第八話 「旅行に必要なものといえば?答え、妹」
「いやー、食った食った~」
「ほんとにおいしかったよね!」
俺達はバスを降りてからすぐに近くにあったうどん屋さんで少し早めの昼飯を食べたところだった。
「麺がすごく柔らかくてすごく食べやすかったよね!」
「ああ、あの柔らかい麺は癖になるよな。それに薄味なのにしっかりと食べごたえがあって満足だ!」
「うんうん、。……でも、今度からはちゃんと朝ご飯食べてから来ないとだめだよ」
「あっ、ああ。分かってるよ」
「よーーし、それじゃあ京都観光に行こう!」
「ああ!出遅れた分、しっかり楽しもうぜ!」
――――――さあ、遠足を始めよう!
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
五条の街並みを眺め、坂道を上り、俺達は目的地の清水寺へとやってきた。
「ようやく着いたな」
「うんっ!ねえねえ、早く行こっ!」
「ちょっ、分かった!分かったから引っ張るな!」
遠足の前から来たがっていた清水寺に来れたからなのか、興奮気味な綾音に引っ張られ、俺たちは清水寺を見て回った。
「――――――見て見て、ここが有名な清水の舞台だってさ!一回来てみたかったんだよねー」
「ほう、ここが清水の舞台か」
そう言いながら俺は下を覗いてみると、俺はその高さに恥ずかしながらビビってしまった。
(この高さから、飛び降りるのかよ)
「あれあれ、もしかして真、思ったより高くてビビってる?」
「いーーやビビってねえし!なんなら今から飛び降りてもいいしー」
「もー、すぐムキになるんだからー。今時ここから飛び降りる人なんていないよ」
「そっ、そうだよな……」
「さっ、そろそろ次のところに行こっ!」
「ああ、そうだな」
そうして俺達は清水寺を堪能した。
(これこそが日本の心!)
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――――――清水寺を見終わった俺達は二寧坂へとやってきた。
すると、
「あっ、お兄ちゃん!」
そう言って走ってくる我が愛しの妹、心。
「心!本当に会えたな」
「うん!――――――あれ、隣にいるのは幼馴染の綾音さんじゃないですかー」
「あらあら、そういうあなたは妹の心ちゃんじゃない」
「ちがいますー、妹じゃなくて義妹ですー」
「ああ、もうっ!なんでお前らは会うと雰囲気が悪くなるんだよ。それに心!その違いは文章として読んでいる読者の皆様にしか伝わらないぞ!」
「真、あんた何言ってんの?」
まあそんなわけで俺達は二寧坂は一緒に行動することになった。
「――――――ねえねえお兄ちゃん、あのお店いこーよ!」
「まことまこと、あっちのお店いこーよ」
「「むっ」」
なぜなのか未だに分からないが、この二人はあまり仲が良くないようだ。
「おいお前ら、喧嘩するんじゃないぞ!」
「お兄さんも大変ですね」
そう言って声をかけてきたのは、心の友達である空宙乃ちゃんだ。
心と綾音に振り回される俺の心情を察してくれたらしい。
「ああ、全くだ」
「それじゃあさ、お兄さん。あっちのお店に行かない?もちろん、ふ・た・り・で」
前言を撤回させてもらおう、どうやら全く察してくれてなかったようだ。
「いっ、いや、せっかくみんなで行動してるんだからみんなで回ろうぜ」
「あっ、そぷらのちゃんっ!抜け駆けはだめだよ!」
「ふっふっふ、早い者勝ちだよ」
「真、この女は誰なの?」
「あああああああ、もうっ!お前ら落ち着けっ!」
そう言って三人を何とか落ち着かせようとしていた俺に、怒鳴りつけるような声が響いてきた。
「さっきから黙って見てれば、いったい何なんだよお前!」
そう言ってきた声の主は、心の遠足の班員の男達だった。
「お、俺は心の兄の……」
「この人は私の大好きなお兄ちゃんの、上屋真だよ」
――――――――――――――――一瞬、時が止まった。
そう錯覚してしまうような一言だった。
(……待て待て待て待て。いま心はなんていった?お兄ちゃん、いや、その前だその前。――――私の、大好きなお兄ちゃん、て言ったよな?……まじかまじかまじかまじかmじあmzきあmkじ―――――――――おっといけない、今お兄ちゃんは自我が崩壊していたよ)
「まっ、まあ兄貴といっても義理なんだ」
「それでも私のお兄ちゃんに変わりはないよ!」
ああ、俺は今日ここできっと死ぬんだな。
きっと神様が最後に見せてくれている夢なんだ、うん、きっとそうなんだ。
俺の最後は京都、か。
うん、悪くない最後だ……
「――――って、おい!聞いてんのか?」
「っ!あっ、ああ、悪い」
おっといけない、またどこか遠くの世界へ行ってしまっていたらしい。
しかたないだろ!
心が可愛すぎるのがいけないんだよっ!
「とっ、とにかく、俺達は俺達で楽しんでたんだよ。邪魔すんじゃねえよ」
「哲也くん、そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
「ちっ、……矢田、堀木、行くぞ」
そう言って心の班の男子三人は先に行ってしまった。
「ごめんね、お兄ちゃん。私たちも行くね」
「お兄さん、またねー」
そう言って心達は男子三人を追いかけて行った。
「――――さて、それじゃあ、気を取り直して回るか」
「うんっ、そうだね!」
「ん?なんだかお前、機嫌よくなってないか?」
「んー?んふふっ、そんなことないよっ!さあ真、いこっ!」
「ああ、まだまだたのしもーぜ」
そうして俺達は時間ぎりぎりまで京都を堪能した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時間ぎりぎりまで堪能した俺達は時間ぎりぎりにバスが止まっている駐車場に着いた。
そしてバスに乗ろうとしたところでスマホが震えだした。
スマホを開くと、そこには空宙乃と表示されていた。
「もしもし、どうかしたのk『どうしようお兄さん!』……いったん落ち着け。何があった?」
『あのね、心ちゃんが、心ちゃんがまだバスに帰ってこないの』
その瞬間、俺はこの世の終わりかというほどのショックを受けた、が、すぐに正気に戻って空宙乃に話しかけた。
「一緒に行動してたんじゃないのか?」
『そうなんだけど、心ちゃんお手洗いに行くから先に行っててって言ったから先にバスに戻ってきたんだけど、集合時間になってもまだ帰ってこないの』
「嘘だろ……」
『それに、同じ時にトイレに行ったてとりも帰ってこないからほかの男子三人が探しに行ったんだけど、その三人も帰ってこなくて。――――どうしよう、みんな何かの事件に巻き込まれてたらっ!』
「落ち着け!……俺も今から探してみる。絶対見つけるから安心しろ」
『お兄さん……』
「それじゃあ、また何かあったら言ってくれ」
そう言って電話を切った俺は、バスに乗らずにさっき来た道を戻ろうとした。
「どっ、どうしたの真?心ちゃんに何かあったの?」
「――――――どうも、行方不明になったらしい」
「えっ!だ、大丈夫なの?」
「まだ何とも言えない。とにかく俺は心を探しに行く」
「でっ、でもバスが出ちゃうよ」
「それでもっ!」
俺は今まで出したことのないような大声で叫んでいた。
「それでも俺は、心を探すんだ!」
「――――――わかった。それなら、私も行く」
「っ!何言ってるんだ。お前まで探してくれなくても」
「バカ!友達の妹が行方不明になってるのに帰ってなんていられないでしょっ!」
「綾音……」
「さあ、行こうよ、心ちゃんを探しに」
「あやねっ、ありがとう……」
気が付いたら俺は涙を流していた。
それくらい、綾音の存在が大きかったのだ。
「――――よしっ、それじゃあ心を見つけるぞ!」
そうして俺らは先生の制止を振り切って再び京都の町へと走り出した。
「待ってろよ、心!」
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