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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
五章

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フリタウスは語る

 パレードが終わり俺たちは城へと戻ったが、街ではこれからが祭りの本番らしい。酒や食べ物が振る舞われての大騒ぎ。もちろん国の支出だ。ルイニユーキが言うにはこういった国民への還元行事を惜しんではいけないらしい。政権が変わった今が一番大事な時期で、国民の高い支持は維持しておきたいということだ。

 街の飯屋も当然一枚噛んでいて、昼間に配られていたポルポの丸焼きも実は国庫での支払いだった。

 で、俺たちはと言うと、街の喧騒とは打って変わって仲間でこっそりと集まっていた。

 イリアとロミオとアンナとエリしかいない。

 ここは王宮内にあるロミオの部屋だ。


「最近はバタバタしてて忙しかったからな。なかなか集まる機会がなかった」


 口を開いたのはイリアだ。

 ロミオは窓の外へ目を向けた。もうすっかり日が暮れていたが、街の祭りはこれからが本番だ。


「今はみな祭りに目が行ってますからな。内緒話にはちょうどいい」

「これでもまだ多いがな。……これから話す内容は決して書物には書き残さないで欲しい」


 イリアの背中の大剣――フリタウスが言った。

 イリアは黙って大剣を抜き、テーブルの上へと置いた。

 大剣フリタウスはテーブルの上で刀身を淡いピンク色に輝かせた。


「外へ漏らすな、じゃなくて書き残すなか」

「簡単だ。ラルスウェインと言ったか、あの調整官殿の仕事はな、つまりこれから私が話すような内容の書かれている書物を歴史から消し去るということなのだ。口伝えならば問題ない。人の記憶はすぐに風化するし、言い伝えなどというものはどんどん形を変えていくものだからだ。まあこの手の話を進んで言いふらすような者もそうそういるとは思えないが」


 俺たちの沈黙を肯定と受け取ったのか、フリタウスは淡々と続ける。


「まず私やラルスウェインは人間ではない。ではなんだと思う?」

「魔族」


 俺はきっぱりと言い切った。

 周りの視線が集まるのを感じる。


「ほう、その若さでたいしたものだ。古い神話にはまだその名が刻まれているものの、現代に生きるほとんどの人間にとって魔族は、幽霊や化け物と同じ都市伝説程度に思われているのだがな。ではその魔族と人間が三千年の昔には深く交流していた件については知っているかな?」

「なんだって!?」


 俺の知る古文書には遥かな昔に人間と魔族がいたという一文が書かれていただけだ。具体的な年代も、種族間の関係についても書かれてはいなかった。


「それが歴代の調整官たちが長い年月をかけて消していった過去なのだよ。当時は人間も魔族も時に争い時に友として一緒に暮していたのだ」


 この場の全員が息を飲む。

 語られているのはこの場の誰も知らない歴史だった。


「今から三千年前、魔族を統一した魔王は、人間に対して大規模な戦争を仕掛けた。小さく争いながらも微妙な均衡を保っていた人間と魔族の関係はこの戦争を機に一気に崩壊する。力のない魔族は迫害され、力ある魔族は人間を虐殺し始めた。血で血を洗うような地獄絵図が展開されていた。私は親人間派の魔族として力を振るったりもしたが、逆に人間に手ひどく騙されて仲間をことごとく殺された。絶望した私はすべてが嫌になって洞窟の奥に引きこもった」

「その……フリタウスさんの仲間の人って」


 アンナが疑問を口にした。


「人間だよ。当時人間に味方する魔族は少数派でな」


 つまり人間はフリタウスの仲間というだけで同じ人間を騙し討ちにして殺したのだ。しかも当のフリタウスは人間に味方していたにもかかわらずだ。絶望したと一言で言うフリタウスだったが、実際の悲しみ苦しみは俺たちには想像もできないほど深いものだったに違いない。


「戦争は……どうなったの? 人間はどうやって助かったの?」


 エリは我慢できなくなったように口を挟んだが、フリタウスは特に嫌な顔はしない。いや顔は元々ないけれど。ピンク色の輝きをわずかに揺らめかせるだけだ。


「私もちょうど引きこもっていた時期の話で詳しいことはわからないが……」


 次に発せられた言葉は誰の耳にも意外なものだった。


「……勝ったのは人間だ」

「えっ!?」


 エリの驚きも無理はない。

 どういうことだ?

 程度の差こそあれ魔族たちがラルスウェインのような恐ろしい力を持っていたとしたら、人間に勝機があるとは思えない。


「危機に瀕した人間は力を結束させて魔族を押し返した。魔王は大慌てで人間側に和議を持ち掛け、相互不可侵の約束を取り付けて魔の森へと逃げ帰った」


 魔の森というのはアリキア山脈をまたいで西に広がる、人類未踏の地のことだ。ジャングルのような原生林が地の果てまで続いていると言われている。アリキア山脈の西側で人間の領域と呼べるのはシャーバンス国だけだ。異常な海流に阻まれて海路でも魔の森を探ることは出来ない。


「一体どうやって……」


 俺の言葉にフリタウスは小さく息を吐く。


「さあな。わからん。とにかく事実として魔族はとてつもない大敗北を(きっ)した。そして魔王は魔族の者たちに人間世界に干渉することを禁じて逃げ帰った。魔王は逃げ帰った後すぐに永い眠りについたと言われている。私は長いこと引きこもっていたが、どうしても人間を嫌いになれなくてな。こんな姿になってまで人間の側にとどまることにしたのだ。この姿ならば自らの意思で人間たちに干渉することは出来ない。魔王の定めたルールを破ることはないというわけだ。魔族で人間に直接干渉できるのは調整官だけだ」


 フリタウスの口調は、人間ならばやれやれと肩をすくめながら話している感じだろうか。


「じゃあその戦争の記録を消して回っているのはなぜなんだ?」

「それもわからん。単に戦争に負けた事実が恥ずかしかったのか。もう人間とは関わりたくないと思ったのか」


 もしかしたら魔族は、人間のことが怖いのかもしれない。

 俺は浮かんだ考えをぶつけてみた。


「もう一度人間が一つに結束して魔族に戦争を仕掛けないように、とか? 人間同士で争っているのなら、わざわざ力を合わせていた過去を思い出してもらいたくない……みたいな」


 ラルスウェインが記録を消して回るだけでなく、国家間のパワーバランスに対しても気にしている様子だったのは、それが理由かもしれない。


「かもしれん。魔族の脅威がなくなるや人間たちはお互いに争いを始めて、その戦乱の中で記録も記憶も失われていった。調整官の暗躍だけではない。記録の大半は人間自らが忘れてしまったと言っても過言ではないだろう」


 フリタウスの刀身の輝きがフッと小さくなる。


「ふぁぁ……眠い。久々に話し過ぎて疲れた。話はこの辺でいいだろうか? 夜更かしはお肌の天敵――刀身が(くも)る」


 肌荒れを気にする剣というのもおかしな話だが、突っ込む者はいなかった。


「ありがとうございました。貴重なお話、感謝いたします」


 テーブルの上に向かって深々と頭を下げるイリア。

 俺はどうしても気になって呼び止めた。


「待ってくれ、最後に一ついいか?」

「なにかな?」

「お前、男か? 女か?」

「女だ」

「「ええええええーーーーーっ!?」」


 アンナとエリの絶叫がきれいに重なった。

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