ!」
そして倒れこんだ哲也を俺は持ち上げ、鳩尾を最大の力で殴った。
すると哲也は動かなくなった。
どうやら気絶してしまったらしい。
哲也をその場に投げ捨て、俺は次に綾音のいるほうを見た。
「「ひっ、ひいっっ!」」
残りの二人と目を合わせると、二人は急に怯えだした。
しかし、俺はそんなことは気にせずに二人のほうへと向かった。
「……お前らはな、なにがあっても許さねえっ!」
そう言って俺は矢田を殴り飛ばした。
当たり所が悪かったのか、矢田は立ち上がることはなくそのまま気を失ったらしい。
そして最後の一人である堀木を俺は見た。
「お願いします、お願いします、許してください、許してくださいぃ!」
「そうだよな、普通はそうやって助かりたいと願うよな。――――お前らと同じようにな、心も綾音も助けてほしいとお前らに願ってたんだ。でも、お前たちは自分の欲望のために二人を辱めたんだ!そんなお前らを、許すわけないだろぉっ!」
そう言っておれは堀木を殴ろうとした。
「――――――ダメっ、お兄ちゃん!」
そう言って心が俺の背中へ抱き着いてきた。
「これ以上はダメだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんも犯罪者になっちゃう」
「でも、こいつらはお前と綾音を……」
「それでも、お兄ちゃんまで犯罪者になっちゃいやだよ……」
「心……」
心の言葉に従い、俺は振り上げていた拳を下げた。
すると堀木は恐怖からか気絶した。
「まこと……」
綾音はいまだに震えている。
それも当然のことだろう、まだ恐怖心が残っているに決まっている。
そしてそれは心にも言えることだった。
――――心は突然、気を失ってしまった。
「こっ、心、おい、しっかりしろ!心、こころぉっ!」
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